第15話 妻

 風呂から上がり、ベッドの中に居ると灯りを消したミュが黒いドレス姿で入ってきた。

 ゆっくりとした動作で、ベッドの中に入ってくる。

 暗いので顔は良く見えないが、きっと顔を赤くしているのだろう。

 ベッドの中に入ってきたミュは、なんだか震えていて小動物のようだ。

「ミュ」

「はい」

 割としっかり答えた。

「今から、お前を妻として抱くからな」

「はい、よろしくお願いします」

 ミュの顔を両手で挟むと優しくキスをした。


 ミュとの共同作業が終わって、ミュが落ち着いてきたので聞いてみる。

「ミュは毎回気を失うけど、そんなに満足しているのか」

「そうなんです、毎回すごく満足しています。ご主人さまと一緒だと、何だか心が満たされるのが分かります。

 それに、ご主人さまの精が、とっても美味しいっていうのもあります。

 だから、ご主人さまの精をいっぱい下さい」

 どうやら、女神さまに貰った力は、悪魔に対しても有効なようだ。


 しかし、精が美味しいって、どうやって分かるんだ。

「精が美味しいって、どういうことなんだ」

「ご主人さまの精の中に小さいけど生がいっぱいあるんです。その小さな生がちょっとずつ違って、美味しいといった感じです」

 ミュよ、お前は精子の生まで吸い取るんかい。

 生を吸い取られた精子が、どうなっているかと考えるとちょっと怖い。

「でも、私は悪魔なのに、幸せとか愛とか知ってもいいのでしょうか?

 私、だんだん悪魔じゃなくなっていくんじゃないかと心配です」

「ミュは、悪魔のままでいたいのか」

「正直、悪魔の力は魅力です。ご主人さまも守りたいし、生活のためにもお金を稼ぐためにもこの力は有効です。

 でも、このままだと、ご主人さま共々、人間族に追われるかもしれません。

 それに私、ご主人さまの赤ちゃんが欲しい」

 ええっ、衝撃発言。


 子供かー、当然結婚すると子を作って、お父さん、お母さんになって年をとって死ぬんだよな。という事を考えてみる。

 隣のソウちゃんとアイラちゃんの顔がふと頭に浮かぶ。あんな子ができるのかな。

「悪魔のままじゃ、子供は出来ない?」

「ええ、ご主人さまとの子供はできません、でも、ご主人さまへの忠誠が魔石になって、魔石で子供ができます」

「俺はそれでもいいよ」

「でも、それだと大体100年ぐらいかかります」

 うん、無理だね。

「俺にはミュがいれば、それで充分だよ」

「私もご主人さまが居れば、これ以上何もいりません、これ以上の幸せを望むと、それがなくなった時を考えるのが怖いです」

 ミュをギュと抱きしめた。

 そしてそのまま今日も二人、抱き合って眠った。


 ミュとは喧嘩をしない、いつも違う意見が出たときは「ご主人さまのご指示のままに」と言って、ミュが譲ってくれるのだ。

 ミュは人間の女の子より男を立ててくれる。


 俺がこっちの世界に来て、そろそろ1か月になる。

 その間、魔物は2匹狩りに行った。

 アロンカッチリアさんは相変わらず俺のことを「おい」としか呼んでくれないが、それでも、最初の頃よりは距離が縮まった気がする。

 剣の方は相変わらず形ばかり練習している。

 魔法の練習はまだ始めていない。

 まずは剣からというのが、ミュの意見なので、その意見に従う。

 そして、春もそろそろ終わりに近づいてきて、服装も軽装になってくるかと思ったが、女性も男性も服装は対して変化がない。

 こちらは服の値段が高いので、そうそう服も持っていないのだ。だから、衣替えというのもないらしい。

 ミュにそれを言うと、

「冬は服を重ね着しますから、それほど寒くありません、夏は重ね着の数を減らします」

 とのことだった。

 そういうものなのか。


 この1か月で服以外に変わったことはソウちゃん、アイラちゃんと仲良くなったことだ。

 特にアイラちゃんは「シンヤお兄ちゃん、シンヤお兄ちゃん」と呼んで懐いている。

 シンヤおじさんと呼ばれなくて良かった。ちょっと安心。

 いつものように剣の練習していると、アイラちゃんが出てきた。

「シンヤお兄ちゃん、おはよう」

「アイラちゃん、おはよう、今日は何の絵を描くんだい」

「お洋服」

 そういうと、いつものように地面に絵を描きだした。

 見ていると、イヴニングドレスのようだ。なかなかの才能じゃないだろうか。

 そういえば、転生の時に学用品が入ったバックを持っていたっけ。

 家の中に入り。ノートとシャーペンを持ってきた。

「アイラちゃん、そのお洋服の絵をこっちに描いてみてくれないか」

 そう言って、ノートとシャーペンを渡す。

 最初は使い方が分からなかったみたいだが、ノックして芯を出して使い方を教えるとノートいっぱいに描きだした。


 そうしていたら、ソウちゃんも出てきた。今日はソウちゃんが洗濯の当番みたいだ。

 ソウちゃんは洗濯物を干して、アイラちゃんに聞いてきた。

「どうしたのこれ?」

「シンヤお兄ちゃんに貰った」

 いや、あげてないんですけど、うう、まっいいか。

「こんな珍しいもの、どうもすいません」

 ソウちゃんが、お礼を言ってきた。

 ノートを見ているとドレスが出来上がった。

 なかなか、現代風のイヴニングドレスだ。

 アイラちゃんから、ノートを受け取るとソウちゃんに

「こんな洋服をお母さんは作れないかな?」

「えっ、お母さんがですか?聞いてみますね」

 しばらくするとお母さんが出てきたので、ノートに書かれた服のデザインを見せてみる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る