第33話 土魔法
森の中の岩山のところに来たが、洞窟がない。
ミュが道を間違えたか?
いつも来るのは夜だから、昼間は分からないのかもしれない。
すると、ミュが岩山に近づいて行って、
「アロンカッチリアさん、居ますか?」
岩に向かって叫んだ。
「なんだ、お嬢か?珍しいな、昼間に来るなんてよ」
見ると、岩が崩れるように地面に吸い込まれていく。
と、そこにはアロンカッチリアさんが立っていた。
「ほう、いつもの人間の小僧か、それと、そっちは……もしかして……」
「紹介します、妻のエリスです。一応、女神やってます」
「やっぱ女神さまか、それで兄ちゃんの嫁なのか、もうどうなってるんだ」
呆れたように、アロンカッチリアさんが俺を見る。
「えーと、まあ、いろいろありまして……」
「ところで、アロンカッチリアさんにお願いがあって来たんです。力を貸してください」
ミュが、俺のセリフを取って代わって答えた。
獣人の子供たちのこと、その子のために寄宿舎を建てたいこと、子供たちのために早く造りたいこと、そのためには、アロンカッチリアさんの土魔法が必要であることを言う。
「話は大体分かった、人間はその兄ちゃん以外は嫌いだが、相手は獣人の子供だ。協力しよう」
俺、アロンカッチリアさんに認められたってことで、いいんだよね。
「では、早速行きましょう」
「ちょっと待ってな。俺にだって準備というものがある。ミュよ、カイモノブクロを貸してくれ」
アロンカッチリアさんは、カイモノブクロを持って洞窟の奥に入っていった。
しばらくすると出てきて、
「じゃ、鍵をかける」
と言うと、地面に手を翳す。
「ウォール」と唱えると、土が盛り上がって、洞窟を塞いでしまった。
ミュは、アロンカッチリアさんをエリスは俺を抱えると、さっきの丘まで飛んで帰った。
「ふむ、なかなかいいところじゃないか、で、ここに寄宿舎を建てるのと、井戸を掘るってことだな」
「ええ、お願いします」
「分かった、ビルド」
建物が出来上がる。しかし、これはちょっと大きいんじゃないだろうか。
建物の横に井戸を掘る。井戸の下に水が見える。どうやら水脈はあるみたいだ。
「建物の外観は魔法でできるが、内装をやっていく必要がある。
で、ここらの木の剪定を兼ねて、切った木で内装をしてやる」
アロンカッチリアさんは、カイモノブクロを取り出して、中から大工道具を出した。
さっき、準備って言ってたのは、このことだったのだ。
「お嬢よ、これも渡しておく」
アロンカッチリアさんはカイモノブクロから剣を取り出した。
「さっき、いつもの剣を持っていなかったろう。なにかやったなと思ったんだがどうだ?」
「ここに来る前、フェンリルと遭遇して、剣を潰してしまいました」
「何、フェンリルだと。よくそれで無事だったな」
「ええ、運が良かったです」
「兄ちゃん、お前にもこれをやるよ」
アロンカッチリアさんは、もう一本剣を取り出すと俺に渡してくれた。
ミュが貰った剣と同じ剣だ。鞘から抜いてみるとかなり重い。使えるだろうか。
「まあ、兄ちゃんがそれを使えるようになるまで、木刀で1年は素振りが必要だろうがな」
ミュと同じ事を言われた。だが、俺にとっては初めての剣だ。
まだ、使いこなせないけど、ミュとエリスという家族を守らないといけないという想いだけは涌いてくる。
アロンカッチリアさんは、ここに泊まり込んで寄宿舎を造ってくれることになった。
おんぶに抱っこでは悪いので、夜に出来上がるまでの食料を持ってくることにした。
まだ、時間はあったので、手伝いをすると言ったが、「素人なんてじゃまにしかなんねぇ。さっさと帰って子作りでもしろ」と言われた。
「子作り」の言葉に反応したのはミュとエリスだ。
二人とも顔を赤くしている。
「私たち、女神と悪魔だから、子作りなんてしません」
エリスよ、たぶんそれは言わない方がいいと思うぞ。
「ほう、あんたら子作りしねぇのか?じゃ、何作ってるんだ?」
「えっ、えっと、えっと、そ、そうよ、未来よ、未来を作っているわ。それとちょっとだけ子作りと……」
最後は声が小さくなっていく。
「ほう、未来ねー、その未来ってのは子供なのかい」
アロンカッチリアさんは「子作り」と言わせたいらしい。
「子供も、大人もみんなの未来よ」
「ははは、みんなの未来か、そう言う女神さんのこと、俺は嫌いじゃねぇぜ」
「すでに私は夫の居る身、ご期待には添えられません」
その言葉でみんな大笑いだが、エリスだけはキョトンとしていた。
やっぱ、お前は駄女神だ。
来た道を歩いて帰る。
人がいない所までなら飛んでもいいが、天気も良いので話しながら歩いて帰ることになった。
相変わらず、ミュとエリスは二人でおしゃべりをしていて、「ウフフ」とか「ホホホ」とか聞こえる。
話題は主に俺の事らしい。
家に帰り着いた時、教会の鐘が4つ鳴った。夜にアロンカッチリアさんに食料を届けなけばならないので、市場に買い出しに行くことにする。
明日はアールさんに馬車を借りて、子供たちを移動させよう。
アロンカッチリアさんが造った建物の方が雨風を防げるだけ、今のボロ倉庫よりいい。
子供たちの服も揃えないといけないし、家具だって必要になってくる。
新しい生活を始めるには、いろいろ必要となる物が多い。
そんな事を3人で相談していると日が傾いてきた。
ミュとエリスがキッチンに立って、二人で料理をしている。
その姿を後ろから眺めていると、二人に裸エプロンをして貰ったらどうだろうかと考えてしまう。いかん、ただのスケベオヤジだ。
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