第55話 ファッションショー

 店、工場、研究所、学院にファッションショー開催の告示がされた。

 そのために、アイドルとモデルの募集も合わせて行っている。

 アイドルの方には、主に学院から9人を選抜した。メンバーには、ソウちゃんとイリちゃんも入っている。

 モデルは店員を中心に10人に決まった。

 全員を工場に併設にした学院と共用の体育館に集めて練習を行うが、早速問題が発生した。

 この世界、楽器はあるのだが、テンポがチークダンスのような音楽しかない。

 貴族のパーティぐらいしか音楽は演奏されないからだ。

 逆に貴族は年に数回しかないパーティのために、自前の音楽隊を持っている。

 俺の居た世界を知っているエリスに相談してみると、

「シンヤさま、こちらに転生する時にスマホを持って来ていませんでした?その中にミュージックが入ってませんでしたか?」

 いや、入ってる。秋葉を拠点としたアイドルグループとか、秋葉を拠点としたアイドルグループとか、秋葉を拠点としたアイドルグループとかです。

 はっきり言おう、秋葉を拠点としたアイドルグループのやつばかりです。


「あるけど、電池がないぞ」

「それなら私が充電するわ。チャージ」

 エリスが魔法をかけるとあら不思議、充電満タンになった。

「それで、教会から借りてきた拡声器でと」

 小さいけれど、見るからに拡声器だ。

 女の子たちは、これでダンスするのか。

 拡声器をよく見ると「翻訳」というスイッチがあった。

「エリス、この翻訳っていうのは?」

「これは日本語をこっちの言葉に自動変換してくれる機能よ」

 さすが、魔道具。

 やってみるといい感じだ。


「エリス、ダンスの振り付けとかどうする?」

「あっ、私が指導するわ。暇なとき、アイドルたちの踊りを見て覚えてたから」

 エリスさま。駄女神と言ってすいません。

 でも、ほんとは暇なんだろう?

 エリスが早速、音楽に合わせて、女生徒に振り付けを教えるが、「こうやって、ああやって、こう」とか言ってる。

 そんなんで大丈夫か?

 女生徒たちも戸惑いながらもどうにかやってる。


 一方、モデルの指導はミュだ。

 ミュのウォーキングは、見ていてかっこいい。

 その歩き方を指導しているのだ。

 ミュは教え方がうまく、「右足をこう出して、左足はこう」とか具体的に見せながら教えている。

 出来れば、直ぐに褒める。褒めて伸ばす典型だろう。


 そんなハードな日が続き、とうとう本番の日となった。

 事前に告知したためか、広場には朝から人が詰めかけたが、問題もあった。

 貴族席を設けろというのだ。

 特別扱いはしたくなかったが、貴族全員を敵に回すのも嫌だったので、真正面に階段上の長椅子座席を設置した。

 教会の鐘が3つ鳴る寸前、一人の高貴な方が来られた。エルバンテ公爵さまだ。


 その直後、教会の鐘が3つ鳴り、開会を知らせるファンファーレが会場に鳴り響いた。

 司会が出てきて、まず大道芸人から進めていく。

 司会は、ガルンハルトさんがやっている。

 あいつはいろいろとなんでもこなすな。

 大道芸人たちは1組ずつ出てきて芸を披露する。コミカルな中にもヒヤリとする芸が客を沸かせる。

 公爵さまもご満悦のようで、芸人たちに拍手をしている。

 第1幕が終了し、しばしの休憩を挟んで第2幕の開催だ。


 女生徒たちはこの日のために拵えたミニスカートのフリフリ衣装。

 と言っても、スカートの中はスパッツだけど。

 そのフリフリのミニスカートに身を包んだ9人の乙女が出てきて、アップテンポな曲に合わせて一糸乱れぬ踊りを踊る。

 観客の目は釘付けだ。

 センターはソウちゃんが務めている。

 ソウちゃんの後ろにはイリちゃんもいる。


「みなさーん、こんにちわー。今日は、ミュ・キバヤシのファッションショーに来てくれてありがとう」

 ソウちゃんのMCぶりもなかなかで、客にも言葉を投げかけ、客からの言葉にも答えている。

 それがなかなか受ける。会いに行けるアイドルそのものだ。

 大いに盛り上がった後で、第3幕のメインであるファッションショーの開幕だ。


 モデルの方はアイラちゃんデザインの秋冬物の最新衣装。

 しかも色も今までの白、黒、黄色以外に赤、紺、緑、ベージュの衣装もある。

 こちらは女性客の目を捕らえて離さない。

 今回はコートも披露する。

 今までのコートは獣の毛皮だったので、値段が高くて貴族しか買えなかったが、今回は綿を入れたコートを出した。

 綿入れ半纏のコートのようなものだ。

 このファッションショーの衣装は全て売る衣装のため、モデルは手に値札を持って客に見せているので、販売価格が直ぐ分かる。

 そして最後、フィナーレの定番はウェディング衣装だ。


 こちらの世界にウェディング衣装はなかったので、俺の世界のものをモチーフに、アイラちゃんがデザインしている。

 衣装は、白のレース生地を何枚も重ねて作った物だ。

 ステージに現れたその女性は手にブーケを持ち、この世の人とは思えない。

 公爵さまが身を乗り出した。

 そう、モデルはラピスラズリィ公女さまだ。

 ラピスはステージ上をゆっくりと、歩いて来る。

 公爵さまの目からは涙が溢れていて、それを拭こうともしない。


 ステージの先端で公女さまが1回転し、ステージを戻って行く。

 もう誰も声を発しない。風さえも公女さまの姿に見入っているようだ。

 ステージの終端で公女さまは、みんなの方に振り返り、

「みなさん、私ラピスは必ず幸せになります」

 と、言ってステージから消えた。

 それからどれ位経ったのか。1秒か、1分か、会場から、

「おおっー」

 と言う歓声が上がった。

 その歓声が収まると同時に、全ての講演の終了を告げるアンウンスが流れた。

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