第221話 弟子入り
「……」
応援にと思って来た、腕に覚えのある集団からは声も出ない。
「俺たちの出る幕はねぇ」
「すげー、すげーよ」
「ミサイルや大砲なんていらないじゃないか」
「この人たちだけで、領土の一つぐらい楽に取れるぞ」
「7頭も狩っちゃってどうするの?」
「エリス、カイモノブクロってどれくらいある?」
「空いてるのは3つね。1頭はここで昼食用に解体して、3頭は持って行くとして、残り3頭は勿体ないけど、置いておくしかないわね」
1頭を人質だった男たちが解体し、それを女性たちが料理していく。
猪牛は大きいので、カイモノブクロには1頭しか入らない。
しかし、それでもしばらく食料の心配はしなくて良くなった。
魔石は7頭分回収した。
「シンヤ兄さん、助けて下さい」
「何だ、ホーゲン、どうした?」
「アシュクさんが弟子にしてくれって、聞かないんです」
「僕はあの猪牛との戦いを見て思いました。ここはホーゲン師匠に弟子入りするしかないと」
「いや、僕はまだ学生だし、弟子なんで持てる身分じゃないから」
「そんな事、言わずにお願いします」
「シンヤ兄さん、どうにかして下さい」
「アシュク、エルバンテに行けば、学院がある。まずはそこに入り、武術を磨くというのはどうだ。
ホーゲンやポールもみんな学院で鍛えたからここまで強くなった。ホーゲンに弟子入りするより確実だと思うが、どうだ」
アシュクはしばらく考えていたが、
「分かりました。学院で鍛えて、それから弟子入りすることとします」
ホーゲンに弟子入りすることは、間違いなさそうだ。
夕方、ミストラルが見つけた村に入った。
早速、村長に会い、事情を説明する。
村長からは、この村の事も聞く。
この村はヴェルサルジュ領に属してはいるが、役人も常駐していないし、税も納めていないらしい。
自給自足でやってきたそうだ。
村には少しの牛と山羊、それに畑があった。
「申し訳ないが、一晩場所を貸して貰えないでしょうか。これはお礼になります」
俺は猪牛の肉半頭分を差し出した。
「こ、これは猪牛の肉、ラフランテ湖の道は猪牛の群れが住み着いて通れないはずだったが、これはあんたたちが殺ったというのかね?」
「そうです。7頭ほど退治しました。これは持って来れた分です」
猪牛の肉を見て、村人たちは快く宿泊を許してくれた。
村長の話によると、この先にラフランテ湖から流れ出ているラフランテ川があり、そこが国境になるそうだが、川幅もあり徒歩では渡れないらしい。
渡河のための船もないので、ここからはかなり下流の「バルサロ」という港町まで行く必要があるそうだ。
翌朝、村を出発した俺たちは、ラフランテ川を南下し、一路バルサロの街を目指す。
ところどころ、小さな川はあるが、渡れないほどではない。
アロンカッチリアさんも居るので、小さな川は土魔法で川に橋を架けて渡る事ができた。
そして、3日後、俺たちはバルサロの街に着いた。
早速、渡河の船の手配をするが、船の数も少なく、しかも小さいので全員が渡るのに丸1日を要するとのことだ。
俺たちはその日の夕方、ワンレイン領の港街、イルガに入り入領の手続きを行う。
「シ、シンヤ・キバシヤさま、し、しばらくお待ちを…」
直ぐに奥から小太りの禿げた男が出て来た。
「こ、これからは当兵舎の兵士がお供致します」
「お供って、どこにお供して頂けるのですか?」
「公都でございます」
「公都?公都に行く予定はありませんが…」
「いえ、シンヤ・キバヤシさまが来られたら、ぜひ公都へお連れせよとのご領主さまとジルコール将軍からの伝令が届いておりますので、一緒に来て頂かなければ我々が困ります」
「我々は難民の移送中です。とてもご領主さまにお会いしている時間はありません。日を改めてお伺いする事でいかがでしょうか?」
「いえ、そうなると我々が叱責されます。どうかここは公都へお越し下さい」
埒が明かない。
「ミスティ」
俺はミスティを呼んで耳元で囁く。
「では、この子が相手をしますので、もう一度お話下さい」
ミスティが魔法をかける。
「だからですね。ああ、はい、仕方ないです。ここを南西に行くと2日ほどで、国境の街メセドに着きます。そこを越えれば、隣国ビフサラドになります」
ビフサラドは、サザンランドに行くときに通った領土だ。
ビフサラドを北上すれば、モン・ハン領に着く。
「分かりました。ありがとう」
俺たちは、直ちに隊列を出発させたが、許可を出した長官を兵士が怪訝に見ていた。
2日ほどで到着するとの事だったが、キチン車なので、1日半ほどでメサドの街に着く。
ここで、時間をかけていては、ワンレインの軍隊に追いつかれる懸念があるので、さっさと通過して、ビフサラドに入った。
ビフサラドに入り、2日ほど進むと見たことがある道に出くわした。
サザンランドに行く時に通った道だ。
俺たちはそこから北上し、モン・ハン領に入る。
モン・ハン領でエルハンドラたちと別れ、やっと俺たちは懐かしいキバヤシ領に戻ってきた。
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