第105話 クローン
宿に帰ってきて、4人で話をする。
アリストテレスさんは、どうするか聞いてみたが、遠慮するとの事だった。
「それでクローンって、どういう事なんだ?」
エリスの話は、こうだった。
この世界を創ったのは創主神だが、その創主神は、この世界とは違う世界で研究をしている研究者だった。
たまたま、実験の時に「まぜるなキケン」と書かれていた薬剤を混ぜたところ、爆発が起こりそうだったので、違う世界に転移させた、つまりは投げ捨てたのだそうだ。
転移させたところで大爆発が起こり、その爆風がどんどん広がっていった。
これが俺たちの世界で言われている「ビッグバン」という現象らしい。
創主神はしばらく、そのことは忘れていたが、そのうち、星が誕生し、その星に生物が誕生することで、今度はそちらで様々な実験をやるようになった。
その一つが地球であるが、他の星でも実験をしているため、ずっと見ている訳にはいかない。
そこで、自身のクローンを造り、そのクローンと言う女神に監視させるようになったと言うのだ。
ただ、監視するにしても何もできないと弊害もあるので、様々な魔法力を与えたということだ。
女神は500年ごとに交代するらしく、そのために20年位前から先代の女神がクローンを製作していたらしい。それが今のエリスということだ。
エリスは20年間、培養液の中で育成され、育成の途中で今までの歴史や知識、魔法力を与えられるとの事だった。
あまりの衝撃的事実に愕然とする。
「そ、それじゃ、ここは地球なのか?」
「そうよ、シンヤさまたちが生存している1億8千万年ぐらい前かしら」
「人類の起源って百万年ぐらいじゃないのか?」
「創主神さまが何度も創っては、やり直してるわ。恐竜もそう、隕石1個で全滅する訳ないじゃない。
それにシンヤさまの時代だって、北京原人やネアンデルタール人が居た時代があったでしょう。
あれも実験の結果、人族の方が良いって事で止めた訳」
「それじゃ、ここの大陸は何大陸なんだ?」
「ここはアトランティス大陸よ。だから、オリハルコンが産出されるわ。
あれは、アトランティス大陸以外では取れない鉱物資源よ」
「すると、この大陸は一晩にして海に沈むのか?」
「沈むけど、今じゃないわ」
「そうしたら、ここに住んでいる人たちはどうなるんだ」
「一旦、滅びるけど転生するわ。シンヤさまたちの世界に転生していくの」
俺たちは、神の手の中で生かされているモルモットなのか。
「あ、あの、ご主人さま、話が全然分かりません。この地が沈むということでしょうか?」
「今ではないが、沈むらしい」
「私たちはどうなるのでしょうか?」
「次の世界に転生するらしい」
深刻な話にみんな黙っている。
「エリス、この世界に人間族以外が居るのはどういう訳か教えてくれ」
「悪魔族は、神を創る際にちょっとした手違いがあったの」
「言わば、失敗したという事か?」
「うーん、正直に言えばそういう事だわ」
「じゃ、獣人たちもそうなのか?」
「あれは人族と融合しようとしただけなの」
「魔物はどうなんだ?」
「あれも動物を変化させようとした失敗作かな。
だから、一回リセットして、シンヤさまたちの大陸で再度人族だけの世界を創ってみた訳」
言葉が出てこない。
「何で、エリスは俺の嫁として側に居るんだ?」
「監視といっても決まった仕事はないの。だったら好きな人たちと一緒に居た方がいいじゃない。
長い女神の歴史の中で、初めて人間と身体を交わした女神になったわ。そういう意味では、私は駄女神なのかもしれない」
「「エリスさまは駄女神なんかじゃありません」」
「俺もそう思う。エリスは駄女神じゃない」
「怒った?でも、創主神さまには逆らえないわ。誰でも一度は滅ぶわ。一人ずつ死ぬか、全員一緒に死ぬかの違いだけど。
だったら、今を精一杯生きる方がいいわ。だから私はシンヤさまと一緒に居たい。クローンだけど、好きな人と一緒に居たい。だめ?」
きっと、エリスはクローンであることが嫌なのだろう。人間として生きたいというのが伝わってくる。
「エリスは、だから赤ちゃんが欲しかったのか」
「クローンに生殖能力はつけて貰えなかった。でも、わたしはシンヤさまとラピスのおかげで、母になることができたわ。すごく感謝している」
「エリスさまの言ってる半分以上は理解できません。ですが、私たちの家族であるという事は分かりました。
私も一人で、人の目を気にしながら、200年も生きてきました。
私は、ご主人さまと一緒になれて、本当に良かったと思います。
そして、好きな人の赤ちゃんまで居るのです。悪魔として、これ以上の幸せはありません」
ミュも人間になりたかったのかもしれない。
俺は、まず、エリスを抱きしめた。
エリスが泣いている。そういえば、エリスの涙を見たのは最初の時に続き、2度目かもしれない。
次にミュを抱きしめる。ミュも泣いている。
「ミュ、何が悲しい?」
「いえ、嬉しいんです。ご主人さまとエリスさま、それにラピスさま、みんなに囲まれて、子供たちにも囲まれて。
できれば、ずっーとこのままで居たい。生まれ変わっても」
「俺たちは転生するそうだから、生まれ変わっても一緒になれるかも」
「そしたら、私は絶対、ご主人さまを探し出して、また妻になります」
「わたしもなるわ」
「私だってなります」
「うん、またみんなで家族になろう」
「あっ!」
「どうした、エリス?」
「子供たちにお乳あげなくちゃ」
「あっ、ほんとだ。お腹空かしてるかもしれません」
「エリスさま、早く転移しないと」
3人はさっさと転移して行ってしまった。
俺は広い部屋の中にポツンと残されたままだ。
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