第63話 販売戦略

「2号店は化粧品の販売は相変わらず好調であり、それに引き連られるように下着やナプキンも売れています」

 ガルンハルトさんの報告は続く。

「しかし、男性用下着の販売はさほどではありません」

「ガルンハルト君、売れない原因分析は出来ているのか?」

 アール社長の質問にガルンハルトさんが答える。

「はい、2号店は女性用下着や化粧品、ナプキンに加え男性用下着の販売ですから、男性は入りにくいです。

 当初は、奥さんが旦那さんの下着も買ってくれるかと思っていましたが、その目論見は外れました」

「では、男性用下着専門店を持つとか?」

「店を持つと当然コストがかかります。反面、販売商品が男性用下着だけとなりますので、売り上げはさほど期待できません。

 ハイリスクローリターンの典型です」


 全員黙った。

「ガルンハルト君、何か対策はあるかね」

 アールさんが重ねて聴く。

「打開できる程の対策案はありません。2号店でそのまま販売していくのが最も、手間のかからない方法と愚考します」

「カルフさん、何か意見はないかね」

「男性用化粧品も売り出すというのは?」

 ルネサスさんとその部下たちが化粧をして、お姉状態になったのを見ていた連中が、研究所であった事を言う。

「男性が変態になるのはダメだろう」

 皆、首を縦に振る。同意見のようだ。


「販売担当部長と販売戦略会議を設ける」

 満を喫して俺が発言する。

「それはどういった担当でしょうか?」

「販売担当部長とは、どうやったら沢山売れるかとか、当社の宣伝をどうすれば良いかとか、要するに販売の戦略を考え、実行する者だ。この間行った、ファッションショーもその一つだ」

「販売戦略会議とは、どういった戦略を行うかを決める会議と思ってよろしいでしょうか?」

 アールさんが先を引き継いで説明した。


「その通りだ。それで、カルフさん、店員の中で、一番売り上げの良い人を人選してくれないか。

 恐らく、その人なりの沢山売るノウハウを持っていると思う。それを生かしたい」

「分かりました。アンナという娘がいますが、その娘が毎月売り上げが多いので推薦します」

「それと、その娘とは別に5人ぐらい使える人の人選を頼む」

「アンナの役職はどうしますか?」

「もちろん、部長で頑張って貰う」

「本人にその旨、確認しておきます」


 次の経営会議の時に、アンナを社長室に呼んで皆で意見を聞く。その結果、販売担当部長とするか否かを判断する事になった。

 アンナに男性用下着が売れない事を話し、対策案を引き出す。

「専門店を持つのはハイリスクローリターン、化粧品とのセット販売もダメという事ですか?うーん」

「では、女性から男性へのプレゼントって言うのはどうでしょうか?

 お返しに男性は化粧品を女性にプレゼントする。要するにプレゼント交換ですね」

 これって、あの悪名高き「バレンタイン」ってやつじゃねえ?

「9月最後の日の30日が公女さまの結婚式なので、その日を女性から男性にプレゼントする日として宣伝します。

 今度は1か月後には男性から女性へ化粧品のお返しということで……、ダメでしょうか?」


「うむ、女性から男性にプレゼントする日ですか。いいかもしれない。

 費用もそれほどかからないし、現状維持よりは売れればいい分だけ期待もできる」

 アールさんが呟くように言う。

「と、するとその日に名前を付けた方がいいわね」

 カルフさんが追従した。

「秋の青空の下の結婚式の日なので、『マリッジブルー』ってどうでしょうか?」

 アンナさん、それは別の意味がある。

「はんた……」

「「「「「賛成!!」」」」」

 多数決で決まってしまった。


「9月30日はマリッジブルーの日、男性に下着を送ろう」

 そんな宣伝文句が書かれたポスターが、街のいたる所に貼ってある。

 もちろん、アンナさんは部長に昇格し、販売担当部長を務めている。

 そして、今月末は俺たちの結婚式も控えている。

 セルゲイさんからシュバンカさんが伝達してきた公爵領の財務について、報告を聞いているが、一言で言えば、さっぱり分からないということだ。

 入ってくる金も年によって上下が激しく、出て行く金もいくら出ていっているか分からない。

 税金がなぜ大きくバラツクのかを調べて、支出もどこに消えているか調べたいが、そこは危険な香りがするみたいだ。

 とにかく、身の安全を第一に続けてくれと伝える。


 エリスとミュのウェディングドレスも出来上がり、工場に飾ってある。

 ウェディングドレスを工場に飾ってくれと言ったのは、工場長のエイさんだ。

 なんでも、工場の若い子たちに見せてやり、結婚に憧れを持たせたいとの事だった。

 この試みはなかなか評判で、休み時間になると、女の子たちが見に来るらしい。そして、誰が着るのかと噂になっているとのことだった。

「いいねぇ、私も着てみたいねー」

 ソウちゃんのおばあちゃんが言う。

「おばあちゃん、このウェディングドレスを着て、どこにお嫁に行くの?」

「そりゃ、シンヤさんとこに決まってるがね」

「「ええっー」」

 一緒に見ていたソウちゃんとアイラちゃんも笑い出す。

 おばあちゃんは、今、この工場で熟練工兼若い子への指導員として働いている。

「私みたいな年寄りを熟練工として雇って貰って、ほんとうに感謝しているよ。おまけに社宅まで入れて貰えて」

「ほんとねー、私もお嫁に行っちゃおうかな」

「ソウは、どこにお嫁に行くんだい」

「もちろん、シンヤさんとこ」

「それは、ミュさんとエリスさんに気に入られないとだめだね」

「えー、そうなの?」

「そりゃ、そうだ。一番味方になるのも女だけど、敵に回すと怖いのも女なんだよ」

 人生、深いね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る