第64話 聖結界

 皆がそんな話をしている中、俺はミュとエリスの試着のために工場に来た。

「それでは、ミュさんとエリスさん、今から本番を想定して、試着をしますからこちらに来て下さい」

 まずは化粧からだ。

 ここからは個室で行われているので、全然分からない。

 用意が整った頃には、工場、研究所に学院の先生、生徒まで来ている。

 個室の扉が開けられ、まずはエリスが姿を現した。手にはブーケを持っている。

 瞬間、水を打ったように静まり返る。

 中には涙を流している子もいる。

 しずしずと歩く姿はほんとうに美しい。

 エリスはスタイルもいいし、胸元のあいた服は大きな胸のふくらみを強調して、美しさの中にもエロティシズムがあり、男性でなくてもアドレナリンが上がる。

「き、きれい」

 誰が言う事もなく、声が聞こえる。

 その目がようやく慣れた時だった。今度は反対側の扉が開く。


 ミュが姿を現した。

 ミュはエリスに増してプロポーションがいい。そう、スタイルではなく、プロポーションがいいのだ。

 全体の配置が完璧だ。

 そこに、このウェディングドレスだ。目が釘付けになる。

「「「「はぁー」」」」

 会場に溜息が漏れる。

 皆、開けた口が閉じていない。


 二人の姿を鏡に映して見てみる。

「これが私?シンヤさまのところに、これを着てお嫁に行くのね」

 エリスも今日は駄女神じゃない。

「ご主人さま、ありがとうございます。私は今までの人生の中で一番幸せです」

 なんたって、217歳だからね、実感が籠っているね。

 こちらの世界では、ガラスがないので、錫を利用した鏡になっているが、それでもその美しさが分かる。

 エイさんが着心地を確認してくる。

「どう、二人とも、何か違和感のところはある?」

「「全然、ありません」」

 ウェディングドレスを脱いで普段のワンピース姿に戻ったが、化粧はそのままだ。

 最近、二人とも出かける時は化粧をするので、時間が掛かるようになった。

 化粧なしでは外を歩けないというのだが、それはうちの姉ちゃんも言ってたな。

 そういえば、前の彼女のスッピンって見た記憶はないな。

 うまく、胡麻化されていたのもしれない。


 男性用下着の売れ行きは最初の頃はそうでもなかったが、最近、徐々に売れ始めている。

 やはり、マリッジブルーキャンペーンが浸透して来たのかもしれない。

 この前の販売戦略会議では、若い女性が買っていくのが多いそうだ。

 いつの時代、どこの世界でも乙女心は一緒だね。


 俺たちの結婚式があと1週間と迫った日、教会で1組の結婚式が執り行われた。

 そう、セルゲイさんとシュバンカさんだ。

 この世界ではどちらも晩婚になるし、俺たちの結婚式があるのでさっさとやっちゃいなさいという、フェイユさんの言葉もあって俺たちより早く式をすることになった。

 フェイユさんは、大人しそうなエルフのイメージがあったが、やるべき事はどんどんやっちゃう。

 社員にとっては良い姉御肌だ。

 結婚式には関係するみんなが呼ばれていたが、ミュだけは

「聖結界が、張ってあるので行けません」

 と泣いていた。すると、エリスが

「私が居るから大丈夫よ」

 なんて言って連れ出した。

 教会の前で、エリスが右手を出して

「リムービング」

 その瞬間、500年続いた聖結界が解除された。


 教会の中から、慌てて高位の司教さま達が飛び出してきて、エリスを見つけると

「エリスさま、大変です。聖結界が解除されました」

「ええ、今、私が解除したから。ちょっとだけよ。いいじゃない」

 司教さまの開いた口が塞がらない。

「司教さま、今から私の恩人の結婚式があるのだけど、司教さまが仕切って欲しいわ」

 女神のいう事に司教さまが逆らえる訳がない。

「は、はい、分かりました」

 こうして、セルゲイさんとシュバンカさんの結婚式は行われたが、司教さま直々に結婚式を執り行うなんて事は、貴族の結婚式ぐらいのものだ。

 二人はとても幸せそうで、この結婚式は間違いでなかったと思わせた。


 ミュはといえば、初めて教会に入ったということで、

「へぇー、はぁー」

 とか、感心している。

 来週はミュもここで結婚式を挙げるんだぞと言ったら、頬を赤くしていた。

 こんなところは、とても可愛い。


 式が終わり、教会を出ると司教さまが慌てて走ってきた。

「エリスさま、エリスさま。聖結界をお戻し下さい」

「えっ、来週また使うからいいじゃない?」

「いえ、そういう訳にはいきません。お願いします」

「そう?ゴッドレスコンストラクション」

 あっと言う間に聖結界が張られた。

「おお、ありがとうございます。前の結界に比べて結界力が強いような感じがします」

「ええ、さすが司教さま。前の2倍にしといたわ。いつも良くしてくれているからお礼です」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 司教さま以下、シスター総出で出てきてお礼を言っている。

 エリス、お前って本当はできる子だったんだな。

 ほんとは出来る子。HDKだったのか。

 エリスが鼻を高々としている。

 こいつは直ぐこうなる。

 俺がエリスの鼻を摘まんでやる。

「痛い、痛い。シンヤさま、何するのよ」

「いや、なんか迷惑かけていながら、得意そうになっているヤツが居るなと」

「もう、ばかばか」

 言いながら、俺を叩いてくる。

 それを見ていた司教さまたちが微笑ましく笑っている。

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