第60話 ミシン

 早速、研究所に向かう。

 研究所では既にザンジバルさんグループと工場長のエイさん、それにお針子さんたち数人が居た。

 俺たちが到着したのを見て、ザンジバルさんが発言する。

「会長も見えましたので、早速試し縫いをします」

 ザンジバルさんの声に合わせて部下だろうか、生地を縫う。

 昔の足踏みミシンにそっくりだ。

 手で縫うより断然速く、生地が縫い合わさっていく。

 その手際さを見ているエイさんたちも、びっくりしている。


「会長に、この機械に名前を付けて頂きたいと思います」

 そんなの決まっている。ミシンだ。

 いや、待てよ。ここで、ミシンと名付けるのは簡単だ。

 別の名前を付けたら、それが今後ずっーと言われる訳だ。

 ここはミシンでいいだろうか。

 シンヤよ、良く考えろ。カイモノブクロの例もある。


「会長、どうしましょうか?」

「じゃ、ミシンで」

「会長の命名により、この機械の名前は『ミシン』に決まりました」

 一斉に拍手が起こる。

「ザンジバルさん、早速量産体制に入ってくれ。出来た物は順次工場に運び込み、お針子さんたちの練習を行ってくれ。それはエイさんに頼む」

「みんなより、私がまず使えないとだめだね」

 さて、残るのは織機の方だけだ。こちらは中々苦労しているようだ。

 ミシン周辺で試運転の様子を見ていると、サロイデリア、カシー、ルネサスの親方連中も集まって来た。


 その中で、染色担当のルネサスさんに声をかける。

「ルネサンさん、新しい商品を開発して貰いたいんだが、時間はあるかな」

「染色の方が手が空いたので、今は大丈夫です。今度は何を染めるんですかい?」

「いや、染色ではない。化粧品というものを作って欲しい」

「化粧品って何ですか?」

 化粧品について説明する。

「なるほど、解りました。とりあえず口紅というやつとファンデーション、マスカラ、それに、それを落とすメイクオトシっていう物を作ればいいんですね」

 これで化粧品の開発に着手する。


 2号店の開店日が決まった。8月25日だ。

 新規に雇った店員も研修の真っ盛りだが、店長には1号店開店の時に雇用したサルビさんという人にやって貰う事になった。

 この人はカルフさんの推薦もあるが、人当たりがよく、後輩からの信頼も厚いということだったので、お願いすることにした。


 新店長は会長である俺から辞令を渡すので、社長室に来て貰った。

「失礼します。サルビお呼びにより参りました」

「入ってくれ」

 アールさんが返事をする。

「サルビさん、8月に新規開店する2号店の事はもう知っているだろう。君をそこの店長に任命したい。受けてくれるか?」

 サルビさんが、口に手を充ててびっくりしている。

「ほんとに私でしょうか?いいんでしょうか?」

 カルフさんが声をかける。

「私はあなたで適任と思って推薦したの。がんばって頂戴」

「ありがとうございます。精一杯、がんばります」

「それでは会長、自ら辞令を渡される。お受けされよ」

「は、はい」

 俺が前に出る。


「あっ、あなたはこの前、食堂でエリスおばさんに絡んでいた男性……」

「君もあそこに居たのか」

「本当に会長だったのですね。失礼しました」

「だって、会長だと言ったじゃないか」

「あまりにも若くて、てっきり冗談だと……」

「では、辞令を渡す。サルビ・ザオ、8月1日をもって貴方を部長とし、2号店店長に任命する」

 サルビさんが辞令を受け取った。

「アールさん、もう一人は?」


「はい、ただ今来ると思います」

 その時ドアをノックする音がした。

「いやー、遅くなりました。ガハハ」

「セルゲイ君、伝えたい事があるからそこに立ってくれたまえ」

 セルゲイさんも何事かと思ったのか、そのまま立った。

 俺がセルゲイさんの前に進み出て

「セルゲイ・ネルシュ、貴方を8月1日をもって、副社長に任命する。担当業務は当社警備全般とする」

「えっ、この俺が副社長?」


「不服かな」

「め、滅相もない、逆に何で俺が副社長なのか聞きたいくらいでっさ」

「その理由は、あえて説明の必要はないだろう。君の功績は誰もが知っている事だ」

「はっ、このセルゲイ・ネルシュ、謹んでお受け致します」

 もう一人辞令を渡す人が居る。

「シュバンカさん、前へ」

 副社長の一人、シュバンカさんを呼ぶ。

「は、はい」

「シュバンカ・アーレイ、7月末日をもって副社長の任を解く」

「「「「えっー!!」」」」


 部屋に居る全員が驚いた。

 驚いてないのは前もって知っている、社長のアールさんだけだ。

「わ、私が解任……」

「ちょっと待ってよ、何でシュバンカさんが解任なのよ。いくらシンヤさまでも許せないわ」

 エリスが怒ってきた。

 他の皆も同様だろう。

 口では言わなくても顔が怒っている。

「俺を副社長にするために、シュバンカ嬢を首にするのなら、俺は副社長なんていらねぇ。だから、シュバンカ嬢を首にしないでくれ」

 セルゲイさんも反対のようだ。

「まて、まずは俺の話を聞け」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る