第173話 オリハルコン
「ミュ、どういう事だ?」
いつもはあまり話さないミュが、見間違えるほどに話し出す。
「ご存じのように、悪魔族は黒髪です」
全員が一斉に俺を見る。
「いや、俺は単なる人間で魔法も剣も使えないから」
ミュが続けて言う。
「悪魔族は500年前の戦いで敗北しました。
そして、敗れた悪魔たちは、この世界に散っていきました。
ある者は新天地を求めて、この大陸を離れた者もいるでしょう。
また、ある者は私と同じような素性を隠したまま、人間の社会で暮らして居た者もいるでしょう。
そして、悪魔の寿命は約500年です。
その時に戦った悪魔族で若い悪魔は、まだ生きている可能性があるということです。
その者たちは当然、勇者キバヤシに恨みを持っています。
そして、ご主人さまは今や知らない人がいない程の有名人です。
悪魔族の生き残りが、人間に手を貸すという事が考えられない事ではありません」
「ミュさまのその推理は恐らく当たっているでしょう。
相手方に悪魔族が協力していると考える方がしっくりきます。エルハンドラさん、ミドゥーシャ、その黒髪の男は一人か?」
「兵士たちの話では一人のようです」
「その男の軍での位置づけは分かるか?」
「そこまでは分かりませんでした」
「魔法兵は貴重です。そう魔法兵を集められるものではありません。とすると、魔法兵はその男一人と考えられます」
「ミュよ、その悪魔族を有効に使おうとすると、どういう戦法が考えられる?」
「悪魔は夜の方が強い魔法が使えます。ですから、戦闘を起こすなら夜と考えられます」
「と、すると公都に到着するのが、夕方と考えますと、逆算するとこの死地を通るのも前の日の夜になりますね」
アリストテレスさんが地図を指しながら、言う。
「夜にわざわざその死地を通りますか?」
そう言ったのはヤーブフォン宰相だ。
「反乱軍は我々にミュさまとエリスさまが居る事は既に知っています。この二人を相手にする事は不利です。
さらに、この街道の死地となる狭隘部の出口で待たれると反乱軍にとって不利です。かといって、ここを守って軍隊を通す程の余裕もない。
とすると、一番武力のある状態で、通過を考えるでしょうから、相手方から視認し難い夜間に、ここを通過すると考えた方がすっきりします。
それに、崖の上から攻めるにも新月だと難しいですから、相手はその点も考えているのでしょうし、その黒髪の男も力を十分発揮できますから、この場所を通るのに都合が良いと考えたのでしょう」
アリストテレスさんが、発言する。
「あと、半月ほどで、新月となる。その時に攻めて来る可能性が高いか?」
俺の言葉を聞いてヤーブフォン宰相が叫んだ。
「ザンクマン将軍を呼べ」
直ちにザンクマン将軍がやって来た。
「リチャード・ザンクマン、お呼びにより参りました」
ギルバゼット伯爵が反乱軍を率いて公都へ攻めて来る事を将軍に話し、その対応について協議する。
「分かりました、こちらは兵を3隊に分断し、主力はその崖の出口で待ち伏せすれば良いのですね」
「相手は、夜を徹して歩いてきますので、崖を出たところで疲労困憊です。待ち伏せするのは容易いでしょう」
迎撃の作戦会議を終えて、俺たちはカシーさんのところに転移する。
「カシーさん、例の物は出来ていますか?」
「ああ、なにせ、貴重品ですからね。気を使いましたよ」
俺が受け取ったのはオリハルコンの片手剣だ。
この剣は、ミュの母から譲られた物だが、それをカシーさんに仕立て直しして貰っていた。
「ミュ、相手が相手だ。これはミュが持つべきものだろう」
白く鈍い光輝く剣をミュが持つ。なんだか、以前からミュが持つ事が当然のように似合っている。
「そうね、オリハルコンの剣はミュが持つべきね」
エリスの言葉に、ラピスも頷いている。
「ちょっと、待ってね。今から機能アップするから。エクスカリバー!」
エリスが白いエクスカリバーを出す。
「インテグレイト」
オリハルコンの剣とエクリカリバーが一緒になって行く。
エクスカリバーを取り込んだオリハルコンの剣は、刀身のところが金色に輝くようになった。
「これでどうかしら。あと、この剣はミュしか持てないわ」
「ミュ以外が持つとどうなる?」
「エクスカリバーの持つ触れた物を蒸発させる能力で、剣を持った者の手が無くなるわ」
いや、それは勘弁。子供たちの手の届かないところに置かないと。
「エリス、それじゃこの剣はどうやって持っていくんだ?」
「あっ、そこまで考えなかった」
やっぱ、お前は駄女神じゃねぇか。
「えっと、多分、カイモノブクロに入れて行けばいいと思います」
試しに入れてみると、オリハルコンの剣が納まった。
「ミュさま、あとこれを」
カシーさんが差し出したのは鉄製の盾だ。
「なるべく軽くするようにしましたが、どうしても3分の1モーまでしかできませんでした」
3分の1モーというと大体、10kgぐらいだ。
「いえ、問題ありません」
ミュの握力は600kgぐらいある。10kgなんて大した事はないだろう。
オリハルコンで作れればいいが、なにせ原料が少ないので、剣1本がせいぜいだ。
カシーさんと話をしていたところにやって来たのは、ホーゲンたちだ。
「シンヤ兄さま、キバヤシ領で争いがあるとの噂を聞きましたが、本当でしょうか」
「ああ、本当だ。今、キバヤシ領ではその準備中だ」
「ぜひ、我々も連れて行って下さい。何かしらの援助ができるはずです」
ホーゲンの後ろには、ポール、ウォルフ、ミスティ、ミント、それにマリンがいる。
彼らはまだ学生だ。俺も躊躇するが、彼らの目をみて判断した。
「分かった、連れて行こう」
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