第217話 救出

「アリストテレスさん、早速ですが、明日救出に向かいましょう」

「ですが、女性と子供が100人ですから、逃走用の足を用意する必要があります」

「そうなると車が必要ですね」

 俺たちが悩んでいると、5人の男たちの一人が発言する。

「その駐屯地は資材置き場がありますので、輸送用の馬車があります。それを利用するのはどうでしょうか?」

 ナイスアイディアだ、兵士くん。

「馬車はそれでいいとして、引く方の馬もあるのだろうか?」

 今度はアリストテレスさんが言う。

「そ、それは演習に使用しますので、馬はありません」

 なんてこった、車の方だけあっても仕方ない。

「ご領主さま、我々の乗って来たキチンで引かせるのはどうでしょうか?」

「馬具がありますか?」

「メルゲ爺さんを連れて来て、改造するのはどうでしょうか?キチンの馬具も元々は馬用ですし、見たところ改造もそれほど難しくないと思います」

 それを聞いたエリスが早速、魔法陣を出して転移していった。

 しばらくすると、メルゲ爺さんと弟子3人、それにアロンカッチリアさんがエリスと一緒に転移してきた。

「お館さまは、まったく人使いが荒いわい。いきなりの転移で立ち眩みしそうじゃよ」

 相変わらず、口が悪い。

「何で、アロンカッチリアさんまで?」

「メルゲ爺さんのところに行ったら、一緒に居たから連れてきたの」

 ナイスだ、エリス。アロンカッチリアさんは、ちょっと不満顔だ。


 翌日、駐屯地の兵士半分が演習に出発したのを見計らい、人質救出作戦を実行する。

「大変だ、助けてくれー」

 駐屯地に兵士5人が、駈け込んで来た。

「どうした、何があった?」

「他国の兵士が入り込み、暴動を起こそうとしている。我々は偶然その情報を掴んだところを発見され、敵に追われて来た」

「な、何、それは本当か?」

「ああ、すでに3人斬られた。生死は不明だ」

 そこにオイキミルが率いるキバヤシ兵士10人程が現れ、剣を抜いた。

「て、敵襲だ。敵襲」

 駐屯地に警戒の笛が、鳴り響く。

「ピー、ピー」

 宿舎から兵士が出て来て、その数は徐々に増えて行く。

 追って来たキバヤシ兵士も30人程に増えている。

「どこの領地の兵士が知らんが、情報が必要だ。なるべく生かして捕らえろ、抵抗するなら殺しても構わん」

 隊長らしき男が言う。

 その時、ミントとミスティが前に出て、魔法をかけると集まった兵士たちが脱力し、地面に座り込んだ。

 しかし、ミントとミスティの魔法は限定的だ。100人の人間全てを戦闘不能にする事はできない。

 取り敢えずは30人程が魔法にかかっている。

 このため、ミスティが幻覚の魔法を使い、30人を操り、相打ちをさせる。

 その戦闘にキバヤシ兵士も参戦し、キバヤシ側60人対駐屯地側70人の戦闘になった。

 その間にもミスティは相手方の兵士に魔法をかけ、こちらに引き込んでいるので、キバヤシ側の兵力は増えている。

 駐屯地の正面で戦闘が開始されたのを見計らい、俺たちはメルゲ爺さんと弟子たち、それに30羽のキチンを連れて、馬車小屋へ忍び込んだ。

 メルゲ爺さんたちが、小屋にあった馬具を片っ端からキチン用に改造していく。

 改造が終わった馬具から、キチンに取り付け、車と繋いだ。

 そこへ、獣人を救い出したミュが帰ってきた。

「みなさん、この車に乗って下さい。狭いかもしれませんが、我慢して下さい」

 獣人たちはキチン車に乗り込む。やはり、女子供が多い。中には老人も居る。

「よし、これで全員だな」

「待って下さい」

 ミュが獣人を連れて走ってきた。

「地下牢に居るのを発見しました」

 見ると黒い鳥人だ。

 俺たちを襲ってきた、アセンの家族かもしれない。

「お前たちはアセンを知っているか?」

「アセンは夫です。夫を知っているのですか?」

「彼は人を殺した。その罪で今、我々が捕えている」

 アセンの妻と思われる鳥人は、顔を覆って泣き出した。

「泣いている暇はない。今は脱出する事だけを考えるんだ」

 100人もの人を5輌の車に分散させた。

「メルゲ爺さんたちも早く乗って」

「ふん、儂が御するよ」

「爺さんできるのか」

「失礼だな。馬具を作るからには、それなりの練習はやっているんじゃ」

「分かった、お願いする」

 メルゲ爺さんと弟子たちが、4輌のキチン車の御者台に乗った。

 残りの一つには、キバヤシ軍の兵士が乗った。

 ちょうどそこへ正面から斬り込んでいた、キバヤシ兵士たちが駈けつけてきた。

「正面の方はどうにか制圧しました。残りの兵士たちは、近くの駐屯地に助けを求めに行ったようです」

「よし、今のうちに引き上げるぞ」

 オイキミル隊長のキチンを先頭に、2頭立てされたキチン車が街を通り抜ける。

 住民たちは、見慣れないキチン車が通るのを何があったのかと見守るだけだった。

 ギブ要塞に至る道に入った。

「そろそろ追手が来る頃でしょうか?」

 アリストテレスさんもそう思っていたようで、

「この先はギブ要塞ですが、ここで手間取っている訳にはいきません。ここは力技で抜けます」

 一旦、キチンに水を飲ませるために川辺に降り、短い休憩を取る。

 この時に作戦を授ける。

「では、ミュ、ホーゲン、ポールが先発、ウォルフ、アロンカッチリアさん、セルゲイさんは次発を頼む」

 この6人が先頭を切り、殿は俺たちが務める事になった。

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