第196話 突入
戦場に静寂が訪れた。
相手も見張りを残して、寝ているのかもしれない。
食事が終わって、腹が膨れた頃を見計らい、ミスティとミントを呼んだ。
腹が膨れると眠くなるのは人間の生理現象だ。
「ミスティ、ミント、今夜行く予定だが、準備はいいか。ミュが居るから大丈夫だとは思うが、くれぐれも気をつけろよ」
「やっと出番だニャー」
「ほんとに待ちくたびれたワン」
「お前たち、いい加減にしろよ」
二人の目を見るが、笑っていない。
二人なりの、気の紛らわせ方なのだろう。
俺は二人を抱き寄せ、
「いいか、無茶はするな。必ず生きて帰ってくるんだ」
二人の耳元で囁くように言う。
「「う、うん」」
「それじゃ、ミュ頼む」
ミュが黒い翼を出し、ミスティとミントを抱えて、空に飛び立つ。
黒い服を着た3人は三日月の夜の闇に消え、直ぐに見えなくなった。
対する貴族派は、昨日から襲われるか襲われるかと思ってきたが、結局何もなかったので、気が緩んでいるのだろう。
壁の上には数えるほどしか見張りがいない。ミュは見張りの間を縫って降り立つとミスティとミントを降ろした。
「ミントちゃん、お願いね」
ミュが指示を出す。
ミントが壁の下に向けて、匂いを出して行く。
すると、下を通る見張りが、その場に倒れた。
倒れている兵士を見つけた、別の兵士が仲間を呼びに行く。
直ぐに5人くらいが、集まってきた。
ミントがまた、壁の上から匂いを下に向けて出して行く。
集まった5人の兵士は、今度は倒れずに夢遊病者のようになっている。
ミスティがその5人に向けて、幻覚の魔法をかけていく。
するとその5人が、門の方へ近づいて行った。
「おう、どうした?見張りの番じゃないのか」
訊ねた男に向かって、魔法を掛けられた兵士が斬り掛かる。
「ぎゃー」
斬られた男が絶叫し、その声を聞いた他の兵士が駆け寄って来た。
壁の上からも兵士たちが来た。
「あっ、誰かいるぞ」
ミュたちが見つかった。
ミントが、すかさず吹矢を吹くと、矢が兵士の額に刺さった。
兵士は言葉も発せずに、壁の上から下に落下していく。
門のまえでは、門を開けようとする幻覚をかけられた兵士とそれを阻止しようとする兵士で乱闘になっている。
ミントが門の前に匂いを漂わせると、阻止しようとしていた兵士たちが大人しくなった。
その間に、魔法にかかった兵士たちが門を開けた。
「突撃ー!」
ジルコール将軍の声が轟く。
王国側の兵士が、門から突入し出した。
こうなると門を閉める事は不可能だ。
「「「おおっー!」」」
兵士たちは、声を張り上げながら、公主邸中心を目指す。
公主邸のあちこちで、斬り合いになっている。
「いいかー、1人には3人で当たれ。1対1で向き合うな」
その声は、ゼイル将軍だ。
1対1になると実践経験の豊富な、ならず者たちの方が強い場合がある。
壁の上も、どんどん人が来る。
ミュたちは善戦しているが、来る相手が多い。
「ミントちゃん、この辺りに匂いを出して、人が近寄らないようにして」
「分かったわ。ミュ姉さま」
ミントが匂いを出すと、兵士たちが剣を落としだした。
「二人ともこっちへ」
ミスティとミントが、ミュの方に来た。
ミュは、二人を抱えると翼を出した。
バサッ、ミュが飛び上がる。
「ひっ、何だあれは?」
「あ、悪魔だ、あれは悪魔だ」
壁の上の兵士たちが、口々に叫ぶ。
その声を下に聞き、ミスティとミントを抱えたミュが三日月の空に消えた。
ミュが二人を抱えたまま、俺たちの陣地に帰ってきた。
「大丈夫か、3人とも」
「ただ今、帰りました。成功です。既に王国軍が公主邸の中に突入しています」
「「シンヤ兄さま」」
ミスティとミントが、駆け寄って来た。
俺は腕を広げて二人を抱える。
「大丈夫だったか、二人とも」
「うん、壁の上で見つかって、追い詰められた時は怖かった」
「良くやった。後は、ゆっくり休め」
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