第137話 ブラックエレファント

 俺たちが象ハンターの事務所に入ると、受付の女性が一人居るだけで、誰もいなかった。

「みんな、狩りに行ってるようだな。アンミュー、所長はどうした?」

「なんか、ブラックエレファントが出たとか言って、みんなと一緒に行ってしまいました」

「なに、ブラックエレファントが出ただと!」

「ブラックエレファントって何ですか?」

「象自体も気性が荒いんだが、更に荒くてな。今までに何人も殺されている。パーティが全滅したってのもあった。

 最近では平気で村を襲うようになって、住民も困っている。

 たちの悪いことに、そいつが群れのリーダーなんだ」

 そんな話をしている所に男たちが、どやどやと入ってきた。

 3人ぐらいが戸板に乗せられている。

「おい、薬草だ。早く出血を止めろ」

「こっちもだ、アンミュー、早くしてくれ」

 見るとかなりの重傷だ。このままだと長く持たないのは、素人である俺でも解る。

 エリスがこっちを見る。

 俺が黙って頷く。

 エリスが一番の重傷者の近くに行って、両手を出した。

 周りの男たちは何事かと見ている。

 エリスが白く輝きだすと同時に、傷が引いていく。

 1分ほどで、男が立ち上がった。

「おおっー」

 残り二人も同時に怪我を治すと、3人の男は手を組み、

「ありがとうこざいます、ありがとうございます」

 と、涙を溢さんばかりに言っている。

「シンヤさん、あんたの奥さんは凄い人ばっかりだな。俺はあんな上級魔法を始めて見たぜ」

 エリスが爆乳の胸を張っている。

 それを見た男たちの鼻の下が伸びているのが分かった。

「それで、ブラックエレファントはどうしたんですか?」

「逃げて来たので分からん。あの近くには村があったはずだ。

 村が襲われなければいいが……」

「よし、今から行こう。襲われてからじゃ遅い」

 ヘドックさんが言うと、逃げ帰ってきた男たちが、

「いや、人数的に無理だ。今ので、3人やられている。人数的に戦える人数じゃない。今、出るのは不可能だ」

「くそっ、どうすりゃいいんだ」

「とりあえず、あの付近の村の住民に逃げるように言って来たが、どこまで逃げ切れるか……」

 アリストテレスさんと相談してみるが、アリストテレスさんも俺と同意見のようだ。

「俺たちが行きましょう」

「上級魔法が使える嫁さんが行ってくれるのは有難いが、あんたらには免許がねぇ」

「ブラックエレファントはギルドから駆除依頼が出ている。冒険者なら免許無しで狩る事ができるぞ」

 所長らしき男が叫んだ。

「俺も嫁も冒険者登録してあります。冒険者として駆除しましょう」

 熱帯地方の林の中をキチン車で行く事は無理があるので、馬を借りて、騎馬で行くことにする。

 だが、ジェコビッチさんはキチンに直接乗って行くようだ。

 所長の案内で、森林の中を進むと川の畔で水浴びをしている象らしき群れがあった。

「あれです」

 小声で囁く。

 あれは象じゃない。

 俺の知識の中では、あれはマンモスだ。

 しかも、その中にひと際大きな、黒いマンモスが居る。

 あれがブラックエレファントと呼ばれるヤツだろう。

 マンモスって寒い地域に居るもんだと思っていたが、違うのか。

「アリストテレスさん、どうやってやりましょうか?」

「デカいですが、魔物と対して変わらないでしょうから、ここはミュさんの出番ですね。林の中なので、火系の魔法は使わずに、ウォーターカッターで首を落とす事はできますか?」

「分かりました、それぐらいなら簡単です」

 ミュが簡単と答えたのを聞いてヘドックが、

「あんたの女房たちって、どんなやつらなんだ」

 と言っている。

 ミュが気付かせるために、わざと風上から近寄る。

 すると、気付いたマンモスたちが一斉にミュを見た。

 ブラックエレファントが雄叫びを上げ、ミュに向いた。

 ミュは、ブラックエレファントに向かって走り出す。

 ブラックエレファントもミュに向かって走り出した。

 ブラックエレファントの直前で、ミュは横に飛び、ブラックエレファントの首に向かって、

「ウォーターカッター」

 手から物凄い水流を出し、あっと言う間にブラックエレファントの首を切り落とした。

 首から血飛沫を上げ、ブラックエレファントの身体が倒れる。

 その前には立派な牙をもったマンモスの頭が転がっている。

 ヘドックたちはすごいはしゃぎようなのに対し、マンモスの群れはどこかへ逃げて行った。

「シンヤさん、あんたの嫁はみんな凄いな。あんたはもっと凄いのかい?」

「いや、俺は剣も魔法もダメな男です」

「謙遜するなって。自分が凄いってやつほど、それほどでもないからな。あんたは本当は強いんだろうな」

 男たちはその場でマンモスを解体し出し、どこから持ってきたのか、解体した肉を荷車に乗せている。

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