第109話 襲撃

 アリストテレスさんが、盗人姉妹から地形の話を聞いている。

 今は、御者台から降りて車の中だ。

 羊皮紙に簡単に地図を描いていくが、ミドゥーシャとルルミは昔、ツェンベリン公都にも住んでいたことがあって、ここらの地理に詳しかった。

「公都まで、どれくらいで着きますか?」

「馬車ですと、半日といったところです。しかし、隊列を組んでいるので、多少遅くなるかもしれません」

「地図を見ると公都までに、この荒地と草原がありますね。襲われるとしたら、どちらが可能性がありますか?」

「荒地です。所々、小山があって、奪った馬車を隠せるからです。反対に草原は放牧が盛んですし、公都に近く人通りも多いので、大っぴらに襲撃するというのは難しいです」

 地図を見ると、この先に荒地があるようだ。

 襲撃するなら、そこということだろう。

 荒地に入る前に河原に降りて休憩をする。馬たちに水とエサを与えると同時に全員を呼んで、作戦を授ける。

 作戦の説明は、アリストテレスさんだ。

「この先の荒地で、襲撃してくる可能性が大きいと思います。

 こちらとしては、このまま隊列を長くしていては不利なので、荒地に入ると横に5輌並んで、列を7列にして固まって進みます。

 1列目にはアララさんと護衛の方々の馬車が入って下さい。

 最後尾には我々のキチン車と侍女たちの車がつきます。

 敵は恐らく、集団をバラバラにして各個撃破しようとしてくると思いますので、絶対に集団から離れないように、先頭は駆け出してはダメです」

「エミールは弓を持って、先頭車輛に乗り込んでくれ」

「お館さま、判りました。ご指示の通りに致します」

 侍女達もいつもの侍女スタイルではなく、パンツスタイルになって、腰に剣を刺している。

「ラピス、侍女たちの腕前は?」

「私の護衛も兼ねて来ているので、みんな相当の腕よ。エミリーが直々に教えているし」

 やっぱり、エミリーに一泡吹かせてやろう計画は中止しよう。

「アリストテレスさん、敵はどのような戦法で来ると思いますか?」

「お館さまはどう思いますか?」

 逆に聴かれてしまった。

「俺は、まずはこの隊列を止める事を優先するでしょう。しかし、襲撃するなら後方から攻める方が簡単です。

 ですので、全体の2割ぐらいで隊列を止め、止まったところを後方から襲撃と考えます」

「私の見立ても、お館さまの意見の通りです。ここは後方を厚くしておいた方が良いでしょう」

「それなら、私も後方に居た方が良くないでしょうか?」

「隊列を止めるためには、屈強な輩が来ると思われる。もしかして、頭が来るかもしれない。

 エミールの腕は私も知っているが、そいつらに十分対応できると考えている。

 ここは前方に居て、対処して貰った方がいい。できればでいいが、リーダーを捕まえて欲しい」

 全員、配置についたところで、集団となって進む。

 1時間くらい進んだだろうか、エミールに代わって見張台に居たミドゥーシャが叫んだ。

「向こうの小山に砂塵が見えます。恐らく馬でこっちに向かって来ているものと思われますので、敵襲の可能性が高いです」

 言い終わらないうちに、集団が停止した。

「来たぞ!」

 みんな、車の外に飛び出す。

 すると俺たちを囲むように80人くらいが居た。半分くらいは馬に乗っているが、残り半分は徒歩で剣を持っている。

「荷物と女を置いてさっさと消えな。そうすれば命までは取らねぇよ」

 うむ、強盗と同じセリフだ。こいつら馬鹿の一つ覚えで、この言葉しか知らないのか?

「断る!」

「ええい、面倒だ、切れ!」

 頭らしきやつが叫んだ。

 思わず、『助さん、格さん懲らしめてあげなさい』と言いたくなるが、ここは空気を読むところだ。

「応戦!」

「ファイヤーボール!」

 ラピスが、ピンポン砲弾くらいのファイーボールを頭目がけて投げた。

 人間で使える魔法はこんなもんだ。ミュの魔法が異常なのだ。

 頭は剣でラピスのファイヤーボールを弾いたところに、セルゲイさんの矢が飛んできて右肩に刺さった。

 頭は思わず剣を落とす。

 それを合図に、こちらから一斉に切り掛かる。先手必勝だ。

 ジェコビッチさんは、いつの間にキチンを車から離したのか、キチンを相手の騎馬にけしかけている。

 キチンは跳躍力が凄いので、馬ぐらいは軽々と飛び越してしまう。そして、飛び越すと同時に相手を蹴落とすのだ。

 蹴落された方はその衝撃で命を落とすこともある。えげつないと言えばえげつない。

 徒歩の連中は下っ端なので、侍女たちで十分相手が務まる。

 セルゲイさんが行くところ、相手は一太刀で刈られていく。まるで雑草を刈っているようなごとくだ。

 ジェコビッチさんも凄い。セルゲイさんが象なら、ジェコビッチさんは蝶だ。まるで舞うように相手を捌いていく。

 10分ぐらい経過しただろうか。盗賊共が崩れ出した。

 下っ端たちが、逃げ出している。

 ふと見ると、頭とその陰に隠れるように男がいる。

「ミュ、頭と、あの横の男を捕まえてくれ」

 敵わないと見たのか、頭とその横の男が真っ先に逃げ出した。

 ミュが飛行して頭たちの前に出る。

 一瞬にして悪魔が現れたので、二人は動揺しているようだ。

 ミュが魔法を掛けるのが分かった。

 二人が馬から降り、跪いている。

 セルゲイさんが縄を持って走って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る