サブスクと映画秘宝の話

 最近はスピッツやL'Arc~en~Ciel、坂本真綾さんなどの大物アーティストの音楽解禁などでよく話題にのぼる『サブスク』という言葉。もはやご存知でない方も少なくなってきたと思います。


 会員に登録し一定の月額料金を払えば、映画やアニメなどのコンテンツを見放題・音楽ならば聴き放題となることで近年急速に勢いを伸ばしているのが『サブスクリプション方式』です。


 Amazon Prime Video、NETFLIX、Spotify、Apple Musicなどが有名です。国内ですとdアニメストア、バンダイチャンネル、TSUTAYAプレミアムなどがありますね。出版関係ですと雑誌読み放題サービスのdマガジンといったものも存在します。

 コミックではアダルトの分野が進んでいて、Komifloが先行しているほか、最近になって旧DMMアダルト部門であるFANZAさんも読み放題サービスをスタートさせました。


 もはやこうしたサービスの恩恵をまったく受けないことが考えにくいほどの勢いを感じます。

 


 そこに出版の大手で、自社でBOOK WALKERという電子書籍サイトを持っているKADOKAWAさんが文庫・ライトノベルで読み放題サービスを始める、というニュースが話題になりました。


 その名も『角川文庫・ラノベ読み放題』という、非常にド直球なサービスが2019年12月にスタートしました。月額800円で1万冊以上が読み放題、というのが謳い文句のようです。


 読み放題対象には『この素晴らしい世界に祝福を!』や『ソードアート・オンライン』といった現在進行系で大人気のタイトルや『ゼロの使い魔』『灼眼のシャナ』といった名作タイトルも並びます。


 ちょっとぶ厚めの文庫1冊かそのくらいの値段でそれだけのコンテンツが読み放題ならば活字中毒者にはたまらないのではないかと思います。



 いっぽう、サブスクならではの課題もあります。

 角川文庫・ラノベ読み放題に限らず、サブスクリプションという形態は運営側の裁量でいつでもコンテンツを公開終了できるものである、ということです。


 ある大物アーティストが薬物で逮捕されたとき、その方の所属するグループの楽曲が突如配信から消える、という騒ぎがあったのは記憶に新しいですね。


 見放題・聴き放題・読み放題サービスは消費者が直接所有している形ではないため、それまで何度も楽しんでいたものでも、ある日を境に触れられなくなってしまう可能性をつねにはらんでいるのです。


 そして万が一サービスが終了してしまったら何も手元に残りません。

 サブスクのみが発展していつしか現物が買われなくなってしまった時、二度と見られなくなってしまうコンテンツが出てくるかもしれない、そこが恐ろしいのですよね。そこがサブスクの致命的な弱点ですね。


 

 ただ、ライトノベルは人気作であるほど巻を重ねており、文庫本とはいえどいちから購入するにはそれなりのハードルがあるのは事実です。気になるんだけどいきなりシリーズを買うのはちょっと……まずは読んでから判断したい、という使い方にはまさにピッタリでしょう。


 これは私がしょっちゅう引用しているある方の受け売りですが、人は知っているものを買うのです。逆に言えば、知らなければその人にとって存在していないに等しい。残酷かつこのうえなく単純な理屈ですが、どんな作品でもまずは多くの人に知ってもらう必要がある。そのための入り口として、いまサブスクという形態が選ばれているのだと思います。海賊版対策という側面もありますが……


 新刊を買ういっぽうで、名作をサブスクで読み、気に入ったら一気買い……といったようなサイクルがうまく機能できればいいですね。


 サブスクは膨大なコンテンツ点数をかき集めなければいけないという点から、もはや大手以外は実質参入不能な形態。乗り出したくてもできない、というところも多かろうと推察できます。そのような意味において、特にライトノベルにおいて大きな存在感を放つKADOKAWAさんからこのような試みが出てきたということは歓迎すべきだと思います。



 そして昨夜、ちょっと業界にとっては重要なニュースが流れてきました。

 『このラノベがすごい!』といったムック誌や『Smart』『Sweet』などの月刊誌で知られる宝島社さんが、子会社の洋泉社さんを来年2月に吸収合併するということです。


 洋泉社さんは新書やムックなど、宝島社さんと持ち味の似た会社ではあったのですが、ニュースとして特に重要なのは、合併にともない映画誌として有名だった『映画秘宝』が休刊の予定である、ということです。


 『映画秘宝』は古くから続く『キネマ旬報』や海外映画の『SCREEN』と並んで映画誌として有名で、特に『SCREEN』とは必ずセットで陳列することでもよく覚えていました。

 私映画に関しては本当にズブの素人ですけど、『映画秘宝』は正統派の『キネ旬』と比較してエンタメ性、B級感重視のイメージがありましたね。


 

 雑誌の売上そのものが大きく落ち込んできているなか、出版社さんの間でも再編が進んでいるということなのでしょうか。


 上でチラッとdマガジンさんを取り上げましたが、雑誌ももはや買って読むものではなくサブスクリプション──会員制サービスで読むものとなりつつあるのかもしれないですね。

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