第179話 造船
そんな会話をしている所へ、この男が現れた。
「すいません、遅くなっちまった。ガハハ」
セルゲイさんだ。社長自ら来る事ないと言ったが、「会長だって、自ら行くんじゃないですか。同じですよ」と言わてしまった。
セルゲイさんの姿を見たアルフレッドさんは、
「噂をすれば影というが、ちょうどいいところへ来た。紹介するよ、こちらがキバヤシロジテックの社長のセルゲイさんだ」
セルゲイさんは紹介されて「ヘッ」という顔をしている。
「あっ、いや、紹介は不要です」
「人が折角、こんな偉い人を紹介してやったというのに、あんたは失礼な人だな。そういえば、まだ名前を聞いちゃいなかったな。あんたは何という名だ?」
「おい、アルフレッド、こちらは『シンヤ・キバヤシ』さんだ。キバヤシコーポレーションの会長だ、ガハハ」
「ええっー!!こ、これは失礼しました。まさか、本人自らこのような所にお出でになるとは思いも寄らず……」
「セルゲイさんは、アルフレッドさんと知り合いだったんですか?」
「ああ、軍隊の時の上官と部下の関係でな、ガハハ」
いかにも、工場の会議室という所に通される。
アルフレッドさんの奥さんと思われる人が、お茶を持って来てくれた。
アルフレッドさんに最近の話を聞くと、エルバンテ公都やトウキョー市への人口増加で、漁業も好調で、そのおかげで、古い船を新しい船にする漁師も多く、船の製造も順調との事だ。
ただ、若い人はあまり漁師になりたがらず、こちらも人手不足のようだ。
「それで、ここに来たのは先ほど申しました通り、船を造って頂きたいのです。もちろん漁船ではなく、貨物船や客船になります」
「ちょ、ちょっと待って下さい。貨物船や客船といったら、漁船なんか比較にならないほどでけぇ。
それをここの造船所で造れと。無理言っちゃいけねぇ、人も工場も足りねぇよ」
「まず、造船所についてはこちらで造りましょう。人についても募集します」
「うーむ」
「あんた、場所と人手を用意してくれると言うんだし、あんたの腕だったら、貨物船だろうが客船だろうが、ちょいちょいと造れるでしょう。
ここは会長に乗るべきよ」
「うむ、ミランダの言う通りにしよう。会長、この話、受けましょう」
その後、新しい造船所の造る場所を確認した。
そして夏も終わりになった頃、2隻の船が港に入って来た。
「ご苦労さまでした。スパローさん」
「会長、ただ今戻りました」
「全員無事のようですね、それが何よりです」
「ええ、どうにか欠員も無く帰ってこれました。それと見て下さい、船倉には積めるだけのゴムを積んで来ました」
船からは荷役がゴムを運び出している。船と地上を行き来しており、忙しそうだ。
「とりあえず、航海の垢でも落としてくれ。航路の話はそれからゆっくりと聴こう。船員たちにも、ボーナスを弾もう」
スパローさんはセルゲイさんとも話していたが、明日、航路の話をしに1号店の方に来てくれる事になった。
そして翌日、スパローさんが一人の男を連れてやって来た。
「紹介します。航海長の『レン・サロイ・ヤバル』です。レンの方から話をさせましょう」
レンと紹介された航海長は、脇に抱えた分厚い羊皮紙を机上に広げた。
見ると、この大陸の海岸線、立ち寄り可能な入り江、住民などについて記載してある。
「なにせ、船の上からですので、正確な海岸線は分かりませんが、おおよそこのような地形をしています。
停泊可能な入り江は住民が住み着き、言葉も通じます。住民の主業は漁師で、広い土地があるところでは、農業もやっているようです」
「それで、航路を開く事について、住民は何と言ってる?」
「キバヤシ領の事は既に大陸中に知れ渡っています。
外洋航路の船が立ち寄るとなるとキバヤシ領、エルバンテ領へ短期間で行く事ができるようになるため、メリットがあると考えているようです」
「航路の途中の国では何か使えそうな資源とかはあったか?」
「やはり南の方になりますが、ヤシ油なんかは使えるのではないかと思います」
ヤシ油と重曹で石鹸が出来る。
それにヤシがあると活性炭も造れる。活性炭は消臭剤としても使えるだろう。
「それ以外の資源はどうだ?」
「ちょっと、待って下さい」
レンはそう言って、別の羊皮紙を出した。
「トウキビと言われる甘い竹があります。これを絞ると甘い汁が取れます」
黒糖だ。そういえばこちらには砂糖がないので、甘い菓子がなかった。
「それから、木材がたくさん採れます。あとは米とこれは珍しいものですが、燃える黒い水なんてのもありました」
「ガタッ!」
俺は思わず椅子から立ち上がった。全員の目が俺に向く。
「そ、その水はドロドロしているんじゃないか。どれくらい採れる?」
俺の態度が変わったので、レンは戸惑っている。
「えっ、いえ、採れるといっても井戸から湧いている程度で……」
「直ぐにそれを押さえよう。キバヤシコーポレーションで権利化する」
「会長、その黒い水は何ですか?」
セルゲイさんが聞いてきた。
「原油だよ。それがあれば、文明が飛躍的に発達する」
なんと言う事だ。貨物船、客船だけでなく、タンカーも造る必要が出て来た。
それに貯蔵タンクも必要になるだろう。
人手がどうにかなりそうだと思ったら、今度は設備が不足して来た。
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