第139話 取引交渉

「こ、国王を殺しました。ど、どうか私を元に戻してください」

 国王に、最初に剣を突き刺した妻と思われる女が言ってきた。

「あなたは、自分の為に夫を殺した。その姿は今のあなたにお似合いだ」

 アリストテレスさんが非情に言う。

 女は泣き崩れた。

「エリス、転移魔法で、このままキチン車まで転移してくれ」

 エリスも気分が悪かったのか、一言、

「分かったわ」

 と、言って魔法陣を出した。

 その場に、「ひぃー」という声と、「神だ」の声を聞きつつ、白い視界に包まれ、気が付くとキチン車の中だった。

 国王が妻と家臣に殺されたという話は、その日のうちに国中に広まった。


 そんな事があった翌日、俺たちは、セルゲイさんとスパローさんを転移魔法で連れて来て、ゴム工場のボントスさんを訪ねた。

「昨日の輸送の件で、専門家を連れて来たのでお話を聞かせて下さい」

「あんたら、昨日来た人数で全員じゃなかったのかい?」

 怪訝な顔をしてボントスさんが聞いてきた。

 話では、船での輸送は可能だが、港が大きくないらしい。

 そのため、大型船の場合は、沖合に停泊することは可能だが、接岸は難しい事が分かった。

 船による輸送については、スパローさんも来たことがないため、一度海路で来てみる必要があるとの意見だ。

 航路を開拓しなければならないのだろう。

 俺たちが持っている船は大きいが、それはあくまでも川専用船だ。

 外洋を航海するとなると、違うタイプの船が必要になるだろう。

 外洋航路なんて、この世界ではなかったそうだ。

 どんな危険があるかも分からない。

 帰ったら、早速航海の準備に入ろう。


 ゴム工場の事務所で輸送の話をしていたら、ヘドックが訪ねて来た。

「宿に行ったら、こっちだと聞いたもんでな。

 ところで、知っているか、国王が王妃に殺されたらしい」

 俺たちは知っているが、ボントスさんは知らなかったようで、

「ええっー、本当か?」

 なんて、驚いている。

「あの、豚国王、最後はやっぱあんな死に方だったな」

「ああ、臣下の嫁でも平気で取り上げる色情魔だったからな。民衆も堪ったもんじゃなかった」

 評判の良い国王では、なかったらしい。

「それともう一つ、王宮に居る国王の家族とその臣下が皆、老人になったらしい。噂では、神と悪魔の仕業らしいぞ」

「そいつは眉唾もんだな。大体、神と悪魔が一緒に居ること自体可笑しいだろう」

「なるほど、それもそうだな、ははは」

 いや、その情報、間違ってないから。実際、ここに居るし。

「シンヤさん、悪かったな、無駄なおしゃべりをしてしまって。そんな、神と悪魔が一緒に居るなんて事あるわ…け……。

 いや、あるかも」

「ヘドック、何をバカな事を言ってる。客人の前だぞ」

「あんたらか?そ、その国王を……」

 俺は黙って、首を縦に振った。

 その瞬間、ヘドックの顔から血の気が引き、青くなっていく。

 ボントスも理解したようで、顔を引き攣らせている。

「そ、その、この取引で我々を殺すようなことは……?」

「私は商人です。契約を履行して頂く限り、代金も支払います。

 それにボントスさんが居なくなると我々もゴムを入手できませんからね」

「……ヘドック、分かった事がある」

「ああ、俺にも分かった事がある」

「シンヤさんと手を組むと利益になるが、敵対すると利益にならないどころか、下手をすると命もないって事だな」

「そうなると選択肢は一つだな」

「ああ、そのようだな」

「ボントス工業はグンネル国内、いやサザンランド中のゴムを集約し、シンヤ殿と取引しよう」

「ありがとうございます。それでは出来たゴム製品は船を使って、外洋航路でエルバンテまで運びます。

 反対にエルバンテで出来た工業製品は帰りの船でこちらに運びますので、販売して頂きたい」

「分かりました。それで構わないでしょう。

 ヘドック、お前もいつまでも冒険者を続ける訳にも行くまい。

 ここは転換期だ。さっさと商人ギルドに行って商人登録して来い。

 それとアンミューにもさっさと結婚の申し込みをしろ。いつまで、待たせるつもりだ?

 ああ、それから少しは身綺麗にしろ、嫌われるぞ」

「う、うるさい。アンミューとはそんな仲じゃない」

「あの子の気持ちを知らなかった、とは言わせないぞ」

 ここにも、セルゲイさんのようなやつが居た。どこの世界にも、鈍感男って居るんだね。

 話を聞いていたセルゲイさんが助け船を出した。

 ここで一言、ガツンと背中を押してくれ。

「俺の嫁もかなり年下の嫁なんですがね、結婚して良かったですよ。

 帰る家に暖かみがあるというか。それともう直ぐ子供が生まれる予定なんですが、楽しみで、楽しみで」

 なんと、シュバンカも母になるのか。

 ナイス、フォローだ、セルゲイさん。

「ただね、毎晩なので、この年だと身体がきつくて、それだけがデメッリトかな」

 おい、それは一言多いだろう。まったく、エミリーじゃあるまいし。

 セルゲイさんの最後の一言を聞いて、嫁たちが顔を赤くしている。

 それを見たボントスさんが、

「おや、ここにも身体がきつい方が居られるようで…」

「私たちは3日に1回だから、そんな身体がきつい事はないわよね、シンヤさま」

 エリス、バラすなよ。

 3日に1回はお前たちであって、俺は毎日だ。

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