第199話 川戦

 朝霧が晴れると、視界が良くなってきた。

 遠くの方に船が川を横切るように並んでいる。その数20隻ほど。

「出てきましたね」

 川の両岸の崖上にも数人の人影が見えるとの連絡が、見張りからあった。

「どうやら、崖の上にも待ち構えているようです」

 帆船の弱点は帆だ。これを焼かれると航行ができなくなる。

 なので、相手方は火矢で帆を攻撃してくることが考えられる。

 崖の上に陣取るという事は、当然その戦法を取るだろう。

「第一級戦闘体制」

 船長のジョニーさんが叫ぶ。

 船員たちが急いで駆けずり回るが訓練の賜物か、その動作は少しの無駄もない。

「船長、帆はいつでも畳める状態にして下さい。それと射程に入ったら、右側の崖上目がけて大砲を撃ちます」

 アリストテレスさんの指示をジョニー船長が部下に伝える。

 船員がマストに登り、帆をいつでも畳める準備をする。

 兵士は大砲へ弾込めをしている。

「マリンちゃん、準備はいいかい?」

「はい、いつでもokです」

 見ると下はパレオで上はビキニ姿のマリンちゃんが居る。その周りの兵と船員の鼻の下が伸ているのが分かる。

 もちろん、俺の鼻の下も伸びていますとも。

 ヤマトが上流に向かって進む。相手の方も戦闘態勢を取ったようだ。

 まだ、矢が届く距離ではないが、相手方は近づいて来ようとはしない。

 崖上からの罠があるのだ。それを捨てて出て行く訳がない。

 それにヤマトにはミサイルもある。下手に出ると帆が焼かれる。

「大砲、用意!」

 大砲隊が照準を右側崖上にセットする。

「放てっ!」

 ドオーン、ドオーン。

 ヤマトの両舷に設置された砲身から、崖上を目掛けて砲弾が謝出される。

 砲弾は一直線に崖に飛ぶと崖を崩すと、崖の上に居た弓を持った者たちが川へ落ちていった。

 2発、3発、当たる度に崖の上から人が居なくなる。

「どうだ、まだ矢は撃てそうか?」

 センターマストの上の見張りにジョニー船長が聞く。

「人影は見当たりません」

 船長が俺たちを見る。

「作戦どおりに」

「よし、帆を畳め」

 船員たちが、一斉に帆を畳み始めた。

 それと同時にマリンちゃんが、川へ飛び込んだ。

 帆を畳んだので、川の流れに流されるかと思いきや、ヤマトは船脚を上げて、上流に上がり出した。

 それを見て、相手方も驚いている。

 その理由はヤマトの後方の水がせり上がり、船がサーフィンのように波を滑っているためだ。

 もちろん、その波を造っているのは、マリンちゃんだ。

 マリンちゃんの水魔法は川を逆流させる程の魔法が使えるが、さすがにサン・イルミド川を逆流させるのは無理だ。

 しかし、ヤマト1隻の後方の水を持ち上げるだけなら可能だ。

 ヤマトはサン・イルミド川をサーフィンして、海賊船の横を通り過ぎる。

 海賊船からは火矢が射られるがこちらは帆がないので、船に火矢が届いても水魔法を使える魔法兵が直ちに消していく。

 こちらからも火矢を海賊船目掛けて射かけると、相手方は帆を張ったままなので、帆に火がうつり、火災になっていく。

 それに、こちらには強弓使いのセルゲイさんとウォルフが居る。

 矢の撃ち合いではヤマトにかなう訳がない。

 ヤマトが海賊船の横を通り過ぎ、海賊船より上流側のポジションを取った。

 マリンちゃんが、ヤマトの後方を水圧で押して、ヤマトを反転させる。

「帆を張れ」

 船員たちが直ちに帆を張る。

 海賊船も反転を始める。

「反転する前に仕留めるぞ、ミサイル用意」

 ランチャー台にミサイルがセットされる。

「発射!」

 ミサイルが火を噴きながら飛んで行く。

 海賊船も帆を張っている。帆は大きな的になっている。

 ミサイルは帆に当たると爆発してマストを倒すと同時に帆に火が点く。

 すれ違う時に2隻、今のミサイルで3隻が航行不能になった。

 ミサイル攻撃を受けた海賊船は、横一列から縦一列になって突っ込んで来る。

 先頭の船を犠牲にして、後方の船が仕留める作戦のようだ。

 ヤマトの下に居るマリンちゃんに指示を出す。

「マリンちゃん、敵は予定の行動を取った。それでは頼むぞ」

 マリンちゃんは手を振ると、海賊船目掛けて水中に見えなくなった。

 しばらくすると海賊船の先頭の船の前に渦が出来始める。

 するとその渦に舵が取られて船が進まない。そのうち渦に巻かれた船が2隻、3隻となり、ついには船同士でぶつかり始める。

「ミサイル、発射」

 ミサイルは飛んで行き、渦の中の船に命中し、3隻が火に包まれる。

 それを見た2隻が停止するようにしているが、既に遅い。吸い込まれるように渦に引き込まれ、帆に火が点いていく。

 残りの船は入り江の方に逃げて行った。

 入り江の方を見ると崖の上に人影が見える。近づいたら、火矢を撃たれるだろう。

 逃げていった船は、おびき寄せるための罠と見た方がいい。

「大砲、用意!準備出来次第、崖上目掛けて撃て」

 ドオーン、ドオーン。

 大砲が撃たれ、崖に命中すると、その上に居た弓を持った人たちが川に落ちていく。

「艦首ミサイル用意!」

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