第172話 情報
「それで、ミドゥーシャは何の情報収集を行っていますか?」
「実は、領内にクーデターの動きがあります」
「クーデター?しかし、官僚や司法員、それに議員は選挙で選んだじゃないですか。領民の民意が反映されているだろう?」
「それはそうですが、やはり、中枢に入れなかった貴族連中が不満を持っています。それに、新しい法律は貴族に厳しいですから」
「相手の陣容は分かっていますか?」
「中心となっているのは、ギルバゼット伯爵です。そこに、伯爵家、子爵家、大体10家ほどが集まっています。
全ての私兵を合わせてもキバヤシ軍の10分の1ぐらいですが、せめて一太刀という思いが強いようです」
「お館さま、今、暴動を起こされて、スラム街の獣人たちを人質に取られるとやっかいです。
かと言って、5万人もの人たちを直ぐに、エルバンテ領に逃がすのも無理があります。
ここは、キバヤシ公都に攻め込まれる前に、対処する必要があります」
「アリストテレスさん、何か妙案はありますか?」
「反乱軍の拠点はギルバゼット伯爵領で良いでしょうか?
それなら、公都への道はこの街道を通る事になります」
アリストテレスさんは地図を机上に置いて、通過すると思われる街道を指差す。
「ここは両側に崖が立ち塞がっており、道が狭隘になりますので、待ち構えるならここでしょう。
しかし、相手もそれは分かっているでしょうから、対策は行ってくる事が考えられます。それに、この道を通らないかもしれません」
そこで、一言区切って全員を見る。
「もし、道を分けられると、こちらも戦力を分散しなければいけないので、当然の事ながら、戦力低下になり、各個撃破される可能性もあります」
「それは、ちょっとまずいですね」
「ですから、こちらとしては、なるべく固まって来て欲しいですね」
「その、ギルバゼット伯爵とはどういう性格の人なんだろうか?」
それについては、ヤーブフォン宰相が答えた。
「ギルバゼット伯爵は昔は軍にも所属しており、副将軍まで上り詰めた人物です。
今は引退して、年齢はたしか70歳を超えると思います」
「軍の戦功は?」
「正直、勇ましいの一言です。戦いのある時は、真っ先に先陣を切るタイプです。
ですから、戦功は凄まじいものがあります」
「なるほど、猪突猛進のタイプという事ですね」
「そう言っても良いかと思います」
「そうなると、ミドゥーシャの情報が全てを決める事になるな。ミドゥーシャが帰ってきたら、エリスの電話に連絡をくれ」
一旦、俺たちはトウキョーの自宅に戻る事にした。
それから、1週間が過ぎた頃、エリスの携帯電話が鳴った。
「シンヤさま、キバヤシ領の教会から連絡があったわ。シュバンカさんが至急来て欲しいって」
エリスの転移魔法で、キバヤシ領の代官室に転移する。
「ご領主さま、お待ちしておりました」
見るとミドゥーシャとエルハンドラも一緒だ。
それ以外は、ボルミさん、コンラードさん、ヤーブフォンさんも居る。
まずは、ミドゥーシャとエルハンドラに結果を聞く。
「反乱軍の首謀者はギルバゼット伯爵で間違いありません。そして、反乱軍はギルバゼット伯爵領に集合しています。その数約1千。
内訳は、騎兵200、弓兵100、槍兵300、歩兵400です。その他に輜重隊が50人程居ます」
「輜重隊はギルバゼット伯爵領から食料を運ぶと考えて良いか」
アリストテレスさんが尋ねる。
「反乱軍の食料をギルバゼット領内に運び込んでいるという情報を輜重隊から得ています。恐らく、それで間違いないかと」
「魔法兵はどうだ?」
今度はボルミさんが聞いて来た。
「魔法兵については、情報が掴めるほどありませんでした。0ではないと思いますが、数える程度でないかと思います」
「兵の訓練はどうだ。持ち寄りの軍隊だと、連携とかに苦労しているだろう」
「兵の連携訓練は、特に行われておりません。各貴族が自家の兵の訓練をしているだけです。
ご領主さまに不満を持つ者が集まってはおりますが、各貴族の思惑はそれぞれのようで、ギルバゼット伯爵に謂われ渋々という者も居るようです」
「つまり、1枚岩ではないと言う事か」
「はい、所詮寄せ集め軍団、そこまでの意識の統一は難しいようです」
「何か特別な武器とかはないか」
「秘匿にしているのかどうかまでは分かりませんが、特にそのような武器があるとの情報は得られませんでした。
しかも、相手の情報を掴むのもそれ程難しくありません。私たちも不思議に思うほど不用心です」
「今までの情報から、反乱者たちをギル バゼット伯爵が纏め、キバヤシ公都への街道をまっ直ぐに推し進めて来るということになります……が、そんな単純でしょうか?
相手方はこちらの10分の1の戦力なのです。正面切って戦うと勝負にならないでしょう。
喧嘩を売るなら何かしらの勝算があるべきと見るべきです」
アリストテレスさんの言う通りだろう。何かあると考えるべきだろう。
「エルハンドラ、ミドゥーシャ、他に何か情報は無いか?」
「特にこれと言っては、ただ…、シンヤさまと同じ黒髪の男が居ました。珍しいので、覚えています」
こちらの世界では黒髪は珍しい。
「その男が切り札かもしれないな」
「もしかすると、その男は悪魔族かもしれません」
全員が、そう言ったミュの方を見た。
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