第111話 恫喝
「さて、何のお話でしょうか?些かも心当たりがございません。
それより、もう一つ手土産がございます」
俺が合図すると、入口の扉を開き、縛られた盗賊の頭とゴアテスが姿を現した。
「こやつらは、ここに来る途中、我々を襲った盗賊でございます。
聞くと『ジャミット伯爵』の名前が出てまいりましたので、これは大変と思いお連れ致しました」
「ジャミットよ、前へ。こやつらを知っておるかの?」
「いえ、とんと覚えはございません」
「やはり、そうでしたか。助かりたいばかりに、口から出まかせを言っていたものと推測致します。
で、あれば、これらの盗賊の処罰は憲兵長官におまかせ致しましょう。
ツェンベリン公への使者を襲った罪、ジャミット伯爵との関係を偽った罪、死罪以外はありませぬでしょうから」
「ジャミット伯爵、どうかお助けくださいませ」
「儂はお主たちなど知らん」
「そんな、使者を襲えば、荷は我々の物と仰ったじゃありませんか。
しかし、爆発する竹筒だけは寄こせと。それがバレた時、我々だけ死罪にするのはあんまりです」
「ええい、知らぬ。口から出まかせを言うな」
そんなやり取りをしていると扉が開いて、一人の男が連れられてきた。
スリモンテ店の番頭のドミンゴだ。
「オイラー長官、この男は?」
ツェンベリン公がオイラー憲兵長官に訪ねた。
「この男はスリモンテ店番頭、ドミンゴという男でございます。エルバンテ公使者襲撃の重要参考人として収監致しました」
「公爵閣下に申し上げます。私は何も知りません」
「頭が高い、発言は許可されてから述べよ」
「番頭、お前も1枚噛んでいただろう。
今回はジャミット伯爵直々に指示が出ているので、大手を振るって襲って来たら良いと言ったではないか?それを今更……、あまりにも卑怯だろう」
「いいえ、知りません、知りません」
店主と番頭の言い合いになってきた。
「おや、エルバンテ公使者襲撃の指示をしたのはジャミット伯爵という証言が出てまいりました?ジャミット伯爵、本当のところは、どうなんでしょうか?」
「私は知らぬ、この者たちと会うた事もない」
「それでは、ここに魔道具である真実の水晶を持っております。
この水晶に手を触れると真実を話すと言われております。これを使ってみようと思いますが、よろしいでしょうか?」
俺はミュに水晶を出させ、真実の魔法をかけるように言った。
水晶自体は遠隔の監視しか出来ないが、ミュの真実を語らせる魔法を使ってブラフを装う事にした。
ミュは理解したようで、カイモノブクロから水晶を取り出す。
「それでは、ドミンゴ殿、この水晶に手を触れて下さい。
よろしいですか、ミュ、やってくれ」
「あなたは、エルバンテ公の使者を襲うように、族を雇い指示しましたか?」
「はい、しました」
「エルバンテ公使者を襲うというのは、そもそも誰からの指示ですか?」
「ジャミット伯爵です」
「お聞きの通りです。真実の水晶により、このように語られました。それでは、ジャミット伯爵、同じように水晶に手を触れて下さい」
ジャミット伯爵は震え出した。
しかし、震え出したのはジャミット伯爵だけではなかった。
ツェンベリン公も震え出したのだ。
「このような偽り物、信用ならん。余を誑かす偽善者である。
エルバンテ公の使者も偽りであろう。この者たちを捕らえよ」
俺たちの周りを親衛隊が取り囲んだ。
「さっさと竹筒を出せば良いものを。ジャミット、お前が至らぬからこのような始末になるのだ」
「はっ、申し訳ございません」
「エルバンテ公の使者は、サン・イルミド川で遭難。それで良いかの?」
「はっ、仰せの通りに」
「ファイヤーアロー!」
ラピスがツェンベリン公に向けて、ファイヤーアローを射るが、結界に弾かれて床に落ちた。
「ははっ、無駄じゃ、聖結界が張ってある。魔法は効かん」
「公爵さまお止め下さい。この方たちを怒らせてはいけません」
誰だろうと見ると、ツェンベリン領の司教さまだった。
「お願いです。お止めください」
「ええい、うるさい、司教、お前も川で遭難したいのか。黙って見ていろ」
司教さまが、床にひれ伏し、
「エリスさま、お許し下さい、お許し下さい」
うわ言のように言っている。
「司教、何を恐れている?皆の者、かかれ」
「キーン」
親衛隊が一斉に切りかかって来たが、ミュとエリスの二重結界に阻まれ、全ての剣が弾かれた。
切りかかった親衛隊が驚いている。
「エクスカリバー!」
エリスが叫ぶとツェンベリン公を囲むように白く輝く剣が空中に浮かんでいる。
エクスカリバーと呼ばれた剣が、ツェンベリン公に一歩進むと、
「パリン」
という音がして、聖結界が破壊された。
「な、何をやった?何故、聖結界が破壊された?」
その隙にジャミット伯爵が切りかかってきた。
ミュがその腕を取り、剣を弾いた。
そして、そのまま生を吸うと、見る見るジャミット伯爵が干からびて行く。
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