第195話 軍議
戦いには勝った。勝ったが、ジルコール軍のやり方は情け容赦なしだ。
ジルコール軍が追ったならず者たちのうち、生きていたのは300人程で、死者は3000人を超えた。
実に9割が死亡という状況だ。
反対にゴレット将軍の方は5000人の捕虜に、死者は800人である。
キバヤシ軍はミイサルと大砲による攻撃があったが、ミイサルと大砲は戦意を削ぐのが主な目的で、攻撃にはそれほど有効ではない。
攻撃は戦車と騎馬隊による方が大きいだろう。
その結果、ならず者共は死者200人、捕虜500人になった。
全軍でならず者連合の半分に当たる1万人を対処する事が出来たが、まだ半分が残っている。
「はははっ、大勝、大勝。見たか、我々の戦いを。はははっ」
豪快に、ジルコール将軍が笑う。
しかし、それをゴレット将軍は渋い顔で見ている。
ジルコール軍は、戦う意志のない者まで殺していった。
武器を投げ出し、命乞いをしている者も槍で突き刺していったのを見張り台から見ている。
キバヤシ軍の死者はおらず、負傷者は100人程居たが、これらの兵士は、エリスの治療魔法で既に回復済だ。
ゴレット、ジルコール軍の死者は300人、負傷者は700人程だった。
これは最初、相手に押されて崩れたのが大きいだろう。
シミルドの本部で、今後の対応について話し合う。
「いやー、蓋を開けてみれば大勝でしたな、はははっ」
セルゲイさんのような笑いをするが、笑い声に粘りがある印象を受ける。
セルゲイさんのような、カラっとした笑い声ではない。
「その戦いに勝ったのも、キバヤシ軍のおかげではないか、ジルコール将軍」
堪りかねて発言したのは、最初から黙っていた別の将軍だった。
「何!ゼイルよ、お主は、わが軍が情けないとでも言うのか?」
「お主の軍だけではない。キバヤシ軍が、ならず者共を押し返してくれなかったら、我々は敗走だった。
今回の殊勲は、全てキバヤシ軍にある」
ゴレット総大将も頷いている。
「何?我々ジルコール軍は、一度引いて軍を立て直しただけだ。立て直した後を見ろ。事実、俺たちの軍の武功が一番だ」
「ああ、命乞いする者まで殺してな」
「何だと、相手はならず者共だ、生かしておいても後顧の憂いが残るだけだ」
「お主には、何を言っても無駄のようだな」
「ところで、ザンクマン将軍、あの船から撃ってきた飛び道具だが、あれを我々にもくれぬか?」
ジルコール将軍が言って来た。
いきなり大砲や、ミサイルをくれと言われたザンクマン将軍は、固まってしまう。
「えっ、あ、いや、あれはご領主さまの持ち物であれば、私の一存では何とも言えぬ」
「では、我がご領主さまより、そちらのご領主さまに申し入れよう」
「ジルコール将軍、止めておいた方が良かろう」
溜まりかねた、ゴレット総大将が制した。
「キバヤシ殿は、たった4人でツェンバレン領を制圧した強者だ。
下手に手出しすると、お主の領土もツェンバレンの二の舞になるぞ。そんな事は、ご領主さまがお許しになるまい。
それに現在のキバヤシ領は、かつてのツェンバレンとは比較にならないほど活気がある。ご領主さまの統治が、優れている証拠だろう」
「ふん、その4人で制圧したと言うのも眉唾物だな、例えそうだったとしても不意打ちとかしたんじゃないか。
第一、獣人の力を借りなければ、軍にならないではないか」
俺の目の前で、ジルコール将軍が大声で言う。
「口を慎まれよ、将軍」
さすがに見兼ねてゴレット総大将が窘めた。
ジルコール将軍は、腕を組みふんぞり返った。
「えっと、それで軍議は残りの1万をどうするかでしたね」
話が終わったようなので、軍議を進めるために俺が発言する。
「うむ、残りの内5千はそのまま引いて行き、公爵邸に立てこもりました。
残りの5千は行方が分からないので、逃げたのかもしれません」
報告はエドバルドだ。
「立てこもったのなら話が早い。早速、取り囲めばいい」
またしてもジルコール将軍だ。
「キバシヤ軍の意見は」
ゴレット総大将が、議事を進める。
ゴレット総大将の質問に、軍師のアリストテレスさんが答える。
「ジルコール将軍のご意見は、ごもっともです」
ジルコール将軍が、得意顔で頷く。
「問題はその後でしょう。相手は食料も豊富です。長引くと囲む方が、厳しくなってきます」
今度は、ジルコール将軍の顔が渋くなった。分かり易い人だ。
「ここは公主邸の内側から門を開けて貰い、邸内に押し入る方が良いでしょう」
「内通者を募るという事ですかな」
「いえ、内通者が居なくても大丈夫です。実行するなら夜の方が良いでしょう」
「では、進言の通り、公主邸を取り囲む事とする。取り囲んだら、一応、偽装の為の攻撃を2度ほど行うものとする」
さすがに、ゴレット総大将は戦いの機微を知っている。
その日のうちに、全軍5万で公主邸を取り囲んだ。
説得のための使者が門前に出て説得をするが、投降する様子はない。
夕方から、弓隊を中心に公主邸に攻撃を仕掛けるが、元々戦を好む領主の造った屋敷だ。
壁も高く、攻撃したところでどうにもならない。
それを踏まえて籠城したのだろう。
壁の上からは弓を射かけてくるので、相手方の方が有利だ。
陽が落ちたので、その日の攻撃は一旦、中止した。
しかし、弓の射程外から兵士に鐘や太鼓で騒ぎ立てさせる。
こうすれば、相手方はいつ、攻めてくるかと思い、寝る事さえできない。
こちらは、夜の見張を強化し、翌日の戦いに備える。
翌日も同様に交代で兵士が騒ぐ。
既に壁の上からは矢も射られてこない。
出てくる兵士も交代で休んではいるだろうが、それでもかなり疲れているようだ。
これを夕方までやって、太陽が沈むと同時に止めた。
やる方も体力を使うのだ。そうそう長い事やっていられるものではない。
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