第140話 老人たち
宿に帰ると玄関のところに、綺麗な服を着た老人たちが居る。
どうやら、生を吸い取った王宮関係者のようだ。
「シンヤさま、お願いがあります。どうか元にお戻し下さい」
口々にそう言っている。
中には土下座までしている貴族らしき人もいる。
「今後、一切歯向かいはいたしません、どうか、どうか」
「金ならいくらでも出します、お願いします」
「言った通り、俺は既に領土を持っている。お前たちのはした金なんていらない。それに、その金って税として国民から巻き上げるんだろう」
「……」
「自分たちの手で稼いだ金なら受け取らない事もないが、国民の金だと最後は俺が悪く言われる。そんな金、誰がいるか」
「……」
「それと、国王の遺体はどうした?」
「は、はい、そのまま放置してありますが…」
「死んだ人間をそのまま放置か。まったく、自分たちの事で頭がいっぱいか」
「ご主人さま、このまま川を氾濫させて、全て流しましょうか?」
ミュよ、なんと恐ろしい事を。
しかし、それを聞いて顔が引きつったのは老人たちだった。
「ひっ、そ、それだけは、ご勘弁を」
アリストテレスさんが続けて言う。
「昨日、言っただろう。こんな小国一たまりもないって」
「お許し下さい。お許し下さい」
聞けば、昨夜特に老人だった貴族が3人程亡くなったらしい。
それを見て、次は自分の番だと思って、ここへ助命嘆願に来たとの事だった。
「まずは国王の死体の処置からだな。死体を処置して、その報告に来い。その結果によって、どうするか決めよう」
そう言うと、老人たちは直ぐに引き返した。国王の死体を処置しに行くんだろう。
「ミュ、吸い取った生は元に戻せるのか?」
「無理です。一度吸い取った生は元に戻せません。ただ、分け与える事はできますが、これはご主人さまだけになります」
「エリスはどうだ?」
「生を与える事は無理だわ。ただ、悪魔に吸い取られた命だから、寿命を10年程だったら延ばす事は可能だわ」
「国王の死体の処置方法で、対応を決めると言いましたが、どのようにされるお考えですか?」
「丁寧に埋葬したら、エリスに頼んで寿命を10年延ばす。川に捨てようものなら、そのままとする」
「うむ、私もそれで良いと思います」
アリストテレスさんも同意してくれた。
宿で出発の用意をしていると、客が来たとの連絡があった。
玄関に出てみると、先程の老人たちだ。
「仰せの通りに処置してまいりました」
「それで、どうした?」
「はい、国王の死体は川に廃棄してきました。ついでに、国王の子供たちも全員、殺して同じように川へ廃棄してきました」
しまった。そこまで考えていなかった。
己の失敗に気付いた。
自分もいつの間にか、あの豚国王だったのかもしれない。
足に力が入らず、思わず崩れ落ちる。
それを見たエリスが、
「シンヤさまは子供好きなの。今まで敵対した者の子供たちや獣人の子供まで引き取って育てているくらいだわ。
それを自分たちのために殺してきたなんて……」
エリスが、呟くように言う。
エリスの言葉を聞いた老人たち、いや本当は若いかもしれないが、青い顔をしている。
ミュも悪魔ではあるが、今では人の親だ。アスカが殺された事を考えていたのかもしれない。
それはラピスやエリスも同じだろう。
「そ、それでは、わ、私は……」
「残された人生で自分の罪を考えるといいわ」
エリスがそう言い残すと俺たちは部屋へ引き上げたが、俺はうまく歩くことができなかった。
ミュに抱えられて、部屋のベッドに横たわる。
「エリス、俺は何て事をしてしまったのだろう。まったく、自分で自分が驕っていた事を今の今まで気付かなかった。俺は最低の男だ」
自然と涙が溢れてくる。
アリストテレスさんは部屋を出て行った。
きっとこういう時に、掛ける言葉が見つからないからなのだろう。
ラピスがそっと、溢れる涙を拭いてくれた。
ミュはこういう時、何も言わずに側に居る。
「エリス、ミュ、ラピスよ、俺は何て事をしてしまったのだろう。エリス、時間を元に戻せないか。そしたら、俺はやり直せる」
「……シンヤさま、ごめんなさい」
エリスにだって、出来ない事はある。
無理を言ってるのは十分理解しているが、それでもどうにかしたい。
怒りのまま、あの老人たちを殺してしまっても、どうにもならないのも理解している。
どうせ、今のままでも後1,2年の命だ。
それなら、エリスが言ったように、自分たちの罪を自覚させた方がいい。
横たわっていたベッドから身体を起こすと、
「エリス、ミュ、ラピス、もしまた俺が道を外すような時があれば、言ってくれ。こんな事はお前たち以外には出来ない。
もし、俺が言う事を聞かない時は、殺してくれてもいい。
ミュよ、その時は俺の生を吸い取ってくれ」
「嫌です」
割とはっきりと、ミュが答えた。
「ご主人さまは、『ミュの罪は俺の罪だ』と言いました。今回の事でご主人さまが罪だと思われるのなら、それは私の罪でもあります。
だから、その時は私もお供します」
「それだと、誰がアスカの面倒を診る」
「エリスさまとラピスさまが居ます」
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