第227話 パーシェリ

 ヤマトの最初の寄港地はパーシェリだ。

 パーシェリはキバヤシ不動産がリゾート開発中であるが、その中核となるホテルとビーチは完成しており、宿泊もできる。

 港はヤマトクラスの大型船が寄港可能な大きさがある。

 もちろんリゾート施設としてでなく、外洋への中継地としての役割も持っている。

 パーシェリ開発は聞いていたが、俺も見るのは初めてだ。

 話には聞いていたが、これほど大掛かりにやっているとは思わなかった。

 この世界にはエレベータがないので、建物を高層にすることはない。そのため、ビルといってもせいぜい3階建までだ。

 そのため、このホテルパーシェリも2階建なのだが、その分、横幅がある。

 正面玄関は中央にあり、その左右に建物がある。聞くと奥にもあるとのことだ。

 造りも丁寧で、『ラッフルズホテル』を思い出してしまう。

 支配人のジャーレンという男性が出迎えてくれた。

 ジャーレンは獣人ということだが、見た目は人族と変わらない。

「ジャーレンさんは獣人ということですが、何族なんでしょうか?」

「私は猿族です。人族と見た目は変わりありませんが、この顔が赤いのと尻尾があるのが人族とは違います。

 実はトウキョーやエルバンテ公都にもたくさん仲間がいるのですが、人族と変わらないため、あまり、話題にはなりません。

 脱いだら尻尾があるので、直ぐ分かるんですけどね」

「ホテルとビーチ以外にも開発中なんですよね」

「ここ、パーシェリはサン・イルミド川の河口になるので、淡水と海水が交じり合っています。そのため、魚の種類も豊富ですので、海洋関係の開発に力を入れています。それと、淡水サンゴと海水サンゴが一緒に見れる群生地でもあるんです」

 淡水サンゴ?そんなものがあるのか?思わず『ヘー』ボタンを押してしまいそうだ。

 夜になり、就寝という時になったが、子供たちが侍女の部屋に行ってくれない。

 エリスとミュは昼間から夜の事を思って目をランランとさせていたが、子供たちが侍女部屋に行ってくれないと事が始まらない。

 子供たちは、父親と母親と一緒に来れたのが嬉しくて、離れたくないのだ。

 仕方ないので、7人で固まってベッドに入った。

 スイートルームなので、ベッドも広いが、7人ともなるとさすがに広いベッドも狭い。

 寝返りをうつと子供たちがベッドから落ちそうだ。

「ねえ、シンヤさま、ミュ、ラピス、ちょっといいかしら」

 エリスに呼ばれてベッドから出る。

 すると、エリスが魔法陣を広げた。転移するつもりだ。

 気が付くと、トウキョーの自宅の寝室に居た。

「へへへ、では大人たちはここで楽しみましょう」

 折角の旅行なのに、何が悲しくて、自宅で夫婦の共同作業を行わなければならない。

 結局、ホテルパーシェリの部屋に戻ったのは明け方だった。


 翌日、朝食を済ませば出港だ。

 港では、支配人のジャーレンと従業員が見送ってくれた。

 さすがに秋も深まっているので、ビーチに出ている人はいなかったが、それでも宿泊客で半分ぐらいは部屋が埋まっているとのことだった。

 パーシェリを出ると、いよいよ外洋だ。

「これより外洋に出ます。潮の流れが変わるため、船が揺れる場合があります。部屋にお戻りになるか、近くの建物の中に避難して下さい」

 艦内放送が流れたので、部屋に戻り、小窓から外を見る。

 川の水と海の水の色が違うのが見てとれた。いよいよ、外洋だと思った瞬間、船が大きく前後左右に揺れた。

「キャー」

 エリスが俺に抱きついてきた。

 エリスを見ると目が笑っている。

 揺れは既に収まっているのに、エリスが胸を押し付けて来る。

「エリス、揺れは収まったぞ」

「えっと、また揺れるかもしれないので、しっかり捕まっておかなきゃ」

 そう言って、さらに胸を押し付けてくる。

 俺はミュとラピスを見て助けを求めた。

「エリスさま、昼間は我慢して下さい」

 ラピスがエリスを引き剥がす。

「えー、折角いいとこだったのに」

 全然、いいとこじゃないだろう。

 しかし、外洋に出たからだろうか、船が揺れる。

 まず、船酔いに弱いラピスがダウンした。

 侍女や娘たちもベッドに入って起きてこない。

「ミュとエリスは船酔いは大丈夫なのか?」

「空を飛ぶと空気が揺れるの。その揺れは海なんかより細かくて、複雑だから、空に比べたら気にならないわ」

 他の人も確認したが、大丈夫だったのは空を飛ぶミストラルぐらいで、それ以外はダウンしていた。

 元気なのは船員だけだ。

「ははは、皆さんダウンしましたか。2,3日すれば良くなるでしょう」

 スパローさんが言うが、あと2,3日これが続くのは地獄だ。

 見るとエミリーもダウンしている。

 ここは、いつもの仕返しをしなければならない。

 俺は調理室から生卵を貰ってきた。

「エミリー、大丈夫か。これを飲めば良くなると船員が言ってたから貰ってきた」

 俺はエミリーに生卵を飲ませてやった。

「シンヤさま、こんなに親切にして下さって、ありがとうございます」

 フフフ、船酔いに生卵、小学校の遠足で車酔いする必殺技だ。思い知れ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る