第113話 側女

 とりあえず、その日は公爵邸に泊まる事になった。

「では、みんなで街に食事に行こうか」

 みんなが「へっ」という顔をする。

「シンヤさま、これから街で食事ですか?」

「旦那さま、公爵邸で食事はしないのですか?」

 エリスとラピスが聞いてきた。

「街の様子を見てみたい。何なら俺一人で行って来る」

「ご主人さまとは絶対離れないと誓っておりますので、私は同行いたします」

 ミュは、そう言うだろうと思ったよ。

「私も行きます」

 エミールが賛同してくれた。

「では、私も行くかな」

 今度はアリストテレスさんだ。

「会長が行くなら護衛の俺が行かねぇって事はないな、ガハハ」

 セルゲイさんも行くようだ。

「私たちもお供してもよろしいでしょうか?美味しいお店を知っています」

 アララさんと盗人姉妹も名乗りを上げてくれた。

「じ、じゃあ、私も行くわ」

「どうぞ、どうぞ」

 エリスが言うと同時にみんな了承してくれたが、これってどこかで聞いたようなセリフだな?


 街に出ると、なんかみんな騒いでいる。

 話を聞くと、ツェンベリン公はかなり、圧政を敷いていたようで、それが解放されて騒いでいるようだった。

 ボルミ伯爵は、領民からの支持が厚いらしい事も分かった。

 まさか、キバヤシ領主自らが街に食事に出るなんて思っていないし、顔もバレていないので、堂々と街中を闊歩している。

「ここが美味しいですよ」

 アララさん紹介の店に入る。

「いらっしゃい、奥の個室が空いているから使ってくんな、お客さん今日はついてるね。領主が代わったので、酒1本サービスだ」

 店主と思われる男が、陽気に応対してくれた。

「俺たちは旅の者で良く知らないんだが、前の領主ってそんなに人気なかったのかい?」

「あの領主のお蔭でどれだけ領民が苦しんだ事か、正直居なくなってこんな事を言うのは不謹慎だが、神は領民を見捨てなかったと思うね」

 エリスが、大きな胸を更に大きくしている。

 う、後ろから掴みかかりたい。

「旦那さま、何かスケベな事をお考えではないですよね?」

 ラピス、お前は本当に読心術は持っていないのか?


 食事から帰ってきたら、エリスたちは子供たちにお乳をあげると言って転移して行った。

 広い風呂で久々に、のんびりと一人で風呂に入っていたが、そのうち、エリスたちが戻ってきて、風呂に入ってきた。

 旅行の最中はなかなか大きなお風呂がなかったので、みんなで入るのは久しぶりだ。

 ところで、気のせいかと思ったが、嫁たちの胸が大きくなっているようだ。

 その事を言うと、

「お乳を上げるせいで、大きくなってるのよ」

 そうだったのか、身体ってまだまだ神秘的だな。

「エリス、ちょっと来てくれ」

「何に、何に?」

「後ろを向いてくれ」

 エリスが後ろを向くと、脇のしたから手を入れてエリスの胸を掴んだ。

「キャッ」

 うん、これだよ、これ。

「エ、エリスさまだけ、ズルいです」

 ミュが、すかさず言ってくる。

 おっ、先っぽから母乳が出てきた。

 指で掬って舐めてみる。

「うん、別に美味しいともまずいともないな」

「どれ、どれ」

 エリス、自分で自分のを舐めてみるのか。

「うん、ほんとだ。子供たちは元気よく吸うから美味しいかと思ったけど、案外そうでもないのね。ちょっと、ミュのも舐めさせて」

 俺とエリスがミュの母乳を舐めてみる。

「対して変わらないな」

「そうね」

 そんな事をしている、と、お互いに舐めっこになってしまった。

「味はあんまり変わらないけど、匂いがちょっとずつ違うかも」

 エリスが言う。

「ミュの母乳はバラの香りがするわ。ラピスはすみれかな。私は何だろう、シンヤさま分かりますか?」

「エリスはそうだな、桜の香りかな」

「桜かぁ、随分と見てないわ」

 こいつ、まだ2歳のはずなのに随分年寄り臭い事を言う。

「桜って何ですか?」

「俺の国に咲く花だな。春になると一斉に咲くんだが、咲いてから2週間ぐらいで散ってしまう寿命が短い花なんだ。

 春を代表する花で、それが一斉に咲く姿はとても美しいんだ」

「私もご主人さまの国で桜を見てみたいです」

 ミュとラピスを連れて行きたいが、今の時点ではそれは無理だ。

 その夜は、ツェンベリン公爵邸の客間の大きなベッドで大いに燃えた。

 そして、またマットが一つダメになった。


 翌朝、公爵邸で食事をしていると、後から現れたアリストテレスさんが、書類を1枚差し出してきた。

「お館さま、これに署名をお願いします」

「分かった」

「何の書類か聞かないのですか?」

「エルバンテ領の通行証か、何かだろう」

「ご存じでしたか」

「アリストテレスさんのことだから、恐らくそうじゃないかと」


 アララさんの店へ納品したため、馬車の数も5輌に減った。

 その馬車に乗って、公都の門を出たところに10人程の人間が立ち塞がる。

「シンヤ・キバヤシさまの馬車とお見受けします。お願いがあります。どうかお聞き届けくださいませ」

 ジェコビッチさんが答える。

「お館さまはこれより王都へ出向く御用がありますれば、ご要望には応じられません。速やかに道を開けられよ」

「私たちは、廃爵されたツェンベリンの妻と子供たちです。この度の処罰を不満に思っている訳ではございません。できれば、わが娘だけでもお傍に置いて頂きたいと思います」

 つまり、側女にしてくれと言うことなのだろう。

 娘が側女になれば、その母親も露頭に迷う事はない。

 嫁たちも哀れと思っているのか、いつもは直ちに反対するのだが、今回ばかりは俺の顔を見ている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る