第106話 盗賊
朝、起きて集合場所へ行ってみると馬車35輛が整然と並んでいた。
ツェンベリン公、モン・ハン公、国王陛下への贈り物として馬車1台ずつ、それ以外はアララさんの店で販売する商品だ。
先頭はアララさんたちが乗り、次は護衛が乗る。
途中に護衛の馬車を挟み、最後尾に俺たちの乗るキチン車、キチン車の前の馬車には侍女たちが乗っている。
ツェルンの住民もこれだけ大きな輸送隊は珍しいのか、道路に出てきて見ている。
先頭が動きだしてから俺たちが動き出すまで、多少の時間差がある。
エミールは御者台の後ろに取り付けた見張り台に上がり、見張りをしており、何かあったら、通話菅で車内の俺たちに連絡をくれるようになっている。
ツェルンからツェンベリン公都まで1泊2日の距離だそうだ。
途中の街で1泊するらしい。
「アリストテレスさん、襲ってくるでしょうか?」
「間違いなく、襲ってくるでしょう。なにせ宝の山が30輛も連なっているのですから。問題はどこで襲ってくるか、でしょう」
「アリストレテスさんの考えは?」
「輸送の事を考えれば、明日、公都に入る前でしょう。それ以前なら盗賊でしょう。
盗賊は1輛あれば、かなりの金になりますから、1輛狙いで来るかもしれません」
1時間ほどして休憩になった。キチンは耐性があるので、3時間ぐらい休憩なしでも大丈夫だが、馬の場合はところどころ休憩を取り、水を飲ませる必要がある。
とりあえず、ここまでは順調だ。
そんなことを繰り返し、昼食になった。休憩時は固まって休憩になるので、この時だけは話ができる。
そうするとアララさんたちが近づいて来た。
「シンヤさま、ご苦労さまです。この先荒野になります。賊が襲うとなれば、恐らくそこです。お気を付け下さい」
荒野に入る。ところどころ、丘があり、まるで西部劇に出て来るような所だ。
その中を整然と一列になって進んで行く。
1時間ほどした頃だろうか、見張り台のエミールから通話菅で連絡があった。
「先頭車両から手信号がありました。不審者を見つけたみたいです。お気を付けください」
それを聞いて、セルゲイさんが御者台の方に行く。
ラピスも愛用のレイピアを掴んだ。
「敵襲、敵襲」
エミールの声が響くと馬車が停車した。
後方の扉を開けて、キチン車より降りる。見ると後ろの方に土煙が上がって、馬に乗ったいかにも盗賊らしき者たちが、10人ぐらいで突っ込んで来る。
「アリストテレスさん、指揮はお任せします」
「ミュ奥さま、このまま後ろから来る盗賊は、ファイヤーボールで消し去って下さい。
その後、前方に移動し、同じように片づけて下さい」
「分かりました、ファイヤーボール!」
直径1mぐらいの、ファイヤーボールが盗賊たちに向かって行くと、それが包み込むように広がった。
そして、広がったまま盗賊たちを包み、ファイヤーボールが消え去ると、そこには炭化した人型と思われるものしかなかった。
今更ながら、ミュの力はすごい。
今は、昼間で本来の力は出ないハズなのだが、瞬殺だ。
後方からの盗賊を消し去ったミュは、翼を出して前方に飛んで行く。
ミュが飛びながら、ファイヤーボールを打ち出したところが見え、盗賊共にファイヤーボールが飛んで行く。
このファイヤーボールも盗賊共を包み込むように広がり、そして消え去った後には同じような人型の炭が残っていた。
「エリス、前方へ行ってみよう。ラピスとセルゲイさんたちは、このまま護衛を頼む」
エリスに抱えられて、前方まで飛ぶ。
白い翼を持った女性が現れたのを見て、全員が驚いている。
アララさんが話しかけて来た。
「エリスさまって本当に女神さまだったのですか?」
「だから、そう言ったじゃない」
その場で全員が跪づいた。
一人だけ、震えている男が居る。
「隊長、この男は?」
「こちらへ来る前に雇った男でミレンと言います」
「ミレン、何故震えている?」
「申し訳ありません。俺はただ、命令されただけなんです。命令どおりにしないと殺すと言われて」
「隊長、どうしようか?」
「盗賊は縛り首と決まっています。後で死ぬもここで死ぬも同じなら、面倒がない分、今殺しましょう」
隊長が剣を抜いた。
アララさんやマンフレッドさんも当然という顔で見ている。
その時だ、男が短剣を出して俺に向かってきた。
「死ねー!」
だが、ミュとエリスの二重結界に守られているため、俺の前で弾かれる。
「私のご主人さまに刃を向けましたね。この代償は命で払って貰います」
ミュが、左手を男の額に当てた。
すると、白いエクトプラズムのようなものが、ミュに流れ込むと反対に男が干からびていく。
ミュは翼と尻尾を出したままなので、その姿は生気を吸い取っている悪魔そのものだ。
男が、干からびて絶命した。
「ひ、ひぇー!」
護衛の誰からだろうか、悲鳴があがる。
「ご主人さまに敵対する者は、こうなるのです」
「私の家族に害を成す者に、神の加護はありません」
そこに居た全員が土下座状態になった。
キチン車に帰るとミュとエリスの正体を知らなかったエミールだけが震えていた。
「エミール、人間深くは考えない事だ」
エミールは黙って首を縦に振った。
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