第200話 マリンちゃん

 艦首に設置された甲板の扉を開けると、ランチャー台にセットされた大型ミサイルが姿を表した。

 この大型ミサイルは1発しかない。

 その代り、このミサイルは火薬と油を使っていて、爆発と同時に散りばめた油が燃え出す。現代の気化爆弾のようなものだ。

「目標、入り江の海賊船。いいか、1発しかないからな。良く狙え」

「照準設定完了」

「よし、撃て!」

 砲撃長の声が上がる。

 ヒュー、パーン。

 艦首ミサイルが海賊船の上空で爆発すると辺り一面、火の点いた油が舞った。

 船の帆に火が点き、それが船全体に広がる。

 船から人が川に飛び込み、岸の方に泳いでいく。

「逃げる者は追わなくていい」

 ジョニー船長が声を上げる。

 マリンちゃんが、船の下に来た。

「マリンちゃん、ご苦労さま。上がって来てくれ」

 船の横の扉を開け、縄梯子を降ろす。

「シンヤ兄さま、パレオをください。川に飛び込んだ時にどこかへ行っちゃって、穿いてないんです」

 おおー、なんとセクチーな!!

 いや、いかん。頭がピンク脳になっている。

 ラピスがパレオを投げ入れると川の下でもぞもぞしていたが、パレオを腰に巻いて、マリンちゃんが縄梯子を登り始めた。

 船内に入ったマリンちゃんが甲板に来た。

「ご苦労さま、後はゆっくりしてくれ」

「兄さま、私が穿いてないと思って、変な事考えてません?」

 嫁たちが、鋭い目つきで俺を睨む。

「……い、いや、考えてないから」

「今、間が空きましたね」

 ラピス、お前の読心術には感心するよ。

「シンヤさま、後でお話があります」

 エリスよ、お前の話は聞かなくてもいい。

「ご主人さまのご希望なら、私もここで脱いでもいいです」

 ミュよ、そういう事ではないから。

 周りに居た男共の鼻の下が完全に伸びきっている。

「マリンちゃん、もういいから、部屋に行って着替えてきて」

 マリンちゃんは、水に濡れた青い長髪を揺らしながら、歩き出そうとしたが、濡れた甲板で足を滑らせた。

「きゃっ」

「危ない」

 俺がとっさにマリンちゃんを掴むが、指がビキニの紐に引っかかり、ビキニがほどけてしまう。

「キャー」

 マリンちゃんが慌てて胸を押さえた。

 周りに居た鼻の下が伸びきった男共が、鼻血を出しながら、その場に崩れ落ちていく。

「もう、シンヤ兄さまは見た事があるでしょう。えっちぃ」

 それは寄宿舎の時じゃないか、2,3年前の事だろう。

 俺は甲板上の全員の視線を受けるが、とても右から左へ受け流す雰囲気ではない。

 特に嫁たちの視線が痛い。

「「「後でお話があります」」」

「……は、はい」

 その後、部屋に戻って、嫁たちから集中砲火を浴びた。

 艦首ミサイルは1発だけと思っていたが、2発目は俺の部屋にあったのだ。

 海賊の方については、アリストレテスさんとジョニー船長が対処してくれた。

 沈没した船は3隻、航行不能が12隻、どうにか難を逃れたのが3隻ということだった。

 残った3隻に生き残った海賊とその家族を収容し、シミルドの港に向かわせる。

 山賊、海賊は捕まれば縛り首だ。

 ロープで結ばれた海賊共は不安な顔をしている。

 嫁とその子供たちはロープで縛っていないものの、船倉に入れてある。

 追い風と川の流れもあるので、その日の夕方にはシミルドの港に着いた。

 港にはゴレット将軍が待っていてくれた。

 ゴレット将軍は、このままハルロイド領の統治を行う事になっている。

「ゴレット将軍、海賊の生き残りとその家族80名、それと3隻の船、ここにお渡しします」

「うむ、ご苦労でしたな。流れ着いた者で生きている者が20名ほど居たので、回収して治療しておる。

 亡くなった者で岸に打ち上げられた者は5名だけじゃ。もし、家族で引き取りたいと言う者がおれば、引き取らせよう 」

「将軍、海賊共は直ぐに縛り首にせず、牢に入れて様子を見て下さい。

 中には改心する者も居るでしょう。その者たちは漁師などの労働力に使えば良いでしょう。

 彼らとて好き好んで海賊になった訳ではないでしょうから、仕事があれば真っ当に働く人間も居ると思います」

「なるほど、シンヤ殿の言いそうな事じゃな。分かった、そのようにしよう」

「それともう一つ、ここにキバヤシコーポレーションの拠点を作りたいと思いますが、ご許可貰えますでしょうか?」

「ここに拠点ができれば、経済が発展するじゃろうて。うむ、許可しよう」

 俺は、元ハルロイド領にも拠点を作る許可を得る事が出来た。

 そうすると、製品をエルバンテから輸送してくるのは手間だ。

 しかも、船ではサン・イルミド川の難所を遡上する事ができない。

 アジェラあたりに工場を造りたいところだ。

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