第216話 タウロー伯爵
風呂に入り部屋でくつろいでいると、執事が夕食を告げに来た。
「アリストテレスさん、ここまでは何もなかったが、どうでしょうか?」
「夕食には気を付けましょう。毒を盛られている可能性もあります」
兵士たちを除いた全員で食事会の場所に行く。
兵士たちにも食事とかには気を付けるように予め言っておいたので、今頃は持参の夕食になっているだろう。
俺の横にはダミーの嫁たちが座る。
その後ろには、侍女に扮した本物の嫁たちが就く。
エリスが、ダミー嫁の世話をするようにしてこっそり言う。
「このスープに痺れ薬が入っているわ」
「ミント」
俺が言うとミントが幻惑の匂いを出して、この場に居る相手方を眠らせた。
それを見た俺たちはスープを相手の物と入れ替えた。
「よし、ミントokだ」
ミントが魔法を解く。
「それでは、まずはスープからいかがかな。ヴェルサルジュは海が近いので、魚介のスープになっておる」
全員が一口、二口スープを啜る。
カラーン。
タウロー伯爵が、スプーンを落とした。
それが合図かのように、タウロー伯爵の妻、息子、娘たちもスプーンを落とした。
「うっ、ぐっ、な、何をした?」
「何をしたとは失礼な。何もしておりません。大体、このスープはそちらで調理されたもの。我々が知る由もありません」
「うっ、ぐうう」
全員が床に這い蹲っている。
その時だ、食事の会場に武装した集団が入ってきた。
全員が黒い服装に、黒い覆面をしている。
剣を出したと思ったら、侍女たちに斬りかかってきたが、スカートの中に隠していた剣を取り出して、応戦する。
ダミーの嫁たちにも斬り掛かるが、こちらも剣を出して応戦する。
「フッ」
「フッ」
ミスティとミントの吹矢だ。
黒装束の二人が倒れる。
しかし、剣の腕は相手の方が上だ。
俺たちは徐々に押されて壁際に追いやられた。
「あきらめろ、剣を捨てれば命だけは助けてやる」
男の声がした。
黒装束の男たちの後ろから、リーダーと思われる男がゆっくりと歩いてきた。
俺がミントとミスティのお尻を押す。
俺の意図が分かったのか、ミスティとミントが魔法を出した。
ミントとミスティの魔法は混戦となると、味方にもかかってしまうため、使えないが、このように2つに分かれるとかけ易い。
黒装束たちが、うつろになってきた。
「まずは、覆面を取って貰おう」
「あっ、宰相」
イネミティバで俺たちを襲って来た、5人の男たちの一人が言う。
全員が覆面を取ると、全員が老人だった。
老人ばかり50人程居るだろうか。
どうやら、イルミティバの倉庫街で老人にされた、高位の兵士たちのようだ。
「では、タウロー伯爵一家を連れて地下牢に行け。その地下牢に全員が入るんだ」
そこに騒ぎを聞きつけたオイキミル隊長たちも来た。
「隊長、この家の執事、侍女、料理人を全て地下牢に入れてくれ」
兵士たちが、全員を連れて地下牢に連れて行った。
オイキミル隊長と兵士たちが地下牢から上がってきたが、今度は女子供を連れてきた。
「オイキミル隊長、その人たちは?」
「どうやら、捕らわれていたようです。話を聞くと、夫たちは先のハルロイド領の内紛に行ったようです」
リシュジルと俺たちを襲ってきた兵士たちを連れてきたら、抱き合って泣いている。
どうやら、彼らの家族だったようだ。
「キバヤシさまの言われる通りでした。我々はバカだった。これからはキバヤシさまに忠誠を誓います」
5人の兵士とその家族が跪いて言う。
「お前たち以外で、人質に取られていそうな人たちは居るか?」
「軍隊にとらわれている獣人たちが居ます。彼らは兵士の宿舎に軟禁されており、常に監視されている状態です」
「何人ぐらい、捕らわれているか分かるか?」
「そこまでは分かりませんが、恐らく50人は下らないかと思います」
「何故、そう思う」
「宿舎1つ丸ごと軟禁しているのを確認しています。宿舎に軟禁できるとすれば50人から100人ぐらいかと思います。
50人を下回れば、宿舎の半分で済む訳ですので、まるまる1つを監視する必要はありません」
「それで、兵士たちはどれくらい居る?」
「先の紛争で残った者たちですが、高位の者はおりません。人数だけなら5000人ぐらいです」
「そのうち、何人が警備に就いている?」
「捕らわれている宿舎があるところは、300人の駐屯地ですので、最大それぐらいかと。後、演習があれば、兵士が宿舎を空けるので半分くらいにはなります」
「その演習はいつある?」
「はい、ちょうど、明日あります」
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