電子書籍化に乗り出した宝島社について脱線気味に語ります

 かつては書店を守る立場から電子書籍にかたくなに反対していた宝島社さんが、『響け! ユーフォニアム』シリーズや『異世界居酒屋 のぶ』などの電子書籍化に踏み切る、というトピックスが流れてきました。


 紙の本は年々売り上げを落としており、それに追い打ちをかけるかのように、昨今は紙の値段そのものも上がっていると言います。

 そうした状況もあって電子書籍の存在感が増している状況を考えれば、流石に時流には逆らえなかったのかなと寂しさを覚えますが、特に若い世代を中心に歓迎されるでしょう。

 新規の読者層を引っ張ってこれるかもしれない、とプラスに捉えたいところです。


 プライドや義理のために暖簾まで下ろしていただきたくないのでね。

 臨機応変に、さまざまな取り組みをなさっていただければと思います。


 

 宝島社さんといえば『ネット小説大賞』に参加し書籍化作品も輩出していることから『小説家になろう』ユーザーさんのほうがはるかに馴染みがあるでしょうね。

 また、毎年恒例となっている『このライトノベルがすごい!』(通称・このラノ)を思い浮かべる方も少なくないでしょう。


 もともと宝島社さんは雑誌業界でとりわけ有名であり、特に不定期刊行の『ムック誌』で非常に大きな地位を占めています。


 たとえば『艦これ』全盛期に、同作がモチーフとしている太平洋戦線について解説したムック本を出していたりしています。


 その時その時の流行や重要なトピックを薄めの雑誌としてわかりやすくコンパクトにまとめる、という手法を得意としているので、『このラノ』などにおいても強みが大きく発揮されているといえると思います。



 宝島社さんは、『Sweet』に代表される「付録つきファッション誌」で一躍業界を席巻した版元としても有名です。


 雑誌担当時代に、新雑誌創刊に先立っておこなわれた説明会に出席させていただいたことがあります。具体名は申し上げませんが、今でも発行が続いている雑誌です。


 『イヴ・サンローラン』や『アニエス・ベー』『ANNA SUI』等の有名ファッションブランドとコラボした付録をつけたムックでも大きく売り上げを伸ばしました。


 付録商法は関係者のあいだでも評価が分かれると思いますが、売り上げに寄与したというのは事実であり、「書店といえば本を置くところである」といったイメージを打ち破ったという意味で革命的だったと思います。


 近年の出版不況と呼ばれている現象は書籍よりも雑誌の減少分のほうが圧倒的に大きいのですが、宝島社的雑誌商法が確立されていなければ今よりもさらに歯止めがかかっていなかったであろうことは想像に難くありません。



 スキあらば自分語りを失礼いたしますけれど、思春期の頃、うちのお父さんが保管していた『宝島』を盗み見ていました。おマセさんです。


 かつて『宝島』というビジネス誌があったのですが……


 それより前、90年代の『宝島』は、『スコラ』って言って今の子には絶対通じないと思うのですが……

 要するにお姉ちゃんのえちえちな写真が載っているような、いわゆるグラビア誌だった時代があったのですよ。


 今はもう処分していると思うのですが、ほぼ毎号ぶんうず高く積まれていたので、もし残っていれば今となってはかなり貴重かもしれません。


 私はそこに載っていた『VOW』って読者投稿コーナーも好きでして。


 そのコーナーだけをまとめた本もあったのですが、なけなしのお小遣いで既刊新刊をいくつもかき集めていたほど好きでした。街のヘンなモノ、ちまたにあふれる誤植やネタ画像の数々に笑い転げてたりしました。


 現在ネットに出回っているネタ写真なども元はこの読者投稿発だというのも実は数多く、たとえば「オレたちは1+1で200だ! 10倍だぞ10倍」っていう、あるプロレスラーさんの言葉も、インタビューの切り抜きが『VOW』に投稿されたことで有名になったものと思われます。


 中学高校にかけて、学校に『VOW』を何冊も持ち込んではクラスのみんなに回し読みさせたりもしました。



 学校になんてものを!悪い子です。

 ※当コラムは授業に関係ない娯楽物持ち込みを推奨するものではありません



 「くだらね~!」と男子が笑うのを見るのが、当時は快感でした。自分だけしか知らないものでウケを取れることに喜びを見出していたのでしょう。

 ある意味では今につながっているのかもしれません。



 ゴホン。真面目なことも語りましょう。


 宝島社さんの前身である『JICC出版局』が出しておられた現代思想のガイドブックを図書館で借りて読んだのを非常によく覚えています。

 

 80年代に『ニューアカ』(ニュー・アカデミズム)と呼ばれる哲学・思想書ブームがあったらしいのですが、私はそれをひと世代かふた世代ぶん遅れる形で摂取していた時期があるんですよね。


 シニフィアンとシニフィエだとか。シミュラークルだとか。


 残念なことにあまり意味はわかってなかったと思われますが!


 今となってはあまり顧みられないそれらについて当時かなりの背伸びをしてまで触れていたことが、今それなりに血肉となっているのかなと感じることはあります。


 もちろん今なお大して理解できていないんだと思われますが!!


 そうした時期がなければ岩波文庫とかちくま学芸文庫だとかには一生触れることもなかったでしょうし、『千のプラトー』という難解で知られる哲学関連の文庫本がなぜか入荷したことに特別驚いたりすることもなかったでしょうから。借りようと思ったけれどあまりの分厚さに思わず尻込みしたことが思い出されて、売り場を見ては勝手に恥ずかしくなってました。


 この『JICC出版局』と現代思想についてはなんらかの形で語りたいとずっと思ってたのでこうした形で触れることができてよかったです。

 


 というわけで、きわめて無軌道に宝島社さんについて語るコラム、このへんで閉じることとします。



 これ、私だけが面白がってませんかね……? 大丈夫ですか……?



 これまでかたくなに電子書籍に参入してこなかった宝島社さんは古い体質の企業だ、というイメージを持たれていたら嫌だと思ったのが当コラムを書き上げた最大の動機です。

 電子書籍という分野では後発かもしれませんが、新しいものを取り入れようという姿勢はむしろ出版業界全体で見ても旺盛なほうだと私は思います。

 電子書籍分野でのご活躍をお祈りいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る