第8話 キチン

「ミュ、ここからどうやって行くんだ、また飛んで行くのか」

「えっと、猪牛を探しながらだし、飛ぶと見つけにくいので、ここからは地上を移動します」

「歩いて行くということか」

「いえ、ここにキチンを置いているので、それに乗って行きます」

「えっ、チキン?美味しいのか?」

「いえ、チキンではありません。キチンです」

 と、言うとミュは、別の洞窟からキチンと言われる動物を連れてきた。

 てっきり、にわとりだと思っていたが、目の前に現れたのはダチョウだ。

 ダチョウだけど大きい。動物園で見たダチョウの3倍から4倍はある。

 そのダチョウには手綱がついていて、馬のように操れるようになっている。

 背中の位置が俺の身長以上に高い、これどうやって乗るんだよ。

「では、乗りますね」

 そう言ってミュは俺を抱きかかえた。

 バサっという音と同時に空中に上がってそのまま、キチンの背中に乗せてくれた。

 うひょー、高けー、これ、降りる時も自分一人では降りれねーぞ。

 キチンに乗った時点で、翼と尻尾は閉じたようで、しがみ付くのにじゃまにはならない。

 ミュは俺の前の位置に座ると手綱を取って、

「出発しますね、しっかりと掴まっていてください」

 と、言って走り出した。

 ミュの腰に手を回し身体を密着させるとミュがキチンを加速するが、二足歩行のため乗り心地は悪い。

 揺れが凄いのだ、もう必死にミュにしがみつく。

「ご主人さま、もっと上のほうを掴まって貰ってもかまいませんよ」

 ミュさん、アンタ、別のところを揉んで貰いたいんじゃないだろうな。


 時間にして20分ぐらいだろうか、キチンを走らせていたが、急にミュがキチンを止めた。

「ここらに水場があるので、ここで待ちましょう」

 暗闇の中、キチンを降り、ミュと二人で木の陰に隠れる。

「ふふっ、ご主人さま、さっきはありがとうございました。私とっても嬉しかった」

「え、さっきの事って?」

「ミュを一生大事にするって言ってくれましたよね。もう泣きそうなくらい嬉しかったです」

 ああ、そんな事言ったなー、でもなんだか嫌な気分じゃない。実際、そのつもりだし。

「当たり前じゃないか、今更、何を言ってるんだ」

 暗闇で顔は良く見えないが、目だけ紅く光っている。

「ミュ、お前の目が紅く光っている」

 ミュの瞳は紅い。ベッドの中では不思議に思わなかったが、今この場所で見ると異様だ。

 まるで、獲物を狙う獣の目だ。

「はい、今獲物を見るため、暗視モードで見ています」

 暗視モード、なにそれ?スナイパーか。

 ベッドの中で暗視モードじゃなかったということは、俺はベッドの中で獲物として認識されていなかったということなのか。ちょっと安心。

「あ、どうやら獲物が来たみたいです。ほら、向う側に見えます」

 いや、向う側って言っても暗闇だけだし、ぜんぜん見えん。

「ミュには見えるのか、俺にはぜんぜん見えないんだが」

「どうやら、このまま水場に行くようです。水場のところに広い場所があるのでそこで狩りましょう」

 俺たちは気づかれないように、後をつけて行った。


 月灯りに照らされ、猪牛が水を飲み始めたのが見えて来た。

 猪牛とはよく言ったもので、体はバッファローのような感じだが、頭は完全に猪である。

 しかもサイぐらいの大きさがある。

 後から聞いた話だが、性格はとても狂暴だそうだ。

 猪牛が水を飲んでいるところがチャンスとばかりに、ミュが50m位のところに飛び出した。

 瞬間、向こうも気が付いたようだ。

 一瞬、どちらも固まるが、猪牛が鼻息を荒くして前足で土を掻き出し始める。

 まるでスペインの闘牛のような動きで、今にもミュの方に走り出しそうだ。


 ミュは右手の剣を頭上に構え、左手を前に出している。

 猪牛が猛然とダッシュしてきた。

 このままミュに体当たりするつもりだろう。

「サンダーアロー」

 ミュの左手から雷の矢のようなものが猪牛に突き刺さる。

 猪牛はその瞬間、コテンと、ほんとにコテンとひっくり反ってそのまま動かないでいる。

 ミュは素早く猪牛に近づくと、いきなり、その胸あたりを剣で切り裂き、心臓のあたりに手に入れて、何かを探している。

 見ていてあまり気持ちのいいものではないが、それは俺が現代人だからなのであろう。こちらの人間からすれば、ごく当たり前の行為なのかもしれない。

 しばらく、猪牛の体内を弄っていたミュだが、何か取り出したのが分かった。

「ありました、ご主人さま、魔石です」

 水で腕と魔石を洗ってこっちに持ってきてくれた。

 近づいて見てみると、黒光りするピンポン球ぐらいの大きさの石を持っていた。

「猪牛の魔石は魔道具の動力源に使えますから貴重なんです」

「これで、どれくらいの期間、使えるんだ?」

「そうですね、大体10年です」

 おお、すげーこれで動力10年分かよ。

 まるで、原子力発電みたいだが、放射能はないだろうな。

「ミュ、放射能はないだろうな?」

「は?放射能ってなんですか?」

「ああ、いい、忘れてくれ」

 やはりないようだ。


 しかしでかいので、どうやって持って帰るんだ?

「ミュ、これをどうやって運ぶ?」

「はい、これがあります」

 と、言うとポケットから袋を取り出した。

「おっ、これって、アイテムボックスっていうやつだな」

 俺は異世界もので出て来るワードを出してみた。

「いえ、カイモノブクロっていう物ですが……」

 へっ、カイモノブクロ?

 なんだそれ、誰のネーミングだよ。

 昔転生されてきた、勇者か誰かがつけたんじゃねーか?

 なんつーセンス、アイテムボックスにしとけよ。

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