第247話 祭り
ラピスの懐妊が分かってから8か月後、元気な男の子が生まれた。
その連絡は早速、エルバンテ公のところに入る。
「婿殿、婿殿、どこじゃー、孫はどこじゃー」
列車でやってきたエルバンテ公は、俺たちの自宅の中を走り回る。
「義父上、こちらです」
「おおっ、こっちか。どれ、孫の顔はどうかの」
エルバンテ公が、ラピスと一緒に寝ている子供の顔を見る。
「ほお、かわいいのう。で、名前は何と言うのじゃ」
「先ほど生まれたばかりなので、まだ決めておりません」
「おお、そうか、そうか。なるべく早く決めて貰わねばのう」
また、名付けのプレッシャーが圧し掛かる。
適当に、タロウとかにしようか。
この世界、男の子だろうが、女の子だろうが後継ぎになる事ができる。
だが、やはり女の子の場合、親が重圧を気にするのだろう。男の子が居るなら男の子を後継ぎにし、女の子は嫁に出すのが普通だ。
女の子が後継ぎになると婿を貰い、その婿が政治を行う事になる。
女性領主のまま、政治を行う事は少ない。
婿が政治を行うようになると、親としては、自分たちが死んでから、その土地を荒らされるような気がして落ち着かない。
なので、男の子が産まれるのと、女の子が生まれるのでは、やはり喜び方が違うのは皮肉な話だ。
そして、それはエルバンテ公とて例外ではない。
その日、俺はエルバンテ公に呼ばれた。
てっきり、子供の名前の事かと思ったが、行ってみると真剣な顔をしている。
「義父上、ご用件は何でしょうか」
エルバンテ公と向かい合って座る。
「実はな、引退しようと思っている」
「な、いきなり、何を?」
「いや、これはアヤカたちが生まれた時から、いつ引退しようかと思っていたのじゃ。今は男の子が生まれた時なので、丁度良いと思ってな」
「い、いや、それでもいきなり過ぎます」
「それでも、明日、引退するという訳ではないぞ。1年後にしようと思う。孫のちょうど1歳の誕生日じゃな」
1年後、俺は正式にエルバンテ領の領主となる。
そうなると、キバヤシ領をどうするかだ。
いっそ、シュバンカに領主になって貰おうか。
1週間が過ぎ、名前を発表する時がきた。
「それでは発表します。この子の名前は『タケル』です」
名前が決まったことで、エルバンテ領とキバヤシ領はお祭り騒ぎになった。
1か月後にショッピングセンター広場でお祭りを催す事が発表され、その日はショッピグセンター内の飲食は、全て無料となる事も決まった。
あっという間に月日は過ぎる。お祭りまで、まだ3日もあるというのに、トウキョーの街中は観光客で溢れかえっている。
ホテルや旅館も既に満室だし、トウキョーに宿が取れなかった者はエルバンテ公都に泊まっている。
それでも、泊まれない人が溢れ、友人、知人の家に泊めて貰っている人もいる。
キバヤシコーポレーションも各企業が持っている社宅を提供するだけで足らず、体育館や集会場、果ては会議室まで提供している。
それでもまだ人が増えるので、空き地にテントまで立つ始末だ。
そして、当日がやってきた。
今日はキバヤシ領とエルバンテ領を結ぶ船は24時間稼働する。
それは列車も例外ではなく、エルバンテとトウキョーを結ぶ列車は24時間、ひっきりなしに行き来している。
祭り会場は、ショッピングセンター内にある競技場で行う。
午前中、競技場のステージでは素人による出し物が繰り広げられ、観戦者によって優劣を争っている。
そして、午後からはいよいよ本番だ。
まずはいつもの通り、大道芸人から始まる。
今回は、鐘3つから鐘6つまで開催されるので、芸人の数も多い。
さまざまな分野の芸が披露され、見ている方も注目だ。
大道芸人の次は、サーカスが始まる。
こちらはいつもの通り、学院の体操クラブが中心になって行っている。
だが、いつもと違うのは新体操が混じっている事だ。
新体操と言っても、こちらの世界では新体操ではなく、ダンスという名で呼ばれている。
あれがダンスになるとかなり体力を使うかと思うが、何故かそういう名になってしまった。
そして、サーカスが終わると、ライブの時間だ。
サーカスとライブの間に1時間程の休憩が入る。
これは飲食の時間を設けているためだ。
休憩とはいえ、ステージ上では、何かしらの話をしている者がいる。
現代でいえば、漫才みたいなものだろうか。
休憩時間なので、誰も聞いていないかと思えば、面白い話には観客も増えている。
こうやって、面白いグループは仕事に繋がって行くのだろう。
それは現代も同じだ。
その話の中で観客の一番興味を引いたのは、ハルロイド領平定、ヴェルサルジュ平定の事だ。
やはり戦いの話は、否が応でも盛り上がる。話し手も、盛り上がるように話を盛る。
だが、紛争なんて、死人や怪我人が出るばかりで良い事はない。話し合いで解決できるならそれに越した事はない。
しかし、現実として全てが話し合いで解決なんて無理だ。もし、その方法があるとするなら、片方の武力が強大な時だけだ。それがほんとうに話し合いなのか。単に脅しただけではないのか。
紛争なんて勝った方が正義なのは、過去の歴史から証明されている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます