第59話 間一髪

「ミュ、やばいぞ」

「はい、ご主人さま」

 ミュは俺を抱えて上空に飛び立とうとした。

「いや、待て。引き付けてから飛び立つんだ。今、エリスが転移してくるとホワイトパンダと鉢合わせになってしまう」

「分かりました。では、上の枝に移動しましょう」

 そう言って、そこから更に10mほど上の枝に移動した。

 ホワイトパンダは、どんどん登ってくる。

 その度に上の枝に移動する。木が高いので、上へ上へと移動していく。

 100mぐらい登っただろうか。これ以上、上には行けない。

 ホワイトパンダが、やっと追い詰めたような顔をしている。


 下に魔法陣が発生した。エリスが転移してくる。

「よし、ミュ、魔法陣に向かってくれ」

「分かりました」

 ホワイトパンダの横をすり抜け、魔法陣に向かって一直線に進む。そこにエリスが表れた。

「エリス、直ぐ転移だ」

「な、何?、分かったわ」

 直ぐに転移を開始する。

 既にホワイトパンダも木を下り始めている。

 意外とホワイトパンダの木を下りる速度が速い。間に合うか?

 エリスの目にもホワイトパンダの姿が入っているだろう。


「な、何よ、あれ?」

「ホワイトパンダだ。とてつもなく狂暴だ。さっさと移転しないと危ない」

 ホワイトパンダが木の途中から飛び降りた。着地してこっちにもの凄い勢いで向かってくる。

 しかし、ホワウイトパンダが飛び掛かろうとした時、白い壁に包まれたと思った瞬間、寄宿舎の庭が目に映る。

 どうにか間に合ったようだ。

「みんな、無事か?」

「ええ、どうにか」

「間一髪でしたね、ご主人さま」

 ホワイトパンダ、以外と動きが俊敏だった。

 動物園で笹食ってる場合じゃねぇって感じだ。


 今、俺はミュの腕の中でぐったりしている。

 そう、エリスの体力強化の反動が来て、起き上がれない。

 ミュが胸に抱いてくれる癒しの世界であって、けっしてイヤらしい世界ではない。

 そんなバカな事を考えていると気が遠くなった。


 目が覚めたら、ベッドの上だった。

「シンヤ兄さまが目を覚ましたよ」

 ミスティの声だろうか、それともミントだろうか、誰かを呼んでいる。

 大人数の足音がする。

「ご主人さま、大丈夫ですか?」

「シンヤさま、気がつきましたか?」

 ミュとエリスの声だ。

「あれ、俺はどうしたっけ?」

 皆の言う事には、ミュに抱かれたまま転移してきたが、転移後直ぐに気を失ったらしい。

 体力強化の反動だろうから、エリスがヒールをかけてベッドに寝かされたということだった。


「ああ、もう大丈夫だ」

 ベッドから起き上がったが、ちょっとフラつく。

「ヒール」

 エリスがすかさずヒールを掛けてくれた。

 身体に体力が戻るのを感じる。

「エリス、ありがとう。やっぱ、エリスのヒールは最高だな」

「へへっ、当たり前です」

 こいつ、得意顔をしてやがる。まっ、今回はエリスも大活躍だったし、たまには褒めないとな。

「エリスのおかげで助かったよ。エリスがいないと俺はダメだな」

 エリスの目がウルウルしている。ここは褒めて伸ばす。


「ホーゲン、キチンはどうしている?」

「裏の鳥小屋で卵を温めています。孵化の時期は分かりません」

「ホーゲン、ポール、ウォルフ、キチンの事はまかせたぞ」

「「「はい」」」

 新しく来たキチンは前からいたキチンに比べ若干小ぶりだ。雌だからだろうか。

 前からいたキチンは卵を産まなかったから雄なのだろう。

 つがいになって雛が生まれてくれればいいな。

「ホーゲン、名前をつけてやらないといけないな。そうじゃないとややこしい。ホーゲン、お前が名前を付けてくれ。名付け親だ。ポールとウォルフは新しく生まれてくる雛に名前を付けてくれ」

「「「分かりました」」」


 そんな中、7月も終わろうとしている時、結婚式の日がとうとう決まった。

 9月30日ということになった。

 公爵さまより、そのことが大々的に発表されると領内は大いに沸いた。

 当然、相手はどこの貴族だということになる。

 ところが、公爵家からは相手について一切発表されていない。

 そうなると、想像が想像を呼ぶ。

 貴族連中は相手探しを必死になって行っているが、相手が貴族でないから、見つかる訳がない。

 俺はそれをいい事に堂々と外を歩けるので、何不自由していない。


 一方、8月に出す2号店の概要も決まった。

 2号店は1号店より歩いて2000フの距離にあり、規模としては1号店ほど大きくはない。

 2号店では女性用だけでなく、男性用パンツも販売する。

 紐で結ぶトランクスのようなものだ。

 それに女性用の品数も増やす。キャミソールを販売する。

 それとシーハの葉を使ったナプキンも販売を行う。

 ナプキンのなかった時は、女性は生理の日は外に出れない人もいたし、バンツスタイルが流行らなかったのもそこに問題があった。

 しかし、扱う品が増えると手間が増える。

 当然人手も増やさなければならない。


 そんな時、嬉しいニュースが入ってきた。

 ミシンが完成したのだ。

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