第16話 お針子さん
お母さんはお針子さんで、服を作っている。
ここでは、魔法が使える女性は冒険者か魔導士になることができるが、魔法が使えない女性には仕事口はそんな多くない。
お針子さんは女性が就く仕事ナンバー1である。
ソウちゃんのお母さんもお婆さんもお針子さんであるし、反対側のシムカさんとそのお母さんもお針子さんだ。
ここ辺り界隈は、お針子さんをやっている家が多い。
お母さんに聞いてみる。
「こういうデザインの服は作れないですか?」
「ええーと、サイズ的にはどうします?」
「ミュに着せようと思いますので、ミュのサイズで」
「分かりました、後から採寸しますね」
どうやら、やってくれるらしい。
お母さんが、ノートを持って行こうとした。
「お母さん、それ私が貰ったの」
アイラちゃんはちょっとお冠だ。
「ごめんね、アイラちゃん、服ができるまで貸してくれるかな」
「ええっ、しょうがないなー」
ミュに後でアイラちゃんの家に、採寸に行って貰うことにした。
費用は銀貨2枚ということだったが、こちらの世界では物価自体が安いので、銀貨2枚はそれなりの価格だ。
アイラちゃんデザインの服の左胸に、小さなポケットを付けてくれるように頼んだ。
1週間後、アイラちゃんのお母さんから服が出来たという連絡があったので、受け取りに行く。
ちょうど裏庭にいた反対の家に住んでいるシムカさんも誘ってみると、ふたつ返事でついてきた。
アイラちゃんの家で、ミュに着替えて貰う。
俺たちは、リビングでミュの着替えが終わるのを待っている。
着替えが終わったミュが、隣の部屋から姿を現した。
うん、綺麗にイヴニングドレスだ。
腰のあたりが幅広の紐ベルトで締められていて、後ろのところで結んである。
その結んだところが、大きなリボンになっている。
色は全部黒だ。
そういえば、この世界では黒以外の服を見たことがないな。
全身が現れた瞬間、女性陣から歓声が上がる。
「「「「きゃー、きれい、すてきー」」」」
ノースリーブで、胸元もちょっと開いている。
俺はミュに近づくと、目立たないように作って貰ったポケットに野ばらを刺した。
野ばらはミュの名前、ミュ・ローズ・サインからだ。
黒いドレスに淡いピンクがアクセントになった。
ミュはスタイルがいい。
それが、すっきりとしたドレスを着ているので、まるでモデルのようだ。
ピンクの野ばらがミュの美貌を引き立てる。
「うわー、ほんときれいだわ、でも、あたしには無理」
お婆さんの意見である。
でも、それ以外の女性はもう心ここに非ずだ。
アイラちゃんも目と口を丸くして、ミュを見ている。
「どうだい、アイラちゃんのデザインした服がこんな形になったんだ」
「う、うん」
アイラちゃんは声も出ない。
「アイラちゃん、もっといろんな服をデザインしてみないかい?」
その言葉に皆の目が、俺に集中する。
「えっ、アイラの絵を服にするんですか?」
「ええ、製造はお母さん達にお願いしたいんですが」
「でも、どこで売るんですか?」
「ミュの店で売ろうかと思います、ミュいいよね?」
「はい、ご主人さまが、よろしければ」
「ところで、色は黒しかないんですか?」
「あと、白がありますが、白は透けるので夏場はお勧めしません、冬だと重ね着するので白でもいいのですが、仕事をすると汚れるので、着ている方は大体高貴な方たちです」
そうか、白で作って部屋着としてミュに着せよう。
夜が楽しみになってきた。ピンク脳でよからぬ事を考える。
「分かりました、とりあえず黒のみで作りましょう、あと、ウェストの部分をもう少し大きくして、誰でも着れるようにして貰えますか」
「はい、それは可能です、汎用品と考えればいいのでしょうか?」
「はい、それで結構です。1着作るのは大体1週間ですか?」
「そうですね、一人で作業をするので、それぐらいかかります」
「それではどうでしょう。ここにいるシムカさんのところと共同で作って貰えませんか」
「それでも私とお母さん、シムカさんのところも同じなので、1週間で4着ですね」
「いえ、1週間で10着、作って頂きたい」
「「ええっ、そんなの無理です」」
聞いていたシムカさんも同じように声を上げる。
「そう不可能ではないと思います。これからやり方を説明します。
服は全て同じサイズの物でいいです。同じ物を10着作ります」
「次に作業を分担します。服を裁断するのは、専属で裁断のみやって貰います。
最初は、縫う作業が無いので、最初だけはみんなで裁断しますが、縫う段階になった時点で分担します。
裁断する人と縫う人ですね」
「縫う人も服の人と紐ベルトの人と別れます。服は服だけ、紐ベルトは紐ベルトだけ作る訳です」
「裁断する布地がなくなったら、今度はみんなで縫う仕事だけやります。裁断した人は紐ベルトの製作になった方がいいでしょう」
「どうです、分業制でやってみませんか?」
「は、はあ、やれるでしょうか?」
「やれると思いますよ。1着、銀貨2枚で10着で20枚お支払いします。4人で分けて、一人あたり銀貨5枚でどうでしょうか」
一週間で銀貨5枚だ。今まで銀貨2枚だったのが倍以上になる。
銀貨5枚と聞いただけで、全員顔を見合わせていたが、
「分かりました、やってみます」
やってくれる事になった。
ただ、10着分の生地というと納期に2,3日掛かるということで、1週間よりちょっと多い7日で仕上げることになったが、元の世界から来た者にとっては7日が1週間なので違和感はない。
分担はシムカさんが裁断と紐ベルト、あとの3人が仕立てということになった。
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