第93話 出産

「男の人はじゃま、じゃま」

 どこにこれだけ産婆がいたのだろうかと、思う程の産婆がいる。

 これがホントの産婆カーニバルなんて、呑気な事を考えていたが、俺の居る待機部屋に入って来た公爵が、

「また、なんと慌ただしい、祭りのようじゃの」

 って、アンタも産婆カーニバルなんて考えていたのかい?

 エリスとミュは出産の方に立ち会っている。

 エリスが居るから、余程のことがなければ大丈夫と分かっていても、出産は女性にとっての大仕事。

 気持ちが落ち着かない。

 公爵さまも同じなのか、口では騒がしいと言いつつも、貧乏揺すりが止まらない。


「おぎゃー、おぎゃー」

 う、産まれた。

「婿殿!」

「父上!」

 俺の子が産まれた。

「「おぎゃー、おぎゃー」」

 公爵さまと目を合わせる。

 他の男衆もこっちを見る。

「双子か?」

 泣き声がふたつ聞こえる。

「婿殿!双子じゃ、双子じゃ」

「父上、双子です」

「「「おぎゃー、おぎゃー」」」

 えっ、泣き声がみっつ。

 またまた、公爵さまと目を合わせる。

「父上、赤子の声が三つ、聞こえますが、錯覚でしょうか?」

「婿殿、儂の耳にも三つ聞こえるが、錯覚かの?」

 その部屋に居た男たちもみな怪訝な顔をしている。

 扉をノックして、エミリーが入って来た。

「三つ子です。全員、女の子です」

 三つ子、その言葉が一瞬理解できなかった。

「ええっー、三つ子?」

「そうですよ、三つ子ですよ。シンヤさま、アンタも好きねぇー」

 だから、エミリーよ。お前はどうして、いつも一言多いのだ。

 早速、ラピスの部屋に行ってみる。

 行くと、ラピスが生まれたばかりの子にお乳を与えていたが、ミュとエリスもお乳を与えていた。

「ミュにエリス、何故、お乳を与える事ができる?」

「ご主人さま、エリスさまが私にお乳が出るようにしてくれました」

 おい、女神ってそんな事もできるのか?

 ということは、エリスは自分でお乳が出るようにしたのか?

「ご主人さま、私はこの手でご主人さまの子供を抱いて、お乳を与えるようになれるなんて思ってもいませんでした。ラピスさまに感謝致します」

「旦那さま、子供の名付けは父親の仕事です。早速、この子たちに名前を付けて下さい」

「おお、そうじゃよ、婿殿。早速、名前を付けられよ」

 こんな時、エリスは黙って得意げな顔を向けてくる。

 その顔がちょっと癪に障るが、なぜか幸せを感じる顔だ。

「まずはラピス、大仕事ご苦労さま。ラピスか10か月もの間、守ってくれたから丈夫な子が産まれた。感謝してもし切れない」

「エリスはこの戦争といい、ラピスへの祈りといい、1日も欠かす事なくやってくれた。エリスも本当にありがとう」

「ミュもこの戦争で活躍してくれたから、ここで新しい命を迎える事ができた。ミュは影の功労者だ」

 全員が涙を流して聞いている。

 俺は父親になった。なったが、母親と違うのか、直ぐに実感が湧かない。

 公爵さまに、そんな事を言うと、

「父親なんてそんな者じゃよ。ラピスが生まれた時、儂もそうじゃった。だが、子供が父上と呼んでくれた時、儂も父かと思った時から、自分が父親になったと自覚してきたんじゃよ」

「父上、子供の名前の事ですが……」

「おお、早く付けられよ。儂も1号、2号、3号と呼ぶ訳にもいかんからの」

「名付けに決まりのようなものは…」

「無い、好きに付けられよ」

 俺は頭を抱えた。

 昨今、子供の名前はキラキラネームとかいろいろ言われているけど、自分がそうなったらほんとに悩む。

 姓名判断だとか字画の問題とか、ここにはそんな辞書はない。

 結局、3日3晩悩んだ。

 部屋から出て来た俺を待ち受けていた嫁たちが、

「お名前は決まりましたか?」

 と言う。

「エリスが抱いてる長女は『アヤカ』だ」

エリスが、

「あなたは『アヤカ』よ。アヤカちゃん、こんにちわ」

 なんて言ってる。

「ミュの抱いている次女だが『アスカ』だ」

「あなたは『アスカ』よ、アスカちゃん」

「そして、ラピスが抱いている三女は『ホノカ』だ」

「『ホノカ』ちゃん、私がママよ」

「婿殿、良い名じゃ、アヤカ、アスカ、ホノカか。何か意味があるのかの?」

「まずは『アヤカ』ですが、これは私の彩という漢字の読みから名付けました。親の思いを汲み取って欲しいという意味があります。

 次に『アスカ』ですが、明日という意味は将来を意味します。将来に渡って希望があるように、との思いから付けました。

 最後に『ホノカ』ですが、仄かというのは平和で無事過ごせる日々のように、との思いから付けました」

「おお、ちゃんと意味があっての事か。目出度い、目出度い」

 その日、ラピスの出産と三つ子の名前、それに戦勝を祝って1週間後に大々的に祭りを催す事が公爵さまより発表された。

 祭りの日は無礼講で、貴族、一般人、貧民、獣人に関係なく、中央広場にて酒宴が催される事も同時に発表になった。

 費用は全て、公爵さま持ちだが、シミラー将軍の家財没収で財政的には問題ない。

 と、なるとアレをやるか。

「と、いう訳で、また舞台で彼女たちの歌と踊りをやって貰いたいと思いますが、なにしろ1週間しか時間的余裕がないので、どうでしょうか?」

 学院長のエルザさんが、出席していたソウちゃん、イリちゃんに顔を向ける。

「問題ありません、新メンバーも合わせて一緒にやります」

「ソウちゃん、プロデュースお願いできるか?」

「はい、一生懸命やってみせます」

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