第171話 おしめ替え

 大会議が終わって、しばらく後、俺はザンジバルさんのところにやって来た。

「高炉が出来上がったという話ですが、どうですか?」

「まだ、それ程の量は加工できませんが、鉄の生産は可能です」

「それで、鉄製の剣と盾は?」

「それは問題ないでしょう。ただ、水車や風車、それに車輛の軸受けに鉄製の方が頑丈なので、需要が伸びています。

 このままだと、高炉があと1つ、いや2つは欲しいところです」

「分かりました、高炉は増やすこととしましょう。それと、鉄鋼担当の人材が必要です。そちらの訓練もお願いします」

「鉄の需要が増えれば、鍛冶の需要も増えます。カシーとも協力してやっていかないと……」

 そんな話をしているところへ、タイミング良くカシーさんが来た。

「カシーさん、鍛冶の方はどうですか?」

「鉄が生産できるようになって、需要が伸びています。鉄はいろいろな物に使用できますから、鍛冶の方もそれに合わせて大変ですよ。

 今は、外洋航路用の船と水車、風車の部品で休む暇もありません」

 農業者と冒険者だけでなく、どこも人手不足は変わらないようだ。


 今の俺は忙しい。

 キバヤシ領についても、シュバンカさんにまかせっきりと、いう訳にもいかないので、エリスの転移魔法で、キバヤシ領に転移する。

 すると、ウーリカが赤ちゃんのおしめを替えていた。

「ウーリカ、護衛だけじゃなく、おしめも替えるのか?」

「あー、びっくりした。いきなり現れないでくれないか。

 まあ、代官は忙しいので、いろいろ手伝ってやらないとな」

「侍女がいるだろう?」

「ああ、まあ、居た事は居たんだが……」

「なんだか歯切れが悪いな、何かあったか?」

「ここだけの話だが、こちらの侍女は以前は伯爵家とかに仕えていたとかで、プライドが高くて、私のような獣人とは一緒に仕事が出来ないとかで…な。

 その…、辞めてしまってな…」

「シュバンカは何と言ってる?」

「代官も困っているが、とりあえず次の侍女たちが見つかるまでは、我慢してくれと」

 どうやら、ここも人手不足のようだ。

 ウーリカと話をしていると、ルルミがやって来た。

「おや、ルルミだけか、ミドウーシャはどうした?」

「あら、私だけだとご不満?会長にはお姉さんの方が良かったかしら」

 頼むから火薬庫の中で、火遊びするような発言は止めてくれ。

 後ろにいる嫁の方を向くのが怖いだろう。

「い、いや、ルルミが居れば十分だ」

 火薬庫の火薬に自分で火を点けた事を自覚した。

「シンヤさま、後でじっくりお話する事があります」

「旦那さま、私もこの際はっきりさせておきたい事がございます」

「ご主人さまがどうしてもと言うなら、ミュは耐える覚悟はあります」

 たぶん、今夜は眠れない夜になるだろう。

 明日は有給休暇にしよう。

「そ、それで、ミドゥーシャはどうした?」

「お姉さんは、領内の情報収集で、1か月ぐらい留守にしています」

「なんと、一人でか?」

「いえ、エルハンドラさまが一緒です」

「「「ええっー!」」」

「あいつら、そういう仲だったのか」

「仲が良いほど喧嘩すると、言いますし……。

 それに、いざとなればお姉さんの方が強いですから」

「ミドゥーシャには昏睡魔法があるからな」

「ええ、それに彼は『アホ』ですから」

「そっか、やつは『アホ』だったな……」

「……」

「「「「「わっ!ははは、はは」」」」」

 何故か、全員で笑ってしまった。

 エルハンドラの話になると何故、こうも話題が尽きないのだろう。

 一通り笑い終えた後で、みんなで代官室に行ってみる。

「シュバンカさん、それにボルミさん、コンラードさん、ヤーブフォンさんも、全員お揃いでしたか」

「これは、ご領主さま」

 その瞬間、赤ちゃんが泣き出した。

「おしめも替えたばかりなのに…」

 ウーリカが困ったような顔をする。

「多分、お腹がすいているのよ」

 そう言うと、シュバンカさんは赤ちゃんを抱いて、隣の部屋に入って行った。授乳してくるのだろう。

「それで、何の話だったんですか?」

「実は、人の問題です」

 なんと、ここでも人手不足か?

「ご領主さまがキバヤシ領を立ち上げたという事で、王国各地に居た獣人たちがここに集まり出してきました。

 その結果、公都周辺に居つき、スラム街を形成しつつあります。

 もともと、そういったスラム街はあったのですが、ここ半年ぐらい難民と思われる獣人が増えてきており、その対応が問題です」

「その獣人たちは、何か要求しているのでしょうか?」

「最終的には、エルバンテ領に行きたいと言うのですが、船賃と身分証明が難しくて、乗船できない状態です」

「具体的には何人ぐらい居ますか?」

「女子供全て合わせると、5万といったところでしょうか?

 まだ、増える傾向にあります」

 なんと、こんなところに人手が居た。

「分かった、エルバンテ領、それにトウキョーへの入領に関して便宜を図りましょう。それと、仕事についてもあてがあります。

 幼い子供については、学院や保育院へ引き取る事も可能ですね」

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