第95話 片づけ

 祭りは夜遅くまで続いた。

 実際は、ファッションショーが終わった時点で終わりだったが、人々がなかなか去ろうとしないのだ。

 獣人族たちと酒を飲んでいる人族も居るし、ステージに上がってモデルのマネをする女の子も居る。

 また、そこに近所の飲食店のオーナーが酒を差し入れるなんて事をしたことから、更に盛り上がってしまい、その騒ぎは明け方まで続いた。

 しかし、そうなると祭りの後に問題がある。

 そう、ゴミが散乱しているのだ。

 俺は、工場の従業員や研究員、それに学院生に頼んで、朝から片づけに出て貰っている。

 もちろん、俺と嫁も参加した。

 子供は公爵家の侍女たちに預けての参加だ。

 ラピスには参加しなくてもいいと言ったのだが、「私たちのために祝って貰ったのに悪いです」と言って、参加してくれた。

 ごみは草の蔓で編んだ蔓籠に入れていく。

 蔓籠がいっぱいになったら、キチン車に乗せて、ホーゲンたちが集中浄水場に持って行き、水性アメーバの居る浄化槽に捨てれば、後は綺麗にしてくれる。

 水性アメーバは悪食でなんでもキレイにしてくれるが、土器だけは食べてくれないので、土器類は分別しなければならない。

 俺たちがゴミ拾いをしていると、街の人たちが一人、また一人と参加してくれた。

 その中には若い男の姿も見える。

 学院生が居るもんだから、鼻の下を伸ばして手伝っているのだ。

 若い男たちは学院生の周りばかり掃除している。

 特にソウちゃん、イリちゃん、サリーちゃん、マリンちゃんの周辺は逆に散らかしているんじゃないかと思えるほどだ。

 それ以外にも教会関係者も手伝っている。

 ボランティアなのである意味当たり前なのだが、エリスという神がゴミ拾いをやっているのだ、

 まさか、自分たちがやらない訳にはいかない。

 しかも、司教さま自らもやっている。

 ここで、出て来ない強者はいない。

 そしてそれは憲兵や兵士をはじめとする公都関係者もそうだ。

 ラピスもゴミ拾いに参加している以上、無視はできない。

 そうなると、街の人もいつまでも寝ている訳にはいかずに、広場はまた、祭りのようになってきた。

 折角、掃除をしたところをまた汚されてはならないので、人手を分けて、周辺地域まで掃除をするように指示をした。

 そうなると、今度は掃除の輪が徐々に広がっていき、街の中全体で掃除をし出す。

 ホーゲン、ポール、ウォルフ、ミスティ、ミントはキチン車を扱って各々のゴミ回収に走り回っている。

 朝から始めたゴミ拾いは昼前に街全体が終わり、見るときれいになっている。

 小さな路地に至るまで、きれいになった。

 こういうのは、気持ちがすがすがしくなる。

 そして、この日8月15日は「ゴミ0の日」として毎年、街をあげてゴミ拾いをする日となった。

 「ゴミ0の日」って5月30日じゃないのか?

 しかも、8月15日って俺の誕生日だよ。何が悲しくて、誕生日にゴミ拾いしなきゃなんない。

 同じ誕生日のホーゲンに、その事を言うと、

「記念日になって、誕生日を忘れないから丁度いいです」だと。

 そういう問題じゃない。

 誰も祝ってくれないのが、問題なんだ。

 ところで、俺の家は実は決まっていない。

 ミュと一緒に住んでいた家はウーリカによって、めちゃめちゃにされた後、きれいにしたのだが、子供も増えて、さすがに手狭になったきた。

 かと言って、公爵家に住むのはマスオさん状態のようであり、しかも侍女だ、執事だとかが、いろいろ世話を焼いてくる。

 そういうのに慣れていないから、反ってうっとおしいというか息が詰まる気がする。

 なんたって、ラピスが出産するだけで、公都中の産婆が来るような所だ。

 トウキョーの方の家は、街造りを優先しているため、全然進んでいないので、とても住めるような状況ではない。

 仕方ないので、工場に併設した社宅に行く。

 トウキョーの街の方が半分ぐらい出来て来て、従業員も半分はそちらに移住したので、社宅が空いてきたのだ。

 嫁3人と子供3人とで社宅に着き、やっとゆっくりできた。

 と、思ったが、何故かエミリーが居る。

「エミリー、何故ここに居る?」

「私はラピスさまの侍女ですから、どうぞお構い無く」

「いや、いや、いや、ここは心配いらないから」

「そうですか、失礼しました」

 あれ?以外とすんなり出ていったぞ。

「ラピス、エミリーがすんなり帰ったけど、何かあったのかな?」

「さあ、どうなんでしょうか?」

 あっ、こいつ目が笑っている。何か隠しているな。

「では、そろそろ行きましょうか?」

「行きましょうか。って、どこに行くんだ?」

 エリス、ラピス、ミュに連れられて来たのは工場の集会所だ。

 扉を開けて入ると、「お誕生日、おめでとう」の文字が目に入った。

 ひな壇にはホーゲンたち、誕生日が分からない子供が並んでいる。

 ラピスに急かされて、俺もホーゲンたちと一緒に並んだ。

「8月15日生まれのみんな、お誕生日、おめでとう」

 エリスが言うと、それに続きみんなが合唱した。

 こんな誕生日パーティなんて初めてだ。いつも夏休みだったし、終戦記念日だったから、誕生日パーティなんてやった事はなかったのに。

 ホーゲン、ポール、ウォルフたちも嬉しいのか、顔を赤くして涙を堪えているようだ。

 みんなが拍手していると、赤ちゃんが泣き出した。

「もうこんな時間、お腹が空いてきたのね。向こうの部屋でお乳をあげてくるわ」

 エリス、ミュ、ラピスが退出していった。

「はい、では誕生パーティを始めます」

 代わりに仕切ったのはエミリーだ。

 食堂のおばちゃんたちが、作った料理をみんなで運んで来る。

 社員食堂のエリスおばさんもいる、トウキョーの食堂の猫人おばさんもいる、3号店店長のユルマラさんもいる、もちろん寄宿舎の子供たちも、そしてシュバンカさんは夫のセルゲイさんと一緒だ。

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