第110話 犯人

 先頭の方も片付いたのか、アルルさんたちが、族を連れてきた。

 護衛たちの中には、負傷した人も居たが、エリスの治療魔法で瞬く間に回復する。

 回復した人はもちろん、それを見ていた人も全員でエリスに祈りを捧げた。

 エミールがリーダーらしき族を縛っている。

「シンヤさん、エミールさんは若いのに、お強いです」

「エミール、凄いじゃないか。ちゃんとリーダーらしきやつまで捕まえるなんて」

「いえ、首の皮一枚で、どうにかです」

 そう言いながらも余裕の顔をしている。また、それを見て侍女たちがうっとりしているのが気に食わない。

「旦那さま、何かご不満でもありますか?」

 ラピスよ、お前は読心術でも持っているのか?

「い、いや、何でもない」

 捕まえた族は全部で5人だ。

 顔を隠していたスカーフを取ると、一人だけ族に見えない男が居る。

「あなたは、スリモンテ店の店主の、たしかゴアテス・スリモンテ殿ではないですか?」

 ゴアテスと呼ばれた男は黙っている。

「盗賊を雇って襲わせたのですね。公都についたら、憲兵に突き出します」

「ふん、そんなことをしても無駄だ。俺たちにはジャミット伯爵がついている」

 族5人を馬車に乗せ、途中で1回休憩を挟み、午後過ぎには公都に入った。

 アララさんの店に着いた時は、店の従業員全員が出迎えてくれた。

 アララさんの店は俺の1号店には及ばないものの、かなり大きな店である。

 店の裏にあるという倉庫に、従業員総出で物資を入れて行く。

 店の方はマンフレッドさんに任せて、アララさんと俺たちは憲兵隊のところに族を突き出しに行く事にした。

 キチン車と馬車で行くが、キチン車が珍しいのか、道行く人がこちらを見て来る。

 憲兵隊庁舎に着くと、アララさんが説明している。しばらくすると、隊長と思わしき人物が出てきた。

「捕まえた盗賊というのは、この5人でしょうか?」

「そうです、このゴアテス・スリモンテ殿が指示をしていたと思われます」

「スリモンテ店の店主か……」

 どうも、隊長が二の足を踏んでいる。

「スリモンテ店の店主が、何か問題でも?」

「いや、旅のお方は知らないかもしれませぬが、このスリモンテ店はここでは大店でな…、それにジャミット伯爵も…」

「盗賊は盗賊です。法によって捌かれるべきでしょう」

「いや、それはそうですが、ところで、貴方たちはどちら様で……」

 俺に代わって、アララさんが答える。

「こちらはエルバンテ公の娘、ラピスラズリィ公女さまとその夫のシンヤさまです。

 国王陛下へ結婚のご報告とツェンベリン公へご挨拶に向かうところだったのです。

 それを襲ったとなると、死罪だけでは済みませんよ」

「ええっー、これはとんだ失礼を、直ちに長官をお呼び致します。おい、直ちに長官に連絡だ」

 隊長が部下に指示をする。

 俺たちがエルバンテ公の娘とその婿と聞いて、盗賊たちが震え出した。

 盗賊の頭が、言い訳してきた。

「お、俺たちは何も知らされていなかったんだ。ただ、指示のまま襲っただけなんだ」

「なんだ、お前たちだって乗って来たじゃないか。今更、俺一人に責任を擦り付けるな。そうだ、ジャミット伯爵を呼んでくれ。ジャミット伯爵ならどうにかしてくれる」

「今更、そんな言い訳が通ると思っているのか?

 伯爵が盗賊風情と関係があったなんて知れ渡ったら、それこそ大問題だ。

 それにエルバンテ公女を襲った黒幕なんて事になったら、廃爵ではすまない。

 エルバンテ公が、あのハルロイド公に死者を出すことなく完勝したことは、知っているだろう。

 ジャミット領なんて、赤子の手を捻るように滅ぼされるぞ。いや、下手するとこのツェンベリン領もなくなる可能性もあるぞ」

 アリストテレスさんが言い放った。

 ゴアテスと頭は項垂れた。


 翌日、俺たちは土産を積んだ馬車1台と侍女たちで、ツェンベリン公邸に赴いた。

 侍女も含めて、ミュ・キバヤシのドレスを来て、化粧をしており、みんなきれいだ。

 憲兵隊の長官自ら、盗賊たちとゴアテスを引き連れてきている。そうするように俺が頼んだのだ。

 まず、俺たちが謁見の間に入り、ツェンベリン公に跪く。

「この度は、妻ラピス共々結婚のご挨拶に伺いました。両国が幾久しく、友好を保てますよう希望致します」

 挨拶と同時に親書を手渡す。

 侍従が受け取り、宰相がそれを読み上げる。

 内容は単なる挨拶ではあるが、その裏には同時に恫喝も含まれていることは、官僚であれば理解できる内容だ。

 土産は家臣たちの手で馬車から謁見の間に運び込まれた。

 運び込まれた土産物はガラス食器など、このツェンベリン領にはない物ばかりだ。

 ツェンベリン公の顔が緩むのが分かった。

 その他にも、女性用のドレスや靴、それに化粧品が披露される。

 化粧品については、控える女性たちも興味津々のようだ。

 早速、侍女の一人が、ツェンベリン公の娘と思われる人に化粧をしてみせると、もうそこには、女性の溜息が溢れかえった。

「これは、これは、シンヤ殿、珍しい物ばかり、ありがたく頂戴する。我が領内でもこのような物が欲しいものだ」

「この度、このアララ殿の店で、我が店の製品を販売して頂けるようになりました。

 従いまして、今後はこちらで、ご購入頂けるように成ります」

「おおっ、そうか。儂の妻や娘も喜ぶ事だろう。シンヤ殿、感謝いたそう」

 ところでな、シンヤ殿、一つお願いがあるのじゃが……」

「はっ、何でございましょうか?」

「先のハルロイド領との交戦の際に、エルバンテ領内より何か竹筒が飛んで行って、敵の真ん中で爆発したとの噂を聞いたが、あれはこの土産には含まれんのかのう?」

 俺たちは黙ったまま、身動きしなかった。

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