第222話 帰着
出発するときは暑い夏の日だったが、帰って来た今日は、既に秋風が吹いている。
連れて来た難民については、官僚たちにその処置を頼んで、俺たちは公主邸で旅の垢を落とした。
「「「ママ、パパ」」」
アヤカたち3姉妹は、かなりしっかり話せるようになった。
それもそのはず、もう3歳だ。かなり、しっかりした言葉を話す。
「よっこらしょと」
俺は3人をまとめて抱え上げる。
3歳とはいえ、3人となるとかなり重い。抱き上げたが、直ぐに降ろしてしまう。
すると子供たちはまた抱っこを強請るので、次は一人ずつ抱き上げる。
「ほら、アヤカどうだ」
「アスカだよ」
「そうかごめんよ。こっちこそアヤカだな」
「違うよ、ホノカだよ」
「ごめん、ごめん、可愛い娘は区別がつかないんだよ」
嫁たちがジト目で睨む。
そんな目で睨まれたって、3つ子だから、みんな同じに見えるものは仕方ない。
嫁たちは、どうやって区別しているんだろう。
キバヤシ領主邸に1泊してから翌日、キバヤシ領を出発し、トウキョーにある自宅を目指す。
「お館さま、私たちもお供してよろしいでしょうか?」
見るとマシュードたちとその家族、それにミストラルたちだ。
アシュクは学院に入学するからいいとして、その他の人はとりあえず、キバヤシ領で身の振り方を考えてからでも遅くない。
「まずはキバヤシ領でいろいろと技術を身に着けて、それからゆっくりと身の振り方を考えてはどうですか?」
「いえ、私たちはお館さまについて行くと決めました。どうぞこき使って下さい」
マシュードが代表して言う。
「私は、まず夫が手に掛けた相手の方に謝りたいと思います。身の振り方を考えるのはそれからです」
俺は困ったという顔をしていると、アリストテレスさんが、
「いいではありませんか、一緒に連れて行かれては」
「は、はあ……」
サン・イルミド川を渡る船の上で、エルバンテに渡る全員が、今更ながら顔を合わせる。
「お館さまのご婦人方は、美しいという噂を聞いていましたが、本当にお美しい」
マシュードがエミリーたちに話しかける。
エミリー、マリン、エミールは笑っている。
「マシュード、その3人は偽物だ。本物の嫁たちはこっちだ」
エリス、ミュ、ラピスがベールを取る。
「「「「「ええっー」」」」」
「こっちはエミリー、侍女長をやっている。剣の腕はアシュクでは相手にならないだろう。
で、こっちはマリン、猪牛と戦った一人だ。一番最後がエミール、エミールの剣の腕も確かだ」
「で、では、3人とも独身なんですか?」
30代で独身のシノンが聞いてきた。
「私とマリンはお館さまとの結婚が決まっているけど、エミールだけは相手がいないわ」
「よ、よし」
シノンが拳を握りしめた。
だが、シノンよ、エミールは女装しているが、中身は男だ。
「エミリー、いい加減な事を言うな。誰が嫁入りが決まっているんだ」
「えっと、もうそろそろいいんじゃないでしょうか?」
「「「ダメです」」」
嫁たちが却下した。
そんな話題で盛り上がった船だったが、ようやく船がエルバンテ港に着岸した。
着岸した隣にはヤマトが停泊している。
「おかえりなさい、エリスさまー」
船員がエリスに向かって大声を出すと、他の船員も甲板にやって来た。
船員たちは俺たちに手を振り声を掛ける。
しかし、俺たちに続いて船から降りて来た人物を見て、みんなが黙った。
それは、ミストラルだったからだ。
「会長、その鳥人はクアイテッドを殺した、アセンの仲間ですかい?」
ミストラルがヤマトの船員たちの方を見るが、その場で深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。アセンは私の夫です。私たち親子が悪いやつらに捕まっていたため、指示に従わざるを得なかったのです。
それでも人殺しは人殺しです。謝って済むものではありませんが、本当に申し訳ありませんでした」
ヤマトの甲板に居た船員たちが黙った。
そこにサージュさんが出てきた。
「なんだい、仲間を殺したのは旦那の方であって、この奥さんと娘じゃないじゃないか。それなのに奥さんが謝ってんだ。それを受け止めるっていうのが、川の男の懐の深さというもんじゃないのか」
「……」
「たしかに、姉さんの言う通りだ。しかし、昨日まで笑い合っていた仲間が今日はいなくなったんだ。船を家と思っている船乗りたちにしてみれば、身を斬られる思いなんだ。
だが、その奥さんの言い分は分かった。俺たちはこの件については、いっさい関わらない事にしよう。なぁ、みんな」
ヤマトの甲板に居た船員が同意するように頷いた。
「ありがとうよ」
サージュさんがミストラルの背中を押して、ヤマトから離れていった。
俺たち家族は改造車ではない、普通のキチン車に乗って自宅に向かう。
改造車はジェコビッチさんが御者をし、俺を除いたアリストテレスさん、サージュさん、エミールが乗ってトウキョーに向かった。
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