第178話 新会社

 今回の反乱軍に加担した貴族は全て廃爵とし、その処理に、コルセットという官僚を送り込んだ。

「コルセットよ、残っている夫人や子供たちに罪はない。できるだけ穏便に後始末してくれ。

 夫人や子供たちで、トウキョーで働きたいと言う者が居れば対処しよう」

「ははっ、ご領主さまのお言葉の通り、対処致します」

 コルセットが率いる官僚50人と兵士100人が、ギルバゼット領に向けて出発して行った。

 それを見送った俺は、アーネストさんに公道1号線に沿うように5つの街を造るように指示を出した。

 1つの街が2万人規模の街なので、全部で10万人を収容できる。

 この街全てを直ぐに建設することは不可能なので、とりあえずトウキョーに近いところに街を造る。

 この街をアルファ市とした。以下ベータ市、ガンマ市、デルタ市、イプシロン市とする。

 イプシロン市に至ってはトウキョーより公都に近い。

 トウキョーについては、今までトウキョーとしか呼んでいなかったが、人が増えてきたので、市にすることにし、トウキョー市を名乗る事になった。

 これに合わせ、ヨコハマ地区、ショウナン地区と呼んでいたところもヨコハマ領、ショウナン領とする。

 さらにヨコハマ領、ショウナン領を結ぶ公道2号線も1か所を除いて完成した。

 その1か所というのは、大河に掛かる橋の所だ。

 そこについては、仕方ないので、船による運搬を行う。2階建で、1階部分に馬車やキチン車を載せ、2階部分に旅客が乗る。

 今のフェリーのようなものだ。

 公道2号線はヨコハマ領、ショウナン領から穀物の輸送に役立つと考えられており、さらには砂漠地帯まで伸長することで資源の輸送も期待できる。

 公道2号線は完成したばかりだが、直ちに4車線化への拡張工事に取り掛かる事になった。

 キバヤシ領公都周辺に住み着いていた獣人のうち、優先権のある者はトウキョー市に来て、建設工事や輸送に携わる仕事に就いている。

 アーネストさんが社長を務めるキバヤシ建設や、セルゲイさんが社長を務めるキバヤシロジテックは、既に呉服販売のキバヤシ販売より大きい会社となっている。

 そして、俺は一つの会社を立ち上げた。

 それはキバヤシ銀行だ。

 キバヤシ銀行の初代頭取は、イオゲルさんにお願いした。

 彼はアールさんの下で、長い間、副社長を務めてきた。

 商売にも金にも明るい。しかも、真面目だ。彼以外の人選はなかっただろう。

 キバヤシ銀行は個人より企業を対象とした銀行だ。キバヤシコーポレーションの関連会社が、個々に資金を調達していくのは無理が出て来る。

 そのために、企業間で金を融通し合う必要が出て来たのだ。これを行うのがキバヤシ銀行である。

 もちろん、個人も対象としているが、大口が企業なのは現代の銀行と変わらない。

 そんな中、1つの問題が顕在化してきた。

「会長、船が足りませんぜ、ガハハ」

 この笑い声はセルゲイさんだ。

「船が足りないとは?ハルロイドから鹵獲した船が20隻以上あったじゃないか?」

「いや、あれは元々軍船でしたから、人を乗せるにも荷物を載せるにも限界があったんです。

 商船や客船の3分の1くらいしか役に立たねぇ」

 船を造らなければならない。とすると、船大工という事になるが、キバヤシコーポレーションで船大工はいない。

 外洋航路用の船の製作は、他領に発注していた。

 しかし、小さい船は誰かが造っていたはずだ。そこのところから、船の建造の手掛かりがあるかもしれない。義父に聞いてみよう。

「父上、実は船を造る会社を立ち上げようと思いますが、エルバンテ領内で船を製作できる人をご存じないでしょうか?」

「なんと、今度は船を造ろうというのかの。しばし待たれよ」

 エルバンテ公は宰相のフォルテさんを呼んだ。

「フォルテ、誰か優秀な船大工は知らんかの?」

「それでしたら、港の近くに造船会社を構える『アルフレッド・マゼラン』はいかがでしょうか」

 「マゼラン」って、俺の時代では、世界一周をした有名な船乗りじゃないか?

 船は造れるのか?

「分かりました。そちらの方に行ってみます」


 そうして、港にやって来た。

「たしか、この近くらしいが……」

「ご主人さま、あそこではないでしょうか?」

 ミュが指差す先に確かに造船会社のような所があった。

「ごめんください」

「おうよ」

 店の奥から男が出てきた、見たところ、30代後半ぐらいか。40代にはなっていないだろう。

「何の用だい?」

「船を発注したいと思いまして……」

「船を発注?あんたがかい?

 おいおい、船なんて漁師が扱うもんだ。見ると貧弱そうな男でどう見ても川の男とは見えねえ。

 そんな男が船を使って何をするんだ?」

「ちょっと、荷の運搬をしたいと考えております」

「そんな、荷の運搬なら、キバヤシロジテックに持ち込んだ方が、船を造るより安いじゃねぇか、それとも何かい、まずい物でも運ぶつもりかい?」

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