第193話 説得
「それで、作戦は?」
ザンクマン将軍が発言した。
「貴族派、エリス教派共々手を引いてくれるのが望ましい。
ただ、貴族の金にたかって来たならず者たちは、出来ればここで叩いておきたい。山賊、海賊の類なのでな。
正直、貴族派も、予想以上に集まり過ぎたならず者たちに手を拱いている状態だ。
そのような状況なので、我々もどうすればいいか、悩んでいるところだ」
ゴレット将軍が説明する。
「武力でもって両方とも潰せば良いのです」
今度は、ジルコール将軍が発言する。
「それでは、王国が力でもって制圧したような事になり、国民に良い印象は持たれない」
「国民の印象が、どうしたというのです。平和になれば、おのずと分かってくれます」
「それに遺族たちの恨みも買う」
「それは仕方ないというものです。元々は紛争を起こした方が悪いのです」
穏健派のゴレット将軍に対し、強硬派のジルコール将軍と言ったところだ。
「もし、エリス教派を説得して、シミルドの街まで撤退させたら、貴族派はどう出るでしょうか?」
発言したのはアリストテレスさんだ。
「ふん、ばかな事を。追いかけて来るに決まっておるわ。儂だって、撤退する軍がいたら好機とばかりに追いかけるわ」
「問題は追いかけて来る者です。貴族派の誰が追いかけてきますか」
「まずはならず者たちだろうな。エリス教派は以前軍隊だったから、武器も馬もいい物をもっておる。やつらから見れば金になるだろうしな。
そして、貴族連中からも金を貰えば一石二鳥ということになる」
「では、我々がエリス教派を引かせますので、シミルドの街の南で迎え撃つというのはどうでしょうか?」
「何?そんな事ができるのか。あいつらは我々の説得に応じないぞ」
「我々の説得に応じなくても女神エリスさまの説得には応じるでしょう」
「お前もあいつらと同じように、女神エリスさまが居ると思っているのか?
ふん、バカバカしい」
エリスが苦笑しているが、俺が制する。
「やってみなければ分かりません。それはキバヤシ軍がやりましょう。ゴレット将軍とジルコール将軍は、迎え撃つ方をやって頂けませんか?」
「シミルドの南に人が住んでいない地帯があったな。そこで迎え撃つか。ジルコール将軍、よろしいか?」
「ふん、ゴレット総大将の命令とあらば仕方ありませんが、本当にエリス教派が撤退してくると?」
「撤退して来なかったら、戦いにはならんので、誰も死なん。特に痛手は被らんから良いではないか。
それに他に策もないしの」
アリストテレスさんのエリス教派を説得して、撤退させて来るところを迎え撃つという作戦を行う事になった。
俺たちが宛がわれた部屋にいると、ゴレット総大将が尋ねてきた。
「キバヤシ殿、先ほどは失礼しました。説得にはエリスさまが行かれる事でよろしいのでしょうか?」
「ゴレット将軍、エリスの事はご存じですか?」
「はい、陛下と教皇さまに聞いております」
「説得には、私と嫁たちで行こうと思います。よろしければ誰か、案内役をお願いしたいのですが……」
「それでは、エドバルドをお付けしましょう。キバヤシ殿もエドバルドはご存じと思いますので、都合が良いでしょう」
「分かりました。それでは直ぐに立つようにしましょう」
迎えに来たエドバルドさんとその護衛、俺たちを含めた10名でエリス教派に乗り込む。
エリス教派の警備を担当していた者はエリスの顔を知らないようで、使者に女性が居る事を不思議に思っていたようだ。
宗主であるサリュードの前に来た。
すると、サリュードがさっと跪く。
「エリスさま、わざわざこのような場所にお出まし頂き、ありがとうございます」
「あなたは、エルバンテの時に武器を放棄したのではないのですか?
それが何故、こうして戦っているのです?」
「我々はエリスさまの教えを広めようとしております」
「私の教えは、『和を以て尊しとなす』です。戦う事ではありません。
あなたは何か、勘違いされているようですね」
エリス、それは聖徳太子だ。適当すぎるぞ。
サリュードは、さっと顔が青くなった。
「申し訳ございません。このサリュード、今の今まで、エリスさまの第一の下僕と思っておりました事を恥ずかしく思います」
「それでは、ここよりシミルドの南まで撤退しなさい。
それで戦いは避けられるでしょう」
「はっ、仰せの通りに。
全員、撤退。シミルドの南まで撤退する」
サリュードが高らかに言うと軍全体が、どよめいた。
「騎馬は殿を努めよ。歩兵は駆け足で撤退。良いか、直ちに行くぞ」
「「「おおっー!」」」
張ってあったテントがあっという間に片づけられ、歩兵が荷物を担ぎ、走り出した。
それを見た騎馬隊が、歩兵に続く。
俺たちは歩兵に先立ち、シミルドに本拠地を変更していた本隊に帰還した。
「ゴレット総大将、説得は成功です。エリス教派が撤退してきます」
それをきいたジルコール将軍は、複雑な顔をしていたが、
「それでは、追って来るならず者共を迎え撃ちましょう」
と言い、部屋を出ていった。
「では我々も行ってきます」
ゴレット総大将はそう言うと、ジルコール将軍に続き、部屋を出て行った。
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