第112話 領地
「「「きゃー」」」
女性の声が響き渡る。
「お前たちは何者じゃ」
俺たちでなく、司教が答える。
「公爵さま、あなたは喧嘩を売ってはならない方たちに、喧嘩を売ってしまいました。あなた、いや、このツェンベリン領はもう終わりです。
この方たちは、女神エリスさま一行なのです」
「ふん、そんなじゃれ事に惑わされるものか。親衛隊、切り伏せよ」
「切れ伏せよ」と言われても結界があるため。手も足も出ない。
エリスが手を動かすと、聖剣エクスカリバーがツェンベリン公の右腕に切り掛かった。
その瞬間、右腕が「ジュ」と音を発して蒸発した。
「ぎゃー」
ツェンベリン公が叫ぶ。
「あなたは、私の夫とその妻たち、それに仲間を殺そうとしました。この罪は命をもって償わねばなりません」
見るとエリスは白い翼を出し、50cm程浮いている。
「「「ひっー!」」」
相変わらず、女性の声が響く。
「ま、待ってくれ。儂はそのジャミットに唆されたのじゃ、悪いのは全部、ジャミットじゃ」
「言い訳は、地獄の閻魔さまにでも言う事ね」
エリス、閻魔さまってほんとに居るのか?
「エリスさま、折角なので私が捕食します。エリスさまは親衛隊の方をお願いします」
「わかったわ。ミュに任せるわ」
エリスが手を動かすと、エクスカリバーが取り囲んだ親衛隊の首元に迫った。
「「「ひぃー」」」
親衛隊が剣を振って近寄って来るエクスカリバーをたたき台落とそうとするが、剣の方が蒸発してしまう。
その瞬間、ミュがツェンベリン公の前に出た。
ミュが生を吸い取るように手を伸ばす。
「司教、司教、どうかエリスさまにお怒りを治めてくれるように頼んでくれ。教会への寄付なら望みのままじゃ」
「もう、無理でございます。公爵さまも潔く、諦められませ」
「い、嫌じゃ、エリスさま、お頼み申します。どうか命だけは……」
「シンヤさま、どうします?」
やはり、エリスは女神なのだろうか、こういう時、冷酷になれない。
俺は、アリストテレスさんを見た。
俺に代わって、アリストテレスさんが裁いた。
「エルバンテ公の使いである我が主、シンヤさまとその妻に刃を向けた事は万死に値する。よって、直ちに死刑」
「い、嫌じゃー」
ミュが生を吸っていき、ツェンベリン公が干からびて行く。
「「「ひっ!!」」」
ツェンベリン公の妻たちやその子と思われる公子たちが顔面蒼白で怯えている。
「異議がある者がいるなら、名乗りを上げよ」
アリストテレスさんが引き続き発言するが、誰も名乗りを上げない。
「名乗りを上げないのであれば、本裁きに異論はないものと受け取る。ここに居る全員が証人だ。良いな」
アリストテレスさんが、もう一度、全員を見回す。
「では、ツェンベリン公の家族については廃爵として、公都より直ちに追放。憲兵隊、曳きたてい」
憲兵隊が、妻と公子と思われる10人程を曳きたてて行った。
「親衛隊はどうする?ツェンベリン公の家族について行ってもよいが、いかがする」
親衛隊の隊長と思われる人物が青い顔をして発言してきた。
「我々は、神に敵対するつもりはありません。神に刃を向けた不届き者はいなくなりました。従って我々の主はおりません」
そう言って親衛隊全員が跪いた。
「この中で一番年長の伯爵は居るか?」
「はっ、ここに」
白髪、白鬚の男性が俺たちの前に跪いた。
アリストテレスさんが引き続き、仕切る。
「名前は?」
「はっ、ボルミ・ハミルトと申します」
「見ての通りだ。公主は不在となった。ハミルト殿が臨時の公主を努めるが、良ろしかろう。お館さまいかがでしょうか?」
「うむ、アリストテレスさんの裁可で良いでしょう」
「お言葉ながら、代官としてならばお努めいたしますが、公主には向きません。この地についてはシンヤさまがお納めされるのがよろしいかと存じます」
俺とアリストテレスさんは目を合わせる。
俺が頷くと、アリストテリスさんが言った。
「では、本日をもってこの領地はキバヤシ領とする。なお、代官としてハミルト殿に一時的な自治権を任せる。
もし、領民の為にならない場合、最悪、先の二人のようになると心得よ」
「ははっー、肝に銘じて領民の為に粉骨砕身致しまする」
「今の裁可について、異論のある者は申し出よ」
誰も何も言わない。
「では、異論なしとして、本日よりこの領地はキバヤシ領とし、代官にハミルト伯爵を指名する。宰相、直ちにこの事を領民と各都市の官吏に伝えよ」
宰相が指示すると、役人が一斉に走り出した。
小一時間ほどした頃だろうか。公爵邸の前に看板と、口伝者が立ち、周知している。
「前公爵ツェンベリン公は不正を働いたため、神の思し召しにより廃爵となった。
代わって神の御心によりキバヤシ殿が領主となり、代官としてハミルト伯爵がこの地をお納めする」
早馬も各都市へ向けて出発した。
「いやはや、会長もたった4人で、領土を手に入れられるなんてもんは、規格外ですな、ガハハ」
セルゲイさんが言う。
「ところで、ツェンベリン公へのお土産、どうしますか?」
ポツリとエミールが囁いた。
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