第108話 盗人姉妹

 妹はしばらくすると、目を覚ました。

「ルルミ、ルルミ」

「お姉ちゃん」

「気分はどう?」

「不思議なくらい、何ともない。気分も爽快よ」

 姉と言われる人物は、俺たちの方を向いて、

「ありがとうこざいました。この御恩は一生忘れません」

「それじゃ、俺たちはこれで」

「旅の方とお見受けしました。せめてお名前たけでも教えて下さい。あとお泊りのお宿も教えて下さい。明日、改めてお礼に伺います」

 エリスたちが子供にお乳をあげたいと言って来たので、さっさと名前と宿を教えて帰ることにした。

 宿に帰ると、エリスたちは直ぐに転移していく。

「お館さま、明日の朝、あの娘たちが押しかけて来ないですかね?」

「アリストテレスさん、不吉な事を言わないでよ」

「シンヤさま、分かりませんよ。家財道具一式持って、連れて行けなんて言って来るかも」

「エミールまで、不吉な事を言わないでくれ」

「いやいや、アリストテレス殿とエミール殿の言われる事は、以外と当たっているかもしれませんぜ、ガハハ」

「セルゲイさんまで、俺をあんまり困らせないでくれ」

 3人はこの後、笑いあった。


 朝、扉を叩く音がする。

 ミュが出ると宿の従業員が居て、お客さまだと言う。

 嫌な予感がする。

 すると、従業員に通された先には、昨日の姉妹がそこに立っていた。

「おはようございます。昨日はありがとうございました」

「いえ、もういいです。お気持ちは十分頂きましたから」

「それで、妹とも話し合ったのですが、この感謝は、一生をかけてお仕えするしかないという結論に達しました。

 つきましては、一緒に連れて行って貰えないでしょうか?」

「はっ?」

「「「だめです!」」」

 嫁3人が反対した。もちろん俺も反対だ。

 騒ぎを聞いて、エミールやセルゲイさん、侍女たちまで起きてきた。

「会長、どうしたんですかい?ガハハ」

 顛末を話す。

「お嬢さん方、それは無理って話だ。昨日の事はもういいから、帰って寝な。ガハハ」

「そうです、連れて行けと言われても困ります」

 エミールが、イケメンの顔で爽やかに説得する。

 彼女たちは、その顔をぼっーと見ていたが、

「いえ、もう家は引き払ってきました。帰ろうにも帰る所はありません。人助けついでに、もう一つお願いします」

「いや、そう言われても、こちらもただの観光で旅している訳ではないから」

「何でもします。スリに空き巣、色仕掛けに詐欺、殺し以外なら何でもできます」

 それって犯罪者じゃねぇか。

「そんな、犯罪者を伴にする訳にはいかない」

「連れて行ってみたらどうでしょうか?」

 アリストテレスさん、正気か?

 そういえば、アリストテレスさんはシミラー元将軍の娘、アンジェリカさんも引き取った過去があるな。彼女は今、身の回りの世話をしているとか言ってたが。

 俺が渋っていると、

「私が面倒を見ましょう。それでいかがです?」

「そこまで、言われたら、反対する事もできません。アリストテレスさん、お願いします」

 アリストテレスさんが質問する。

「では、そういう事に決まった。まずは名前を教えてくれないか?」

「私はミドゥーシャで、こっちは妹のルルミです」

「歳はいくつかな?」

「私が19で妹は18です」

「あら、私たちと同じくらい」

 ラピスが言う。

 彼女たちの持って来た荷物は服ぐらいのもので、その服も持っている数は少ない。手荷物も一人2つずつぐらいだった。

 荷物は荷物車の方に入れて貰い、二人は御者台に乗って貰う事にした。

 御者のジェコビッチさんが、若い子二人に挟まれて鼻の下を伸している。

「ジェコビッチさん、二人は盗人姉妹ですからね。隙を見せると財布を抜き取られますよ」

「そ、それは昔の事です。今はもうそんな事はしません」

 さっき、やると言ってただろう。

 しかし、色仕掛けとか言っていただけに、二人とも顔は美人だ。

 それを嫁たちに言うと、エリスは黙って俺の右腕を力いっぱい摘まんだ。

 ラピスは左腕を、これまた力いっぱい摘まむ。

 ミュは抱き着いてきて

「ご主人さまがどうしてもと言うなら、ミュは従います」

 怒っているが、可愛い事を言う。

「大丈夫、ミュが居るのに他の女に目移りなんてしないよ」

 その時、俺は何度目からの地雷を踏んだ事を自覚した。


「シンヤさま、どうしたのですか?」

 アララさんが尋ねて来た。

「いや、ちょっと怪我をしまして……」

「まあ、大丈夫ですか?」

「しばらくすれば治ります」

 ミュに抱きかかえられ、集合場所に来た俺は皆の注目の的だ。

 あの後、エリスとラピスにヒールの踵で、両足を踏みつけられた。

「出発!」

 マンフレッドさんが叫ぶと、俺たちの一団は、アララさんの馬車を先頭に出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る