第177話 終結

 陽が昇ると戦いの確認をする。谷の中でまだ生きている者たちを回収し、反乱者たちをまとめる。

 怪我を負った者には、エリスが範囲治療魔法で怪我を治してやると、反乱軍の兵士たちは涙を流して懺悔の言葉を口にした。

 ギルバゼット将軍とその取り巻きの貴族たちは、身体中に矢が刺さり、ハリネズミのようになって発見された。

 その中の心臓を貫いた矢に見覚えがある。

「ウォルフ」

「はい、ここに」

「この矢はお前のものだろう。よくぞ一発で射貫いてくれた」

「お褒め頂き、ありがとうございます」

「見えていたのか?」

「獣人は夜目が効きます。わずかな灯りがあれば問題ありません」

「それでもあの距離から一発で心臓を貫くとはすごい腕だな」

「ありがとうございます」

 ホーゲンの事はザンクマン将軍から聞いた。

 ホーゲンは人が持つ2倍の長さの剣を片手で操り、キチンに乗ってバッタバッタと切り倒していったというのだ。

 キチンに乗った偉丈夫が長い剣を振り回すのは心胆凍らせるものがある。

 しかも、致命傷は与えず、戦闘不能にしていったらしい。

 ジェコビッチさんも、キチン軍団の先頭に立ち、敵を圧倒して行った。

 その姿は相手兵士から恐怖の軍団として恐れられた。

 そして、キチン戦車団。これは逃げて来る兵士たちに真っ先に飛び込んだ軍団で、兵士たちの攪乱にも成功している。

 ポールは熊の獣人だけあって、重い戦斧で兵士を真っ二つにしていた。

 上半身と下半身が別々になった遺体が何体かあったが、それはポールの戦斧だろう。

 しかし、この戦いで戦功のなかった者もいる。ミスティとミントだ。

「私たちは何もやってないワン」

 ミントが言う。

「そうよ、指を咥えて見ていただけニャー」

 ミスティも同じように言う。

「お前たち、なんだ、その言葉は?」

「だって、エリス姉さまがこう言った方が、シンヤ兄さまが萌えるって言ったから」

 エリスを見ると、目を反らした。

「エリス、3日間、お預け」

「ええっー、何でよ」


 投降した兵士を使って、死んだ者を弔う穴を掘らせる。

 死体は丁寧に埋葬し、墓標を立てる。

 兵士たちの弔いが終わろうとする頃、ギルバゼット領から馬に乗った二人の人物が現れた。

「お館さま、この様子ですと勝利したようですね」

「シンヤさま、おめでとうございます」

 ミドゥシャとエルハンドラだ。

「二人の諜報活動のおかげでどうにか勝てた。二人には礼を言っても言い切れない。この功績は二人のおかげだ」

「そんな滅相もない」

 こちらの負傷者は50人程居たが、死者はいなかった。

 負傷者はエリスの治療魔法で全員が完治している。

「よし、帰るぞ」

 投降者を連れて公都へ凱旋する。

 既に早馬の連絡が入っているので、今回の戦いに勝利した事は公都の住民には知らされている。

 街への入り口にある門のところから、街中の住民が道の両脇で凱旋してくる軍隊を出迎え、住民は手を振っている。

 兵士たちは誇らしそうに胸を張っての凱旋だ。

 戦いに参加した兵士たち全員が公爵邸前の広場に集結した。

「今回の戦に出てくれた兵士諸君、ご苦労であった。一般兵については、公爵邸に設けた受付で慰労金を受け取ってくれ。

 獣人の兵士についても同様に慰労金があるので、受け取ってくれ。それと、エルバンテ領とトウキョーへ行きたい者は、その隣にある受付に申し出よ。

 渡航人数と日にちを決めよう」

 慰労金の支払いで公爵邸に入った兵士たちはきょろきょろしている。

 それはそうだ。今まで公爵邸なんぞに入った事がない。初めて見る風景に圧倒されている。

 一般兵ですらそうなのだから、獣人たちはもっと驚いている。

「おい、見ろよ、慰労金ってこんなにあるぞ」

「おっ、ほんとだ。今回の戦いで、俺ほとんど何もやってねぇよ。悪いみたいだな」

「なら、俺が貰うよ」

「バカ言え」

 そんな事を話している。

「我々、獣人はいくら貰えるのでしょうね?」

「さあ、出るだけましって思わなきゃな」

「そうですね、金をくれるだけ、さすがキバヤシ会長ってとこですか」

 獣人兵士にも慰労金が配られた。

「……」

「…おい、これって間違いじゃねぇよな」

「俺は夢を見ているのだろうか?こんな、大金見たことねぇぞ」

「おい、どうやら、俺たちの慰労金も人族と同じ額らしいぞ」

「……」

「俺は、キバヤシ会長について行く事に決めた」

 獣人の男が誰憚る事なくそう言った。

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