第9話 シーハの葉
「これって、昔の勇者か誰かが付けた名前なのか?」
「いえ、教会で使っていたのが、広まったという話ですが……」
教会の中に転生者がいるのだろうか、それとも勇者は教会関係者だったとか、うーん、今一、すっきりせん。
「そっか、で、どうやって使うんだ?」
「あっ、はい、こうやって、猪牛の頭の方から包み込むようにして被せていきますと、ほらすっぽりと入っていきます。入ると重さもほとんど感じません」
って、やっぱアイテムボックスじゃねーかよ。
よっぽど、四次元ポケットの方がネーミング的に良かったんじゃないか。
突っ込みたい、モーレツに突っ込みたい。
しかし、誰に突っ込んでいいものやら。
しかし、ミュは悪魔って言ってたけど、ほとんど秒殺じゃねーか。他の悪魔ってもっと強いのか。
人間族はよくそんなのと戦う気になったな、尊敬するよ。
「それじゃ、アロンカッチリアさんのところに戻って解体して貰いましょう。たぶん、この時間ですから、夜明け前には解体できると思います」
そういうと、俺とミュは来た時と同じようにキチンの背に乗って、洞窟の方へ向かった。
洞窟の前では、アロンカッチリアさんが待っていてくれた。
「はい、これ、今日の獲物です」
「おお、早かったな、夜明け前になると思ったけどな」
「運が良かったのかもしれません、水場のところで待っていたら、直ぐに現れましたから」
「そうかい、じゃ、直ぐに解体に取り掛かるかな。たぶん夜明け前には終わると思うぞ」
「はい、よろしくお願いします」
アロンカッチリアさんは、ミュのカイモノブクロを持って、洞窟の奥に消えていった。
ミュはキチンを洞窟に繋いでくるというので、ついて行ってみた。
それほど、遠くない洞窟の中に冊があって、そこにキチンを入れている。
「ご主人さま、時間があるので、シーハの葉でも採りにいきましょう、この近くに群生しているところがあるんですよ」
シーハの葉というのはA4用紙ぐらいの葉っぱで、この葉はスポンジのように水を吸うので、いろいろな使い道がある。
例えば、獲物狩りとかに持っていくと、ハンカチの代わりになったり、水を含ませてそれを飲んだりすることも可能だし、家では、ふきんやトイレットペーパーの代わりにもなる。
トイレットペーパーとして使うときは、水を含ませ、お尻を拭いたあとそのまま便器に捨てておけば、中の水性アメーバという生き物が分解してくれるそうだ。
ちなみに、エルバンテは豊富な水を使った水洗トイレで、浄化槽みたいなところに水性アメーバを飼っており、そいつが水の浄化をしてくれるため、下水なんかもきれいだ。
異世界なので、トイレとかは汚いイメージがあったが、科学が発達していない分、いろいろな生物と共生しており、現代社会も見習った方がいいかもしれない。
しかし、時計がないのは不便だ。時間は朝、昼、夕方、夜しかない。
待ち合わせなんか、昼に待ち合わせようと言ったら、昼の基準が個人個人で違うので、待ち時間が2~3時間もずれることになる。
こういうところは日本人には合わない、外国人なら当たり前かもしれないが。って、ここは外国どこか、異世界だった。
ミュに付いてしばらく歩くと、森が開けたところにシーハが群生している場所があった。
ちなみに、シーハは草である。
草の葉を手で刈り取って行くわけだ。
カイモノブクロは、さきほどアロンカッチリアさんに預けたので、代わりに持ってきた竹籠に採ったシーハの葉を入れていく。
「あっ、ご主人さま、私がやりますので、見ていてくだされば結構です」
「いやいや、お世話になっている身だからね。ちょっとぐらいはミュの役に立ちたいさ」
「ご主人さま……」
それから二人で竹籠がいっぱいになるまで、シーハの葉を刈った。
「それじゃ、そろそろ戻りましょう」
「ああ、竹籠は俺が持つよ」といってミュから竹籠を取って担ごうとしたが、これがかなり重い。
どうやら、夜になると夜露を吸ってシーハの葉が重くなったみたいだ。
俺が苦労していると、
「私が担ぎますね」
と言って、ミュが竹籠を取って軽々と担いだ。
ミュさん、あんたいったい何者?
来た時と同じような軽い足取りでミュは来た道を帰っていく。
俺は屈んだ状態でシーハの葉を採ったせいで若干腰が痛い。
洞窟の前に来て、ミュがアロンカッチリアさんを呼ぶと中から声がしてアロンカッチリアさんが姿を現した。
「まだ、前の肉があるから、今回は全部カイモノブクロの中に入れといた。シーハの葉も入れるか?」
「ええ、そうします」
ミュは渡されたカイモノブクロにシーハの葉を入れて、
「ありがとうございました、アロンカッチリアさん、また来ますね」
「ああ、待ってるよ、そっちの人間は待ってねーがよ」
うっ、どーせ俺はヒモですよ、魔物狩りだって何の役にも立ちませんでしたし。
ミュは右手にカイモノブクロ、左手に俺を抱えると、翼を出して空中に舞い上がった。
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