第56話 第三夫人
それからは凄かった。
まず店は、黒山の人だかりが毎日続いている。
貴族からは、早く営業に来いとの矢のような催促が来る。
急きょ、雇った人もサポートいう形で店や営業に回って貰った。
一番変わったのは女生徒だろう。
学院のある敷地の外に、若い男性が群がっているのだ。
女生徒一人一人の似顔絵カードまで出る始末だ。
もう、制服で街に出ようものならサインを求められる。
あのステージに出ていなくてもサインを求められるのだ。
その中の一番人気はやはりソウちゃんで、二番はイリちゃんらしい。
おかげで、家族は街の家には住めなくなり、急きょ工場の敷地内に作った社宅に引っ越して貰った。
ソウちゃんの家の前に貴族の家紋が入った馬車が止まり、使者が「娘さんをお嫁に」とか言ってくるので、おちおち家にも居られない。
それはイリちゃんの家も同様で、貧民街に貴族の馬車が来るのは初めてだそうだ。
しかし、騒動はそれだけではなかった。そう、ラピスが最後に言った、
「みなさん、私ラピスは必ず幸せになります」
の意味を領民は結婚の事と受け取った。
もちろん、公爵さまもそう受け取っている。
そして、相手は誰なのか、どこの貴族なのかと。
ソウちゃんの家に嫁にくれと言いつつ、一方ではラピスから声が掛かるかもしれないと考えている浮ついた貴族の男どもがいた。
しかし、ラピスが着たウェディングドレスは今、俺の家にある。
「ラピス、このウェディングドレスはどうしてここにある?」
「もちろん着るためです」
「誰が着るんだ?」
「もちろん、私です」
「で、ウェディングドレスを着たラピスの横にいる相手は誰なんだ?」
「もちろん、シンヤさまです」
俺は頭を抱えた。
「ご主人さま、ミュは今晩ご主人さまと、とことんお話する必要を感じています」
ミュが「私が」と言わずに「ミュが」と言う時は怒っている時だ。
「シンヤさま、エリスも今夜お話する必要があると思います」
今、この家では悪魔と女神のオーラが渦巻いている。タイフーンとハリケーンが一緒に来た感じだ。
命が惜しくば近寄るな、の状態だ。
そこにサイクロンも加わった。そう、高貴なオーラだ。
ラピスが返す。
「エルスお姉さま、ミュお姉さま、一緒に話し合いましょう。不束者ですがよろしくお願いします」
「いや、そこは俺じゃね?」
「いえ、シンヤさまのご意思より、まずはお姉さま方のご意思です」
「ラピス、良く解っているわ」
エリス、違うと思う。
「えっと、第四夫人についても、ご協議するのがよろしいかと……」
「「「却下!」」」
エミリーの提案は却下された。
「では、愛人でもよろしいかと……」
「「「却下!却下!」」」
「まずはお友達から……」
「「「却下!却下!却下!」」」
「もう、メイドでもいいかと……」
「「「却下!却下!却下!却下!」」」
「今まで通り、ラピスさまの侍女でいいかと……」
「「「承認!」」」
「シンヤさまの妻はこの3人で十分です。これ以上増やす必要はありません」
「「その通り」」
ラピスの言葉にエリスとミュが同意した。
「「えっ?」」
「今、俺の妻は3人って言った?」
「やったー、エリス姉さまとミュ姉さまに認められたー。シンヤさまそういう事になりましたので、末永くよろしくお願いいたします」
「い、今のはちょっとした言葉の綾というものです」
エリスがすかさず反論する。
「女神が前言撤回するということですか?それは女神とは言えません」
今度はミュが、
「今のはアレです。アレです」
「悪魔は、契約は必ず守るものでしょう」
二人とも頭を抱えた。
「お姉さま方、よろしくおねがいします。早く、シンヤさまに似た赤ちゃんを産みますから3人で育てましょう」
「「えっ、赤ちゃん」」
エリスとミュは子供は産めない。
「ほんとにシンヤさまの赤ちゃんを産んでくれるの?」
「ご主人さまの子供を育ててもいいんですか?」
「もちろんです。エリス母さま、ミュ母さまということになります」
「私が、エリス母さま」
「私が、ミュ母さま」
「「認めます」」
「ちょっと待て、俺はどうなる。体力だってそんなに持たないぞ」
「大丈夫です。シンヤさまがイクたびに私が回復魔法で回復させますから」
「そうです。一人でも不満ならそれはダメです」
いや、それは勘弁。
「ヒュー、ヒュー、よっ、モテ男」
エミリー余計な事は言うな。
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