第136話 サザンランド

「木の樹液から採れる伸び縮みする生地を探しているんですが、知ってますか?」

「おうよ、もちろん知ってるよ。ただ、あれは服にできねぇし、重いしであまり需要はねぇな。

 あんたら、あんな物を探して何に使うんだい?」

「我々は呉服屋の商人なんですが、あれを服の一部にしたいと考えています。

 実際、俺の国では使っていました」

「ふーん、そうかい、あんな物が使い道があるとはねぇー?」

「ええ、長年探していたんです。やっと見つけました」

「じゃ、俺の知り合いの工場主を紹介してやろうか。やつもジリ品だから、金になるなら有難いんじゃないかな」

 なんと、有力な伝手ができそうだ。

「ぜひ、お願いします。ちなみに私の国では、その生地のことは『ゴム』と呼ばれていました」

「へ-、そうかい、『ゴム』って言うのか。俺たちはただの伸び縮みの生地としか呼んでねえがな」

 そんな会話をしつつ、南へ南へと下って行く。

 時々、盗賊が出てくるが、このヘドックという男もなかなかの使い手だ。

 象狩りを生業にしていると言うだけあって、戦斧を振り回し、2,3人を両断にしていく。

 それを見た盗賊は直ぐに腰が曳けて逃げて行く。

 ミュが出る幕もない。

 ほとんどが、ジェコビッチさんとヘドックで対応できている。

「女性は後ろで隠れておいでなさい」

 なんて言ってるが、その女性二人は神と悪魔だぞ。

 二人合わせると、国が亡ぶ程の力があるぞ。


 1か月後、サザンランドの入り口に着いたが、国境の門のようなものがない。

「この川を渡るとサザンランドだ」

 川が国境のようだ。

 川の両端に港があって、船が渡しを行っている。

 対岸がサザンランドということだろう。

 船にキチン車を積み込み、対岸に渡して貰うが、船があまり大きくなく、キチン車が乗れば人は限られた人数しか乗ることができない。

 水面との距離も近い。キチンって泳げるのだろうか?

 サン・イルミド川ほど大きくはないが、それでも川幅は500mぐらいはありそうだ。

「さて、着いたぜ。ここがウルスラ国だ」

「えっ、サザンランドじゃないんですか?」

「サザンランドだよ。実はサザンランドっていう国はないんだ。この地方は小国ばかり20くらいあるんだが、それをまとめてサザンランドって呼ぶんだ。

 ここはその一つ、ウルスラ国だな」

「と、いうことは王都みたいなものは、無いと言うことですか?」

「一番大きな国が、この次のグンネル国って言うんだが、そこが王都みたいになっている。

 それでも、カーネル国に比べたら可愛いものさ」

「グンネル国までは、どれくらい掛かるんですか?」

「半日ほどかな。なにせ小さいからな。

 そうそう、グンネル国に行くにはまた川を渡らなきゃなんねぇ。

 川が国境だ」

「そんなにいくつもの川があるんですか?」

「ここらは、イルヴァ川の中州にできた国なんだ。

 その中州1つ1つが国になってる。中には親密な国、いがみ合ってる国もある。世界の縮図みたいなところさ」

 ウルスラ国を進むが、道の両方にはヤシ畑が広がり、まるで東南アジアの風景を見ているようだ。

 グンネル国との渡しのある港町についたのが、昼頃だった。

 船の予約をしたら、出航まで時間があったので、レストランで昼食にすることにした。

 さすがは港町だけあって、海鮮料理なのだが、熱帯魚なのか、カラフルな魚ばかり出て、正直あまり美味しくはない。

 渡しから隣国に行くのに船を使うが、その時に入国税も取られるので、色々な国に行こうと思うと、船賃と税金が取られることになり、金銭的にかなり痛い。

 そういった事をヘドックから教えて貰う。

 グンネル国に入るとそこが王都だ。

 ヘドックの案内で、王都の中にあるゴム工場を訪ねる。

 工場の中では20人ぐらいの従業員だろうか、ゴムの樹液と思われる白い液体を煮ており、湯気が出て暑そうだ。

 ヘドックが一人の男を連れて来た。

「紹介するぜ、こっちが工場の社長で、ボントスって言うヤツだ。

 で、こっちがシンヤ・キバヤシと言う商人だ」

「ボントスさん、シンヤ・キバヤシです。早速ですが、この生地、我々のところでは『ゴム』と言いますが、このゴムを買い取らせて頂きたい」

「我々も買い取って頂けるのはありがたい話ですが、問題は輸送方法です。

 川がネックとなっており、大量輸送が出来ないのです」

 それはアリストテレスさんも言っていた事だ。

 俺とアリストテレスさんの話では、船を使う事で対応できるのではないか、という事だった。

 そうなると、セルゲイさんも呼んでくる必要がある。

 明日、もう一度来訪する事を告げて工場を跡にした。

 キチン車で移動していても、気温が高いので、自然と汗が出てくる。

 ミュとエリスの二重結界はあるが、暑さ、寒さまでは防ぎようがない。

 そして、熱中症予防のため、定期的に水を飲む。

 水はラピスの魔法で出してもらうが、それを見たヘドックは、

「こんな上級魔法見たことがねぇ」

 と驚いている。たしかに人では上級だが、それを凌駕するヤツを俺は知っている。

 だが、マリンちゃんもこんな汚い川は嫌だろうな。


 ヘドックが象ハンターの事務所を訪ねると言うので、ついて行く。

 そこでは、ハンターが登録されていて、象を狩るらしい。ハンターは免許制で、免許がないと狩りはできないということだ。

 ここらあたり、生態系の維持の意味もあるのだろうか、結構しっかりした制度だ。

 そういえば、象を飼育して生活に利用するなんて、東南アジアでやっているのをテレビで見た事があるが、こっちの世界では象の飼育はやらないのだろうか?

「象を飼育して利用する、なんてやらないのですか?」

「あんな、気性の荒い生き物、どうしようもねぇな。シンヤさんところでは、やっていたのかい?」

「ええ、やってましたね」

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