第94話 祭り

 祝勝会は鐘4つ、つまり昼の3時くらいからだ。

 しかし、広場には朝から人が繰り出して、誰が持ち込んだのか酒も振舞われている。

 どうやら、飲食店のオーナーたちが、自費で振舞っているらしい。

 寄宿舎の子供たちやトウキョーの街からも人が来ている。

 もちろん、各貴族の貴族領からも来ているので、当然俺の領土、キバヤシ領からも獣人たちが集まっている。

 農作物は戦争があるということで早めに収穫したこともあり、今の時期は仕事と言えるようなものもなかったので、俺が「全員来い」と言って、ホーゲンたちにキチン車で迎えに行かせた。

 宿泊は工場の社宅に泊まって貰った。工場の従業員がトウキョーの方に移動したので、社宅が空いていたから丁度良かった。

 始めて見る公都にキバヤシ領の領民は目を白黒させている。

 今まで、獣人という奴隷だったのだ。その気持ちはわからなくもない。


 教会の鐘が4つ鳴った。

 舞台に司会者が出て来て、今回の戦争の顛末を面白おかしく話し出す。

 戦争に参加していた兵士たちから歓声が上がる。

 船溜まりの合戦では工作兵が樽を投げ入れ、点火した樽が敵船を燃やすくだりは興奮ものだった。

 さすがは弁士である。

 そして、防衛戦になり、落とし穴を使っての防衛では見事なまでの戦いが披露され、聞いている方は興奮ものだ。

 兵士の一人は、

「俺が矢を射た」

 と声高らかに叫んでいる。

 しかし、ここで、名を揚げられない人がいる。

 アリストテレスさん、エリスにミュだ。それ以外にもシミラー将軍もいるが、そこは秘匿にせざる得ない。

 弁士の戦いの話が終わると、今度は大道芸人たちが出て来た。

 こちらもコミカルな中にヒヤリとする技が見れて大いに沸いている。

 この大道芸人たちも、これに出ると次の仕事がたくさん来るというので、無料でもいいから出してくれと頼まれている。

 最初の頃は、大道芸人たちを説得して回ったのが嘘みたいだ。

 そして、大道芸人たちの芸が終わるといよいよ学院生の登場だ。

 既に知っている都民の若者は興奮状態で、ステージに齧り付いている。

 俺の領地から出てきた田舎者たちは後ろの方に陣取っていたが、雰囲気が変わったステージを興味深げに見ている。

 音楽が鳴り始めると同時に、女の子たちがミニスカート姿で現れた。

 しかもしっかり化粧をしているので、可愛い中にも大人らしさがある。

 今回は、センターが二人いる。

 あれは、ソウちゃんと隣はうさぎ耳の子、そうサリーちゃんだ。

 踊る度にうさぎ耳がぴょんぴょん跳ねてすごく可愛い。

 1曲終わって、MCのソウちゃんがリードする。

「みなさん、今晩わー」

「「「「今晩わー」」」」

 男のダミ声が響くのは異様だ。

「今回は、隣のうさぎ人のサリーちゃんと二人でセンターをやります、みんなよろしくねー」

「「「「おおっ」」」」

 もう、1曲やってから、メンバーの紹介を行う。

 ソウちゃん、サリーちゃんの後ろには、イリちゃんとマリンちゃんが居る。

 マリンちゃんはすごく大人に見えて、水も滴るいい女って感じだが、人魚なので水が滴るのは当たり前なのかもしれない。

 コンサートの興奮の中、あっと言う間に持ち時間の鐘1/3が過ぎて終わりになったが、ステージ前では興奮と化した男どもがステージに上がろうとしたり、花を投げ入れたり、凄い状態だ。

 アンコールも既に2曲やった。

 時間も押しているので、学院生のステージは終了したが、興奮した男共は収まらない。

 司会のガルンハルトさんが強制的に進行する。

 最後はやはり、ファッションショーで締めくくる。

 今回は、普通の服はない。全部がウェディングドレスだ。

 1週間でエイさんに仕上げて貰ったが、これも織機とミシンのおかげだ。

 14着だけだが、これは女子たちの興奮を高めた。男の歓声に変わって、黄色い声がする。

 前回のショーでは、ラピスが結婚し、しかも出産しているので、今回は誰が結婚するのかと噂になっている。

 そして、最後の4着となった時、出てきたのはイリちゃんだった。

 純白のウェディングドレスのイリちゃんはすごい綺麗で、会場の誰もが話をしていない。

 酒の入ったコップを持っている人は、そのまま固まっている。

 次に出てきたのはソウちゃんだ。こっちもイリちゃんとは違う、純白のウェディングドレスで、やはり綺麗としか言いようがない。

 そして出てきたのは、ベールの上からうさぎ耳が出ているサリーちゃんだった。

 純白のドレスに、うさぎ耳がとっても可愛い。

 会場が、ほんのりとした感じになる。

 最後に出てきたのは、マリンちゃんだ。

 マリンちゃんはやや大人びて見えるせいか、白のウェディングドレスがすごく似合う。化粧の顔も言葉が出ない。

 会場の人は、みんな息をしていないのかもしれない。

 風の音も篝火の音も全てが静寂に包まれた。

 男も女も魂を抜かれている。

 そして会場に居る人たちは思っている。きっと、最後に言うだろうと。幸せの言葉を。

 マリンちゃんがステージの後ろに来て、みんなの方を振り返った。

 みんなの心臓の音がシンクロしている音が聞こえる。

「私、マリンは……」

 シーンと静まり返る。

「みんなのお嫁さんでーす!!」

「「「「おおっー」」」」

 轟いた。そう轟いたのだ。この会場から物凄い声が轟いたのだ。

 しかし、それはどういう意味だ。

 アイドル的な発言だ。みんな幸せな気分になれる。

 そう受け取ればいい。実際、涙を流している男も居る。

 ミュとエリスとラピスは子供たちを抱いて、俺の方をジト目で見る。

「旦那さま、変な事は考えていませんよね」

「そうよ、第四夫人なんて事はないわよね」

「ご主人さま、悪魔は嫉妬深いのでございます」

「第四夫人には私エミリーがおりますので、第五夫人ならばよろしいかと」

「「「却下」」」

 エミリーの提案は速攻で却下された。

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