第17話 販売
ミュには早速作ったドレスで占い店に出て貰う。
「ミュ、今までは待合室から来て貰っていたけど、今日はこっちから迎えに行って貰ってもいいか」
「はい、分かりました」
俺は占い部屋の隣で待機している。
占いのテーブルにつくと、早速、客の女性が聞いてきた。
「そのドレスはどこで売っているんですか?値段はいくらですか?」
ミュには、予め教えてあったことを答えて貰う。
「販売はここでします。入荷は7日後です。価格は銀貨4枚です」
「ええっ、そんなに安く、ぜひ予約したいんですが」
「分かりました、では注文票を作りますので、お名前と住所を教えてください」
ここの人は文字を知らない人が多い。ミュが代わって注文票を作る。
「お代はドレスと引き換えでいいですよ。今の時間に来て下さい」
お客は占いもせずに帰っていった。
それは10人が10人全部注文していった。
注文できなかったお客には予約を受け付けることにしたが、今日だけで注文10着、予約5着が入った。
もともと占いに来る女性は懐が暖かいのだろう、ほとんどテレビ通販のような売れ行きだった。
翌朝、といっも昼に近いが、アイラちゃんの家に行ってみる。
シムカさんも一緒に作業をしていた。
「昨日の夜で10着完売です。予約も5着入ってます」
「ええっ、じゃさらに5着追加で作らないと」
「いえ、20着追加で作って下さい、それと知り合いの方で分業作業を手伝ってくれる人はいませんか」
「この辺りはお針子さんが多いので、多分声をかければいると思います」
「では、近所の方で分業できる方に仕事を出して下さい」
「作業量にもよりますが、銀貨2枚ぐらいでできる作業でいいでしょう」
「分かりました、忙しくなりそうですね」
ソウちゃんもお母さんの手伝いをしていて、みんな忙しそうだ。
アイラちゃんは相手にして貰えないみたいなので、声をかけてみる。
「アイラちゃん、別の服をデザインしてみないか?いくつか絵を描いて、アイラちゃんがいいなって思う服のデザインをお兄ちゃんに見せて欲しいんだ」
「う、うん分かった。でもまた売れるかなー?」
「販売の判断はお兄ちゃんがするから、アイラちゃんは皆が着たいって思うような服のデザインをしてくれればいい」
「アイラがんばる」
ミュにアイラちゃんの次のデザインの服ができた時点で、ミュの店の隣に洋品店を出したい旨を言ってみる。
「隣はちょうど空いていますし、いいと思いますが、売り子はどうしますか?」
「店の改修をしつつ、募集しよう」
新しい店舗のオープンを1か月後と目標を定め、工程を考える。
おっ、なんかビジネスマンのようになってきた。
ところで俺、大学は工学部だったっけ。
俺には開店資金がないので、全てミュに出して貰うことになるが、そのことをミュに言うと、
「すべてご主人さまのお金なので、遠慮なさらないで下さい」とのことで、思わずホロリとしてしまう。お前は山之内一豊の妻か。
直ぐにミュの占い店の隣の空き店舗を不動産屋から借り受け、改修作業を依頼した。
改修作業と同時に店の前に看板を出して、服屋であることの周知と従業員の募集の看板を出した。
商売をする上で字の読み書きは必須である。
看板の字が読めない人は正直困るので、読める人だけが来て欲しい。
そういえば、商人ギルドに登録してなかったので、早速登録することとした。
店の名前はミュと相談してミュのと俺の名前を合わせて「ミュ・キバヤシ」とすることになった。
こちらの世界では識字率は決して高くないが、商人ギルドに登録するとギルドが読み書きの教育をしてくれ、どこかに就職してからも定期的に教育の場が設けられるので、商人、工業人は意外と字が読める人が多い。
それは冒険者ギルド、農業ギルドも同じであるが、読み書きの時間は決して多くないし、当人たちも真剣ではないので、直ぐに忘れてしまう。
今回募集する売り子も恐らく商人ギルドに登録してあるはずであり、ある程度の読み書きはできると思っているが、それは面接のときに確認すればいいだけのことだ。
アイラちゃんが考えたデザインのうち、皆の意見も聞いて5点ほどを商品として売り出すことにした。
シムカさんたちと調整を取り、1か月間でそれぞれ10着ずつを用意して貰う。
サイズは1サイズのみだが、こちらの人は体系がバラバラということはなく、大体同じような体系をしているので、1サイズでも5割以上の確率で、合うはずだ。
もちろんある程度の手直しも可能である。
もし、体系上合わない人がいた場合、注文を受け付け約1週間で仕上げることにする。
ところで、この世界、ガラスがないのが不便だ。
マネキンに服を着せて、表に展示するという現代の手法が使えない。
ミュに相談すると「扉を大きくして中が良く見えるようにしましょう」ということで、対応することにした。
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