第134話 一時帰宅

「それではご無事で」

「エドバルドさんも」

 王都守備隊の連中も、しんみりとしている。

 今日の朝はみんな頭が痛かったが、エリスが回復魔法をかけてくれたおかげで、すっきりとした顔になっている。

 王都守備隊の連中は馬上から手を振ってる。

「エリスさまー、ご無事でー」

「エリスさまー、またお会いしましょう」

「エリスさま、好きでーす」

 なぬ、人の嫁に好きだとー?

 それにしても、何故エリスだけ人気がある。

 エリスは獣人の子供たちにも人気がある。

「エリス、やけにモテるじゃないか?」

「そ、そう?なんたって神だもの。普通じゃない?」

「昨日の夜、お前はブラしていなかっただろう」

「子供たちにお乳をあげたら、面倒臭くって」

 それで、お酌をする度に爆乳が揺れた訳だ。それは人気も出る。

「エリスさま、世の中は狼だらけなのです。隙を見せてはいけません」

「そうです、ご主人さまのように、いつ襲ってくるかもしれません」

 いや、反論はできないよ。反論はできないけどさ、もう少し、言い方ってもんがあるだろう。

「えっー、シンヤさまに、いつ襲って来られてもいいようにしとかなくちゃ」

 アリストテレスさんがコケたよ。

「エリスさま、そんないつでも、どこでもって言うのはだめです」

 アリストテレスさんが諭す。

「えっー、ミュは青空の下、草原でシタじゃない。私だってシテ欲しかったのに」

 全員が俺とミュを見る。

「旦那さま、本当ですか?」

「えっ、ええ、まぁ」

「でも、あの時は私が魔法を使い果たして、致し方なくですね……」

 二人で言い訳をするが、全員のジト目がこちらを見て来る。

 しかし、エリスは理由を知っているだろう。

 そこから、俺とミュの言い訳が始まり、最後はどうにか納得してくれた。

 そんなこんなで、王国を進む。

 元サン・ハン領まで6日の距離だそうだ。

 元サン・ハン領への道は石畳でこそないが、十分道幅も広く、田んぼや畑、時々放牧となっており、賊からの襲撃など一切ない。

 宿場町には憲兵の詰所があって、街道の安全も確保されている。

 治安が良いのは、やはり、国王陛下の統治が良いのもあるのだろう。

 6日目、元サン・ハン領との国境の街に着いた。

 今日はここで1泊となる。

 宿の前には、使われていたと思われる大きな門があるが、100年以上前に王国に繰り込まれた小さな領土との門が締まる事はない。

 エミールを帰したために、アリストテレスさんが宿を探してくれるが、

「お館さま、どこも断られてしまいました」

 と言って帰って来た。

「満室なんですか?」

「いえ、どうもキチン車など見た事ない車に乗っていて、しかも見慣れない服を着ているので、蛮族だと思われて、泊めて貰えないのです」

 なんという事だろう。蛮族と見られるなんて。

 まあ、田舎者だから仕方ないと諦め、どこか宿泊できる場所を探すが、適当なところがない。

「うーん、どうするかな?」

 俺が悩んでいると、エリスが、

「久しぶりだから、エルバンテの自宅に帰らない?」

 と、言ってきた。

「でも、全部を一度に転移するのは無理なんだろう?」

「このままじゃ無理だけど、キチンと鳥車を分けて運べば大丈夫よ」

 なるほど、久々に自宅に帰るか。

 元サン・ハン領との門を潜り、だいぶ行ったところで横道に入り、誰もいない事を確認して、まずは車を転移し、2回目にキチンを転移した。

 その後、エリスの転移魔法で、トウキョーの自宅ロビーに出た。

 いきなり、魔法陣が現れたため、侍女たちがびっくりしたが、直ぐにエリスの転移と分かったので、全員が揃って出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ」

「ただいま」

 散歩から帰ってきたような気軽さだ。

 キチンにも餌をやり、車もジェコビッチさんが清掃している。

「このまま、2,3日ゆっくりしようか」

 エリスが聞いてきた。

「いや、そういう訳にもいかないから、明日からは続きの場所から出発しよう。

 なるべく、早くゴムの目途もつけたい」

「じゃ、今日はお願いね」

 見ると、エリスだけじゃなく、ミュとラピスの目もうるうるしている。


 夕べ、ベッドの上で激しい戦いのあった我が家から、昨日の出発点まで転移して旅を続けるが、今日は曇天で、いつ、雨が降り出すか分からない状況だ。

 やはり、自宅のあるトウキョーと元サン・ハン領とは、かなり距離が離れているのだろう。

「転移魔法があるから、宿場町に泊まらなくてもいいんじゃない?」

「旅先の宿に泊まって、料理を楽しむっていうのも旅の楽しみの一つだから。

 それに、人々の生活も見れるのも面白い」

「ふーん、そんなものかなー」

 エリスそんなものだよ。

「私はご主人さまと一緒なら、どこでもかまいません」

「旦那さまに同行するのは、妻として当たり前のことです」

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