第138話 グンネル国王

 事務所に戻った俺たちに、所長が話があると言い出した。

「シンヤさん、お願いがあります。

 あのブラックエレファントはシンヤさんが狩った物なので、シンヤさんにどうするかの権利はあるのは十分理解しています。

 しかし、今まで、ヤツによって死んだハンターの家族も居ますので、象牙を譲って下さいませんでしょうか?」

 ヘドックも申し訳なさそうな顔で、こっちを見ている。

「いいですよ、私は象牙商人ではないので、象牙を貰ったところで、どうしようもありません。

 今までの戦闘で亡くなったハンターの為になるなら、喜んで差し上げましょう」

「おお、有難うございます。何から何までやって頂いた上に、こんなお願いまで聞き届けて下さって……」

 この話はその日のうちに、グンネル国内に広まった。

「知ってるか?この地に凄腕の冒険者が来ているてっよ」

「凄い美人を3人も連れているらしい」

「しかも、狩ったブラックエレファントの牙をポーンと差し出したって言うから、なんて気風のいい冒険者なんだ」

 いや、俺の事じゃないから。嫁の事だから。

 俺も少しは剣でも練習しようか。恥ずかしいよー。


 グンネル王都の宿でまったりとしていたら、来客があった。

 聞くと、グンネル国王の使者らしい。

「国王陛下がぜひお会いしたいと仰せだ。明日、王宮に来るように」

 使者って、どこもこうなのか、それともここだけがこうなのか、上から物を言う。

「アリストテレスさん、どうします?」

「ゴムの取引の件もありますから、波風を立てない方がいいでしょう。それにもし、無理な事を言われても、近くの方が相手を全滅できます」

 ツェンベリン領の二の舞という事か。

「分かった、そうしよう」

 待たせてあった使者に午前中に行くと伝えた。


 翌日、約束の時間に王宮に出向いた俺たちは早速、謁見の間に連れて来られた。

「その方たちが旅の冒険者か。なるほど、美人の従者を連れているの。それに鳥が引く車を持っているとのことと聞いておる」

「国王陛下にはご機嫌麗しく」

 見ると、南国の国王に似合わない太った国王だ。

 その横には、妻なのか美女が数人侍っている。

 国王からは、カーネル国はどうだとか、ブラックエレファントはどうやって倒したか聞かれたが、ついに本音が出た。

「ところで、余にお主の従者を譲ってくれぬか?それと鳥とその車も所望じゃ」

「この女性たちは私の妻でありますれば、お譲りすることなどできません。鳥はキチンといいますが、キチン車も同じく、お譲りすることはできません」

「ほう、威勢がいいのう。儂も力ずくというのは好まん。金なら所望するだけ差し上げよう」

「私は既にカーネル国内にキバヤシ領を持っており、さらにもう一つ領土を譲られることが決まっております。さらに商売も行っておりますので、失礼ながら、この国の数倍の資産がありますれば、金は必要ありません」

「ええい、嘘を申すな」

 俺に代わって、アリストテレスさんが答える。

「シンヤさまは、たった4人で領土を手に入れた冒険者です。怒らせるとこの国自体がどうなるか分かりません。ここで、解放して頂いた方がお互いの為と思います」

「フン、家宰のくせに、出しゃばりおって、それ、射よ」

 俺たちに向かって矢が飛んで来るが、エリスとミュの二重結界に全て弾かれる。

 昨日の使者としてやって来た男が剣を抜いてこっちに向かって来るが、二重結界に弾かれて尻もちをついた。

「ご主人さまに、剣を向けた者は生かしておけません」

 ミュが額に手を翳すと白い靄のようなものが出て、手に吸い込まれていく。反対に男は干からびていった。

「キャー」

 女性の悲鳴が上がる。

「これは悪魔の所業じゃ、ありったけの矢を射よ」

 たしかに間違ってはいないけど。

 飛んで来た矢で二重結界を破る事はできない。

「うーん、どうするかな?ゴムの取引もある事を考えるとあまり、大きな事はしたくないし」

「では、私が生を吸いましょう。ですが、全部吸わずに少しだけ残します」

「じゃ、ミュに任せるか」

 ミュが両手を上に伸ばした。

「グローバルエクトプラズム」

 俺たち以外でここに居る人々から白い靄のようなものが、ミュに取り込まれていく。

 取り込まれた人たちは、どんどん年をとっていく。

 頭は白髪になり、顔にはしわができた。

 男はお爺さんに、女はお婆さんになり、そこに立っている事もできない。

「な、何をした?」

「あなた方の生を吸い取りました。残りの命はあと1,2年といったところでしょう」

「な、なんだと。戻せ、直ぐに戻せ」

 俺に代わってアリストテレスさんが答える。

「あなたは、まだ立場をご理解されていない。私たちに命令できる立場だと、お思いですか?

 なんなら、ここに居る人間の残りの生を吸い取りましょうか?」

「ひっ」

 それを聞いて、何人かが悲鳴を上げた。

「私たちは関係がありません。全ては国王の企みです。どうか助けて下さい」

 見ると、国王の妻だろうか、老婆となった姿で助けを乞うている。

 アリストテレスさんが、先ほど向かってきた男が持っていた剣を足で、その女の前に蹴った。

 女はその意味を察したのか、剣を持って立ち上がり、国王へと向かって行く。

「ま、待て。儂もこうなるとは思っていなかったのじゃ。儂が何とかするよう頼んでみるから待ってくれ」

 その女だけではない。武器を持ってる人すべてが武器を持ち、国王に向かっているが、なにせ全員が老人なので、動きが鈍い。

「待て、待ってくれ、シンヤ殿、頼む、助けてくれ、うわー」

 国王は妻たちと家臣たちから刺されて死んだ。

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