第62話 化粧品

「そ、そうか、判った。では俺も試験として使ってみよう」

「いえ、私が使います」

「そうです。ご主人さまの代わりに私が使います」

 エリスとミュが答える。俺が、ルネサスたちみたいになったらと思ったのだろう。

 そして、その場でエリスとミュが化粧をする。

 ファンデーションで整えて、マスカラと口紅を塗っていく。

 それを見ている女性たちも興味深々だ。

 出来上がった姿を見て、皆驚いた。

 元々が美人なのに、その上化粧を施したのだ。

「その、化粧品という物、私にも下さい」

「いえ、私にも下さい」

 見ていた女性たちが、口々に言い出した。

 しかし、試作品はまだ1種類ずつしかない。それなのに取り合いとなった。


 ルネサスさんが言う。

「まだ、試作品の段階なので、もう少し時間を下さい。必ず皆さんに良い物を提供できると思います」

 その言葉に、サルビさんも言う。

「会長にお願いがあります。もし、出来上がったら、社員のみんなに先に販売して下さい」

 これはすごい事になりそうな予感がしてきた。


 それから数週間が経過し、ルネサスさんから量産体制が整ったという連絡を受けたので、早速工場にて生産を開始する。

 うちの会社は、店や工場に女性が多い。

 まずは、女性に使って貰い、使用感や肌への影響の確認をして貰う。

 1週間ほどしても特に問題はなかったので、2号店オープン時に店で販売することにした。


 その店の中に化粧品のデモブースを設けて、化粧のやり方を伝授する。店員も、もちろん化粧をしている。

 2号店は下着類販売であることを予め宣伝してあったので、1号店程の混雑にはならなったが、それでもオープン前の店の前には数人の行列があった。

 開店時間はいつもの通り、鐘3つ、正午である。

 店に入って来て、店員を見たお客さまは店員に見とれている。


「あのー、それは……」

「これは化粧品という物で、こちらで販売しています」

 早速、お客さまを案内し、化粧を施してみる。

「買います、買います」

 周りで見ていた、他のお客さまもご購入だ。

 化粧品は最初のロットは女性社員にも販売したこともあり、店に出した品物は次の鐘が鳴るまでに全て完売した。


 翌日、2号店に女性客が押し寄せた。

「化粧品を、化粧品を下さい」

「私は定価の倍出すわ」

「明日はお見合いなのよ、ぜひ私に売って」

「明日、ミュ・キバヤシの面接試験があるんです、私に売ってください」

 明日、面接試験なんてねーよ。


「お客さま、化粧品は昨日の時点で全て売り切れです。次の入荷は1週間後になります」

 店員が叫んでいるが、それでも収拾は収まりそうにない。

 次の化粧品販売の時は更に大事になりそうだ。

 ルネサスさんに大量生産を指示するとともに、お針子さんのうち10人程を化粧品製造の応援に急遽行って貰った。


 次の週の化粧品販売日となった。

 化粧品も予定の3倍ほど用意している。

 店の前は陽の上がらないうちから、何人かの女性が既に並んでいたので、サルビさんは整理券を用意して対応している。

 これは1号店での経験が働いているのだろう。

 オープンの鐘3つの時間になると、店の前は人が溢れていた。既に用意した分は整理券の時点で売り切れ状態だ。

 整理券を貰えないお客さまが文句を言ってるが、こればかりはどうしようもない。

 と、そこに1台の馬車が入ってきた。

 ルネサスさんが乗っている。


「ルネサスさん、どうした?」

「昨夜、みんなが徹夜でもう1ロット製作したので、とりあえず、容器に詰められた分を持ってきました」

 見ると、馬車半分ほどに荷物が積まれている。

「これで何人分用意できている?」

「恐らく、200人分ぐらいはあるかと。あと、夕方にはあと200人分は持ってこれると思います」

 それを聞いたサルビさんが追加の整理券200枚を用意し、騒動は収まった。


 今回の販売は、口紅、ファンデーション、マスカラ、メイクオトシのセット販売だ。

 4種類を1袋に詰めて販売していく。セット価格銀貨5枚とちょっと高めとしたが、それでも売れていく。

 ルネサスさんも売れていく様子を横で見ていて、余りの人気にびっくりしている。

「うちの嫁にはあの中に入って欲しくねぇー」

 うん、気持ちは分かるよ。

 エリスとミュにもあの中に入って欲しくない。


 化粧品騒動から1週間ほどが過ぎ、9月に入ってかなり沈静化してきた。

 それでも、化粧品を買い求める人は絶えない。

 だが、問題も出てきた。

 男性用下着が売れないのだ。

 この件は早速、経営会議で取り上げられた。

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