第135話 同行者

 元サン・ハン領を進むこと1日、その日の夕方には旧サン・ハン公都に入った。

 さすがは王都に組み込まれたとはいえ、元サン・ハン領の公都だけあって大きな街だ。

 しかし、王都を見て来た俺たちには驚く程の大きさではない。

 人々も活気があって、滅びた国との感じは受けない。

 アリストテレスさんが宿を探すが、やはり、一番高級な宿からは断られたとのことで、中級程度の宿に泊まる事ができた。

 中級程度といっても、高級なビジネスホテルぐらいはあるので、俺としては全然問題ない。

 フロントの人がキチン車が珍しいのか聞いてきた。

「鳥に車を引かせているなんて、どちらからいらっしゃったのでしょうか?」

「我々はエルバンテから来ました。王都見物をして、サザンランドを回って帰る予定です」

「ほう、エルバンテから来られて、サザンランドまで行かれるのですか?それは凄い」

「サザンランドについて何か、ご存じの事がありますか?」

「かなり暖かく、冬でも汗が出るほどだとか、あと夕方に必ず豪雨になるとか、それ以外にはこちらで見ない動物がたくさん居るらしい、とか聞いた事はありますが、私も行った事がないので、噂だけです」

 聞けば、東南アジアみたいな所と思えばいいのだろうか。ゴムの木もあるらしいので、ほぼ間違いはないのだろう。

 すると象とかも居るのだろうか、できれば連れて帰りたい。

 荷物を置いて、いつものように街へ食事に出かける。

 夕食の話題は、必然と先程のサザンランドの話になる。

「ご主人さま、サザンランドには陸亀ホエールのような生き物も居るのでしょうか?」

「さあ、行ってみなと分からないな。象とか居ればいいけどな」

「象って何ですか?」

「俺の国では陸上に居る動物では、一番大きな生き物だったんだ」

 ミュとラピスに説明していると、一人の男が話し掛けて来た。

「あんた、象を知っているのかい?」

 見ると、冒険者らしき男だ。

「ええ、私の国のはるか南に居たと聞いた事がある程度ですが……」

 ここはちっょと、惚けた方がいいだろう。

「ほう、そうかい。俺は以前、サザンランドに住んでいたので知っているが、まるで小山のようだぜ」

「サザンランドに住んでいた事があるのですか?」

「あるよ。今回は依頼で行くのだが、かなり南だ」

 俺たちは道も良く知らないので、経験者が居ると有難い。

 同伴を頼んでみる。

「もし、よろしければ、一緒に行って貰えないでしょうか?

 私たちは初めてなので、案内者が居ると心強いです」

「おう、俺も一人旅で詰らなかったから、そういう事ならこっちも有難い」

 翌朝、俺たちの宿の前で待ち合わせをする事を約束して、その日は別れた。

 その冒険者の男は名前を「ヘドック」と教えてくれた。


 翌朝、宿の玄関に行くと、既にヘドックは来ていた。

「お待たせしました。ヘドックさん」

「いや、俺も今来たところだ。ところで、これに乗って行くのかい?」

「そうです、キチンといい、我々エルバンテ領に居ます」

「へー、そうかい、車を引く鳥なんて初めて見たぜ」

 そんな話をしていると嫁たちが出て来た。

 改めて、紹介すると、

「シンヤさん、あんた3人も嫁を持って身体は大丈夫かい」

 と心配されてしまった。

「ヘドックさんの、家族は?」

「しがない冒険者稼業だからな。いつ死ぬかも分からねぇ、そうなると嫁や子供が可哀そうだと思わねぇか」

 事実、冒険者の死亡率は他の職業に比べて高い。反面、実入りはいい。ハイリスク、ハイリターンの典型だろう。

「ところで、サザンランドへは、どのような依頼で行かれるのですか?」

「象牙だよ」

「象牙ですか?」

「象牙は高い値段で取り引きされる。商人にとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。俺は冒険者と言っても、象牙専門の冒険者と言ってもいい」

 象牙専門の冒険者というヘドックは、髭面の中に黄色い歯を見せて笑った。

 持っている武器も中々の大きな物を持っていると思ったが、象を狩る訳だから、当たり前と言えば当たり前なのだろう。

 象について聞いたみた。

「私の知っている象は大体この車ぐらいの大きさで、群れで移動するんですが、こちらの象もそうなんですか?」

「いや、もっとでかいぞ。体毛が長くてな、牙はこれくらいある」

 手で示した牙は長さ2mくらいありそうだ。

 やはり、この世界の生き物は大きいみたいだ。

「群れで移動するってのは一緒だな。特に子持ちの母象だと気が荒いし、母象を殺すと子象も死んでしまうため、殺すのは雄だけだ」

 なんでもかんでも、狩る訳ではないんだな。どこの世界でも雄は可哀そうだ。夕べも嫁たちに狩られた俺としては、身に染みるものがある。

「ただ、雄は雌に比べて更に大きくてな、牙も立派なんだけどよ、毎回仕留められるかというとなかなかそうはいかねぇ。

 現地でも人を雇うが、大体10人パーティで仕留めるのがセオリーだな」

 昔の捕鯨のようなものか。

「1匹仕留めれば、その10人が1か月は暮らしていける金を手にできる。リスクは高いが、反面稼ぎがいい。

 ただ、死ななければの話だがな」

「良く死ぬんですか?」

「大体10回の狩りで、1人ぐらいは死ぬかな。死ななくても重傷になったりして、狩りができなくなったりするな」

 それはかなり、分が悪いんじゃないか。

 死亡確率1%じゃないか。

「サザンランドまでどれくらいかかりますか?」

「まだ元サン・ハン領だろう。

 ここからだと、馬車だと1か月というところかな。歩くと3か月くらいか。今回は乗っけて貰ったので速く着けそうだ」

「サザンランドってどんな所ですか?」

「暖かくて、冬でも汗が出るって話はしたな。

 後は文化的には、王都とは比べ物にならないぐらい遅れている。

 今は、王都から行く人間も増えたから、それなりの宿はあるが、それでも、一番良い宿が王都の中級クラスだ。

 特に水は汚くて、直接飲むと腹を壊すからな。気を付けた方がいい」

「水はどうしているんです?」

「生活魔法か、水魔法の使い手が出した水を飲むんだが、そんな魔法使いがいない時は、特殊な器でお湯にして湯気を出し、その湯気を冷まして飲むんだ。

 時間も手間も掛かるが、方法としては仕方ない。

 あと、ココナッツって実があって、その実の中に甘い汁があるんだが、これは直接飲んでも大丈夫だ」

 ココナッツは俺の知っている物と変わらないらしい。

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